妻が苦しそうな声で訴える。
唾液が口に溜まって呼吸が苦しくなると、助けを求めて声を上げる。
口の中の吸引は難しくないが、気管の奥深くまで入れるのは慎重になる。
一日に何十回と吸引しなければならないが吸引したからといって
妻が安らかな表情になることは少ない。
それでも日に何回か眠りにつく時がある。
それは妻にとっても穏やかな時間に違いない。
妻の苦しげな声のもう一つの理由は卵巣肥大により胃や腸が
圧迫されているからだ。
お腹の大部分を肥大した卵巣が占拠し、残りのわずかな隙間に
胃や腸が追いやられてぎゅうぎゅう詰め状態になった。
そのせいで水分や栄養剤が入っていかなかった時期があったが
何かの具合でぎゅうぎゅう詰めの具合が少し緩んだのか、
現在はかろうじて注入出来ている。
しかし、注入する量や滴下速度、寝る姿勢によっては、おう吐や逆流が生じる。
常にお腹が張っている。
苦しそうな声が出た時は、手や足をさすったり揉んだりすることしかできない。