56歳の秋、妻を初めて病院に連れて行き、診察の結果アルツハイマー型認知症と診断された。
この年の春頃から、自分で財布を箪笥に隠し、どこに隠したか忘れて大騒ぎする、
というアルツハイマーの常道を妻も歩んだ。
私はある程度、情報としてそういうことを知っていたので、
来るべきものが来たかと冷静に対応できた。
一緒に箪笥を探し、財布を見つけて「ここにあったよ」と妻に渡すと安心した顔を見せた。
しかし、想定外の事態が起きるとやはり驚き、うろたえた。
妻名義の郵便局の定期預金証書を破ったのだ。
幸い、二つに破いただけだったので、被害は軽かった。
それでも重要な証書なので、心配だった。
郵便局に二人で行き、破れた証書を見せ、解約を申し出た。
すると、鋭い追及を受けることもなく現金を渡してくれた。
内心ほっとしたことを覚えている。
また、その頃、妻は「自分にはお金が無い」と言って泣くことがあったので5万円を手渡した。
すると、お金を見て安心したような顔をした。
しかし、それもすぐ行方不明になってしまった。
箪笥を探しても見つからなかった。
まあ、家の中のどこかにあるのは間違いないから、そのうち出てくるだろうと、
あまり本気で探さなかった。
1か月位経った頃、誰も使っていない2階の子供部屋を掃除した。
ベッドの下に掃除機を伸ばすと何やら紙を吸いこむ音がした。
何だろうと紙片を手に取って見ると、ばらばらに裂かれた1万円札だった。
ああ、妻がやったな、と思った。
掃除機の吸塵パックをはずし、ちぎられた紙幣を集めた。
吸い込まれなかった分と合わせてジグゾーパズルを完成させるように1万円札を復元させた。
10片くらいに破かれていた。
同じ部屋の別なところには破かれた千円札が2枚分あった。
こっちはさらに細かく破かれていて、パズルの完成作業は面倒だった。
1枚はどうしても、ピースが足りなくて90%の復元率だった。
銀行の窓口で、「孫がいたずらして……」 と、
クリアファイルに挟んだ1万2千円を差し出した。
すると、にせ札の鑑定に1か月ほどかかります、本物であれば通帳に振り込みます、とのことだった。
そして、1か月余経って入金されていた。
なぜ妻がお札を破いたかは分からない。
この年の春頃から、自分で財布を箪笥に隠し、どこに隠したか忘れて大騒ぎする、
というアルツハイマーの常道を妻も歩んだ。
私はある程度、情報としてそういうことを知っていたので、
来るべきものが来たかと冷静に対応できた。
一緒に箪笥を探し、財布を見つけて「ここにあったよ」と妻に渡すと安心した顔を見せた。
しかし、想定外の事態が起きるとやはり驚き、うろたえた。
妻名義の郵便局の定期預金証書を破ったのだ。
幸い、二つに破いただけだったので、被害は軽かった。
それでも重要な証書なので、心配だった。
郵便局に二人で行き、破れた証書を見せ、解約を申し出た。
すると、鋭い追及を受けることもなく現金を渡してくれた。
内心ほっとしたことを覚えている。
また、その頃、妻は「自分にはお金が無い」と言って泣くことがあったので5万円を手渡した。
すると、お金を見て安心したような顔をした。
しかし、それもすぐ行方不明になってしまった。
箪笥を探しても見つからなかった。
まあ、家の中のどこかにあるのは間違いないから、そのうち出てくるだろうと、
あまり本気で探さなかった。
1か月位経った頃、誰も使っていない2階の子供部屋を掃除した。
ベッドの下に掃除機を伸ばすと何やら紙を吸いこむ音がした。
何だろうと紙片を手に取って見ると、ばらばらに裂かれた1万円札だった。
ああ、妻がやったな、と思った。
掃除機の吸塵パックをはずし、ちぎられた紙幣を集めた。
吸い込まれなかった分と合わせてジグゾーパズルを完成させるように1万円札を復元させた。
10片くらいに破かれていた。
同じ部屋の別なところには破かれた千円札が2枚分あった。
こっちはさらに細かく破かれていて、パズルの完成作業は面倒だった。
1枚はどうしても、ピースが足りなくて90%の復元率だった。
銀行の窓口で、「孫がいたずらして……」 と、
クリアファイルに挟んだ1万2千円を差し出した。
すると、にせ札の鑑定に1か月ほどかかります、本物であれば通帳に振り込みます、とのことだった。
そして、1か月余経って入金されていた。
なぜ妻がお札を破いたかは分からない。