広島で暮らす弟が、仕事でこちらに泊りがけで来ていると連絡があったので、仕事の帰りに実家に顔を出した。
今年の正月にも実家に帰ったのだがすれ違い状態だったので、会うのは半年ぶり・・・いや、1年ぶりか。
家に入ると、弟はすでに仕事から帰宅していて、「オレも今、帰って来たとこ」とワタシに告げた。
弟は、水道工事の会社に勤めている。
日焼けした顔に、少し汚れた作業服に、これまた少しくたびれた顔。
当たり前かもしれないが、大人になって弟と会うのは決まって休日の時なので、平日の弟を眼にするのは物珍しく感じた。
食卓では、母が弟の夕食を準備していた。
刺身と味噌汁とサラダとイワシの素揚げと、缶ビール。
「あんたも、食べて帰りんさい」
と、母がワタシに言う。
しかし、安易にそうは出来ない。
家では仕事から帰宅しているであろう妻が、もう夕食の支度を始めているかも知れない。
しかし、眼の前に並んだ美味そうな料理にお腹が鳴りそうになり、思わず唾を飲み込む。
ワタシは、その場でスマホを取り出し、実家で夕食を食べて帰ることを妻に詫びた。
しかし、もう一人分あるのかよ?
母に尋ねたら、「大丈夫、大丈夫」と、少し嬉しそうな顔つきで、ものの10分足らずで同じ料理を食卓に並べた。
帰宅後に速攻で浴室に向かった弟が風呂から出て来るのを待って、3人で夕食。
箸で母の手料理を突きながら、他愛もない会話。
それぞれの家族のこと、仕事のこと、体調のこと、親戚のこと、友人のこと、近所のこと、父のこと・・・そんな話が、生まれては消えて、生まれては消えて。
ふと、思う。
それぞれの子どもや妻を交えず、母とワタシと弟・・・つまり、純粋にこの家で生まれ育った“最初の家族”だけで、こうやって食事や話をするなんて、いったい何年ぶりだろう。
ちょっとむず痒いような、恥ずかしいような、懐かしいような。
最近では珍しく長い夕食になった後、玄関に移動して、扉を少し開けて、弟と一服。
すると、押し入れの奥から灰皿を引っ張り出してきた母が、ワタシと弟の元までやって来て、こう言った。
「あんたらもいい歳なんだから、そろそろやめなさい、もう、ホントに兄弟揃って」
文字にすると強い口調に感じるが、その言葉を口にしている母の顔は、呆れながらも少し笑顔に見えたのは、ワタシの思い過ごしだろうか。
母の差し出した灰皿を、ワタシが受け取る。
その灰皿が、元気だった頃の父が愛用していた灰皿だったと気づくのに、ワタシも弟も時間はかからなかった。
午後9時過ぎに、実家を後に。
「明日も頑張って」
玄関で靴を履こうとしていたワタシに、母がそう言い、そしてこう続けた。
「今日は、みんなで、ゆっくり話が出来てよかった」
明日は、久しぶりの雨らしい。
でも、昼過ぎには止む様子。
さて、明日も頑張るか。
今年の正月にも実家に帰ったのだがすれ違い状態だったので、会うのは半年ぶり・・・いや、1年ぶりか。
家に入ると、弟はすでに仕事から帰宅していて、「オレも今、帰って来たとこ」とワタシに告げた。
弟は、水道工事の会社に勤めている。
日焼けした顔に、少し汚れた作業服に、これまた少しくたびれた顔。
当たり前かもしれないが、大人になって弟と会うのは決まって休日の時なので、平日の弟を眼にするのは物珍しく感じた。
食卓では、母が弟の夕食を準備していた。
刺身と味噌汁とサラダとイワシの素揚げと、缶ビール。
「あんたも、食べて帰りんさい」
と、母がワタシに言う。
しかし、安易にそうは出来ない。
家では仕事から帰宅しているであろう妻が、もう夕食の支度を始めているかも知れない。
しかし、眼の前に並んだ美味そうな料理にお腹が鳴りそうになり、思わず唾を飲み込む。
ワタシは、その場でスマホを取り出し、実家で夕食を食べて帰ることを妻に詫びた。
しかし、もう一人分あるのかよ?
母に尋ねたら、「大丈夫、大丈夫」と、少し嬉しそうな顔つきで、ものの10分足らずで同じ料理を食卓に並べた。
帰宅後に速攻で浴室に向かった弟が風呂から出て来るのを待って、3人で夕食。
箸で母の手料理を突きながら、他愛もない会話。
それぞれの家族のこと、仕事のこと、体調のこと、親戚のこと、友人のこと、近所のこと、父のこと・・・そんな話が、生まれては消えて、生まれては消えて。
ふと、思う。
それぞれの子どもや妻を交えず、母とワタシと弟・・・つまり、純粋にこの家で生まれ育った“最初の家族”だけで、こうやって食事や話をするなんて、いったい何年ぶりだろう。
ちょっとむず痒いような、恥ずかしいような、懐かしいような。
最近では珍しく長い夕食になった後、玄関に移動して、扉を少し開けて、弟と一服。
すると、押し入れの奥から灰皿を引っ張り出してきた母が、ワタシと弟の元までやって来て、こう言った。
「あんたらもいい歳なんだから、そろそろやめなさい、もう、ホントに兄弟揃って」
文字にすると強い口調に感じるが、その言葉を口にしている母の顔は、呆れながらも少し笑顔に見えたのは、ワタシの思い過ごしだろうか。
母の差し出した灰皿を、ワタシが受け取る。
その灰皿が、元気だった頃の父が愛用していた灰皿だったと気づくのに、ワタシも弟も時間はかからなかった。
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午後9時過ぎに、実家を後に。
「明日も頑張って」
玄関で靴を履こうとしていたワタシに、母がそう言い、そしてこう続けた。
「今日は、みんなで、ゆっくり話が出来てよかった」
明日は、久しぶりの雨らしい。
でも、昼過ぎには止む様子。
さて、明日も頑張るか。