妻が旅立ちました。
2週間が経った。
介護ベッドのあった場所に小さな祭壇を作って貰った。
子供達と選んだ遺影が微笑んでいる。
介護していた時の習慣で今でも4:00には目が覚める。
線香を上げて手を合わせる。
「ごめんね」
妻が旅立ちました。
2週間が経った。
介護ベッドのあった場所に小さな祭壇を作って貰った。
子供達と選んだ遺影が微笑んでいる。
介護していた時の習慣で今でも4:00には目が覚める。
線香を上げて手を合わせる。
「ごめんね」
妻の衰弱が進んでいる。
酸素濃度の数値が80前半まで下がった。
先生の指示ですぐ業者が来て、酸素吸入機を設置していった。
妻は口呼吸なのでマスク式にした。
酸素流量を4ℓからスタートしたが酸素濃度を確認しながら
流量を調整している。
酸素濃度が80のときもあれば99のときもある。
最初の頃はそれに合わせて酸素流量も小まめにに増減させていたが
現在は妻の衰弱が著しくなったので最大の5ℓに設定している。
子供達とも話し合って最期は家で、と決めている。
覚悟はしていたつもりでも現実に酸素濃度や心拍数が低下すると
取り乱しそうになる。
頑張ってくれと祈るしかない。
訪問診療のクリニックを替えた。
10年近くお世話になった先生だったが、去年の秋頃に妻の症状が悪化した時の
対応に疑問があって、それからモヤモヤした感情が続いていた。
10年間には俺の命に関わる病気にも対応していたただき
感謝の気持ちでいっぱいだが、こじれた感情を元に戻すのは難しかった。
妻のことを思えばこのままでは良くないと考え、替える決心をした。
ケアマネさんに間に立ってもらい、無事、紹介状を新しいクリニックに
提出することが出来た。
妻の症状が改善することは期待出来ないかもしれないが、
気分的にはスッキリした。
妻が苦しそうな声で訴える。
唾液が口に溜まって呼吸が苦しくなると、助けを求めて声を上げる。
口の中の吸引は難しくないが、気管の奥深くまで入れるのは慎重になる。
一日に何十回と吸引しなければならないが吸引したからといって
妻が安らかな表情になることは少ない。
それでも日に何回か眠りにつく時がある。
それは妻にとっても穏やかな時間に違いない。
妻の苦しげな声のもう一つの理由は卵巣肥大により胃や腸が
圧迫されているからだ。
お腹の大部分を肥大した卵巣が占拠し、残りのわずかな隙間に
胃や腸が追いやられてぎゅうぎゅう詰め状態になった。
そのせいで水分や栄養剤が入っていかなかった時期があったが
何かの具合でぎゅうぎゅう詰めの具合が少し緩んだのか、
現在はかろうじて注入出来ている。
しかし、注入する量や滴下速度、寝る姿勢によっては、おう吐や逆流が生じる。
常にお腹が張っている。
苦しそうな声が出た時は、手や足をさすったり揉んだりすることしかできない。
理学療法士さん(以下「リハビリさん」)による新年最初のリハビリがあった。
妻にお茶を投与中だったが中断して施術が始まった。
以前は身体をほぐされて気持ちが良くなると途中から眠ってしまうことが
多かったが、最近は施術中に痰がらみが起こることが多い。
その時は俺が呼ばれて吸引する。
妻が車椅子に乗れなくなって数ヶ月が経つ。
CT検査、婦人科診察、胃瘻交換等で病院に行く時は介護タクシーを利用する。
俺と同年齢くらいの運転手さんが一人で来る。
俺がベッドに上がり、尿漏れ防止用に敷いてある防水シートごと
運転手さんと二人で声を合わせて妻を持ち上げ、ストレッチャーに移す。
なかなかの重労働だ。
ストレッチャーは大抵1社1台しか保有していないのと、資格を持った運転手さん
も少ないようで、予約を申し込んでもすぐは確保できないらしい。
(予約の申し込みはケアマネさんにお願いしている。)
デイに行くことが出来ないので俺の行動も制約を受けている。
リハビリさんに、新年の目標として妻が車椅子に乗れるようになってほしいと
伝えると、すぐに案を出してくれた。
まず、ベッドのギャッジアップで徐々に身体を起こすことに慣らしていき、
次にベッドの端に腰掛けるようにし、それから車椅子に乗れるようにする、
という納得のプランだった。
しかし、妻には卵巣肥大という病気がある。
手術が出来ないほどの大きさになっているという。
それが車椅子に座る姿勢にどのような影響があるか分らない。
痛みが出るかもしれない。
無理をせず、諦めず、ヤケを起こさず、辛抱強く、そして、
ゆっくりゆっくり取り組んでいくしかない。
妻がデイに行けなくなって3ヶ月になる。
ヘルパーさんが身体を拭いてくれているが毎日というわけにはいかない。
車椅子に座れなくなった妻がデイに行けるようになるのはいつのことだろうか。
在宅で入浴サービスを利用することもケアマネジャーさんから提案されている。
俺は俺で市役所での手続きや通院、散髪などどうしても
外出しなければならない用事がある。
妻を一人残して出かけることになる。
30分で戻る時もあれば1時間近くかかる時もある。
痰がらみが一番心配だ。
吸引する人がいないと呼吸困難になるかも知れないが、それを承知で
外出する。
またデイに行ける日が来るだろうか。
9月中旬に妻が38.0度の熱を出した。
イキみ、おう吐、発汗等の症状が続いた。
先生は特に検査をした訳ではなかったが尿路感染と診断した。
これを期に妻の体調に異変が起きた。
まず、とにかく水分を摂れということで、胃瘻から2500㏄投与した。
治療とはいえ、寝たきり状態の妻には苦行に思われた。
膀胱をエコーで見るとオシッコが溜まっているという。
先生は導尿カテーテルの設置を提案したが私はまだパットに排尿があることから
カテーテルには賛同しなかった。
1ヶ月経っても微熱が続き、今度は腸閉塞という診断が下った。
これも特に何か検査したわけではなく先生の経験に基づく診察だった。
病院での検査を強く要望してCTを撮った。
卵巣嚢腫だという。
段々と深刻な病名になってきた。
先生の経験によれば妻の回復は難しいらしい。
次々に変わる病名に先生に対する不信感が増してきた。
そして在宅介護の限界を感じ始めている。
病院ならば、施設ならば、妻を苦しめることもなかったかもしれない。
妻が38.0度の熱を出した。
ヘルパーさんが常時携行しているコロナの検査キットで調べると
陰性だったので一安心した。
水分不足も原因だったかもしれない。
そう思って水分補給を多めにするようにしたが、今度は
妻のオシッコの出が悪くなった。
お腹が張っている感じなので、先生がエコーで調べると
膀胱にオシッコが溜まっているらしい。
水分補給と排尿困難。
全く出ないわけでは無く、多い日もあれば少ない日もある。
先生からは導尿カテーテルの検討も打診されたがあまり気が進まない。
歳を取ると身体に不具合が生じるのは仕方が無いことなのだろう。
妻の胃瘻を毎月1回交換しているが、シャフト長を今までより5㎜長い44㎜の
ものに変更した。
設置時には余裕があったものが太ったことによりいっぱいいっぱいになってきた。
意思表示の叶わない妻に対し、少しずつ栄養過多になっていたのかもしれない。
今は栄養剤を一袋全部ではなく少し残すようにしている。
一方、俺も体重が増加しておりそのせいか血圧も高いままだ。
自分の意志でいかようにもなる俺こそ減量すべきなのに・・・。
妻の場合、食事は胃瘻からの投与だからあまり面倒なことはない。
介護のほとんどは排泄に関することだ。
それもヘルパーさんが1日3回来てくれるので俺自身がパット交換するのは
朝と夜の2回ほどで済んでいる。
夜、ベッドに横になってから朝までずっと眠ってくれてる時はいいが、
途中で目を覚ますときがある。
そういう時はパットが濡れているときなので交換してやると
やはり気持ちがいいのか再び眠りにつく。
ところがこっちの調子が悪いときは気持ちも身体も動かない。
・・面倒くさいな・・・ となる。
そして、スルーしてしまう。見て見ぬ振りをする。
なかったことにしてそのまま寝てしまう。
こういうのを「未必の故意」と言うのかも知れない。
翌朝、パットをみるとびっしょり濡れている。