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マリリンの映画日記

エッセイスト瀧澤陽子の映画ブログです!新作映画からオールドムービーまで幅広く綴っております。

『アルバート氏の人生』

2012年12月14日 | 映画

 

『彼女を見ればわかること』『美しい人』『パッセンジャーズ』と、ロドリゴ・ガルシア監督に惚れ込んでいる。。

男でありながら、なんで、こんなに女の深い心理がわかるのかと、本当に驚嘆してしまうのだ。

多分、世界中のどの監督にも表現することのできない、天才的な女性心理分析家と言っても過言でない。

ついに、ガルシア監督の最新作がやってきた。

『アルバート氏の人生』である。

19世紀のアイルランドを襲った飢饉と疫病。貧しさのどん底の中で、男としてしか生きる術のなかったアルバート氏を、ガルシア監督ファミリーのグレン・グローズが切なく演じている。

ここで興味深いことを発見したのだ。

極貧の社会の下で女が生きる延びるには、「春」を売ることが手っ取り早い。しかし、このアイルランドの大飢饉は、売春という稼業が成り立たないほど貧窮しているという発見なのだ。

女を買いたくても、男に買うお金がなければ、売春は成り立たない。

では、どうするか?女を売れないのなら、男として生きるだけなのだ。この二択が尋常でない当時のアイルランドの現実だったのかもしれない。

体力と知力という最大の武器を使って、アルバート氏はホテルのボーイとして働く。女とバレたら首になってしまうから、極力隠し通す。

いつしか、アルバート氏は自らを女であったことすら葬り去るように、無我夢中で働く。

小金を貯めて、やっと、貧しさから抜け出ようとする希望が持てた瞬間までも。

これは、女の自立の物語である。

世界中で生きる女の数だけ、その自立方法は千差万別である。

しかし、である。アルバート氏の自立ほどかくも悲しいものはない。

物語の中で、一瞬だけ、アルバート氏が同じような生き方をしてきた女友達とドレスを着て、海辺を歩くシーンがある。

女を取り戻した一瞬の、このぎこちない女たちのシーンに、女性であるならば、誰もが涙を流すに違いない。

 

2013年1月18日公開

【監督】ロドリゴ・ガルシア

【出演】グレン・グローズ  ジャネット・マクティア アーロン・ジョンソン

 


『人生の特等席』

2012年10月19日 | 映画

クリント・イーストウッドという名前が出ると、速攻、見たくなる。

この衝動はなんなのか?あの『グラン・トリノ』の感動が未だに覚めやらないからかしら。

81歳という高齢にも関わらず、作る映画、出る映画がパーフェクト。視聴者に決して損をさせない稀有な監督であり俳優である。

『人生の特等席』。いいタイトルだ。このタイトルで見たい気持ちは倍増してくる。何か、深い感動的なドラマがありそうだ。

そして、願わくば、『グラン・トリノ』を超える感動を与えてくれたら…。そんな大きな期待で試写を見た。

今回、クリント・イーストウッドは、あくまでも俳優として主演している。監督はクリント・イーストウッドが生涯ただひとりの弟子と認めたロバート・ロレンツ。『グラン・トリノ』や『インビクタス』の製作者でもある。

老いたメジャーリーグのスカウトマンをクリント・イーストウッドが演じ、長く疎遠だった娘との確執が、野球を通じて徐々に修復されていく物語だ。

私は、アメリカのメジャーリーグには疎いが、ニューヨークに行った時、メッツのホームであるシェイスタジアムで試合を見たことがある。

大勢のでっかい体のアメリカ人メッツファンに囲まれて、体の小さな私はつぶれそうになったけど、アメリカ人の野球熱は、かくも凄いもんだと、圧倒されていた。

将来性のある選手を発掘して、メジャーリーグの目玉にする、即戦力にすること。つまり、アメリカの野球の縁の下の力持ちがスカウトマンであったことを『人生の特等席』で教わった。

スカウトマンの力がチームの未来を決めているといってもいいかもしれない。

うーん、こう綴っていくと、私は映画そのものよりも、アメリカの野球のシステムに感動しているような気がする。

なんでかなと、考えた。

つまり、映画としては、キャッチーな魅力があるのだが、ストーリーがシンプル過ぎて、強烈なパンチは食らわなかった。

欲を言えば、登場人物の中に屈折したsomethingが欲しかった。

『グラン・トリノ』と比較してはいけない、あの感動をもう一度ではいけないと、つくづく思った。

『グラン・トリノ』とは別腹で見なければいけない。

とはいえ、最近見た洋画邦画があまりにも酷かったので、その中ではもちろん、もちろん、ピカイチの作品であることは変わりない。

11月23日(金)から公開

【監督】ロバート・ロレンツ

【出演】クリント・イーストウッド  エイミー・アダムス  ジャスティン・ティンバーレイク


『夢売るふたり』

2012年08月19日 | 映画

 

 

 

松たか子が素晴らしい。

松たか子を素晴らしいと思ったのは2度目。今回の『夢売るふたり』だけでなく、その前の『告白』だった。わが子を殺された教師が殺した生徒たちに復讐すると言ったストーリーなのだが、とにかく今の中学生に潜む魔性や残虐さをえぐりだし、そこに果敢に戦う教師の深い心理状態を不気味なまでに演じていた。

松たか子はこの作品から流れが確かに変わった。太宰治が「富士には月見草がよく似合う」と「富獄百景」の中で書いているが、松たかに子すれば、「梨園のサラブレッドには、復讐に燃えたり、陵辱された人間の気持ちや不信感であったりとかの、人間の心の深淵に迫った役がよく似合う」

今回の『夢売るふたり』は田舎から出てきた若夫婦が東京の下町の居酒屋で額に汗水たらし、一生懸命に働いているシーンから始まる。

妻がもちろん、松たか子で夫が阿部サダヲ。二人で営んでいるこの居酒屋はたいそうに繁盛していた。

しかし、不慮の事故から、火事が起こり、みるみるうちにこの居酒屋は全焼してしまう。

タイトルが『夢売るふたり』だが、若夫婦二人の夢が一瞬にして焼かれ、奪われたところから始まるのも皮肉なことである。

お金に行き詰った二人が計画したことは、夫を結婚詐欺師に仕立てること。妻の松たか子が夫の阿部サダヲに、寂しい独身女性をターゲットにしてお金をふんだくれと、プロ顔負けの結婚詐欺師に仕立てていく。

夫が他の女とセックスしている時でも、松たか子は冷笑している。

この松たか子の怖さったらない。

さて、なぜ、妻は夫を結婚詐欺師に仕立てたか?

それは妻という立場にたった女にしか分からない永久不変の苦悩ではないかと、私は思った。

完成披露試写会の時、西川美和監督が今回は徹底的に「妻」というものがどういうものであるかを描きたかったと言っていた。

西川美和監督の「妻」像は、あまりにも辛らつであまりにも悲しくてあまりにも寂しい。

しかし、これこそ嘘偽りのない真実の「妻像」だった。

この作品、多分、日本にだけで留まらないと思う。「おくりびと」のように、世界に伝染していくと確信している。

なぜなら、西川美和監督は世界のどの国にも共通するような永久不変の「妻像」を描いているからだ。

 

9月8日から公開


『ヘルタースケルター』

2012年06月28日 | 映画

沢尻エリカのお騒がせな私生活を一切無視して、この作品を見たほうがいい。

『ヘルタースケルター』の主人公りりこは、全身整形のトップスターである。「目ん玉と爪と髪とアソコ」以外は全部作り物である。凄い話だ。

こんなえぐい役をやれる女優は、沢尻エリカ以外の誰がいようか!

毒は毒をもって制すのか、今回の沢尻エリカの演技には、りりこという芸能界に君臨するトップスターの華麗さや醜悪さの裏にある実にはかなくもピュアで繊細な一面まで演じきっていた。

蜷川実花監督の色彩豊かなソフィストケートされた美しい映像。一点非の打ち所のない沢尻エリカの美しい顔と均整の取れたシンメトリーの裸体。

脇に回ったドン臭いマネージャー役を演じた寺島しのぶ、芸能プロダクションの調子のいい社長を演じる桃井かおりの圧迫感と存在感にも翻弄される。

目の前に広がるシークエンスそのものが、まるで、おとぎの国に行ったような、まるで、映像までを全身整形させてしまったような感じで、美酒に酔ったような心地いい余韻を残している。

『ヘルタースケルター』   沢尻エリカの代表作になるに違いない。

7月14日から公開

【監督】蜷川実花

【出演】沢尻エリカ  寺島しのぶ  桃井かおり  大森南朋  窪塚洋介

 


『ユナイテッド ミュンヘンの悲劇』

2012年06月18日 | 映画

なんというグッドタイミングだろう!

サッカー日本代表の香川真司くんが、ドルトムントから、マンチェスターユナイテッドに移籍が決まった。

まさにこのタイミングで「ユナイテッド ミュンヘンの悲劇」が日本で公開される。

私のマンチェスターユナイテッドのファン歴は5年くらいだから、まだまだ浅いほうだが、ロンドンに旅した時、ステイしたホテルがチェルシースタジアムの隣にあったことから、イングランドプレミアリーグに目覚めてしまったのだ。

本来なら、チェルシーを応援すべきなのだが、プレミアリーグの試合を観戦するうちに、マンチェスターユナイテッドの戦法、チームプレイ、各選手の計り知れないポテンシャルを秘めたこのチームの虜になってしまった。そして、26年間もユナイテッドの監督をしているファーガンソン監督の力にも敬服しているのだ。

エリック・カントナ、ベッカム、ポルトガル代表のクリスチャーノ・ロナウドを産み、、そして、現役ではウエイン・ルーニーという強靭なストライカーがいる。facebookで、私はマンチェスターユナイテッドとルーニーのファンになっている。

ユナイテッドの試合を見てしまうと、どのチームも色褪せて見えてしまうのも本音だ。

ということで、これだけ、ユナイテッドを熱く語る私だから、「ユナイテッド ミュンヘンの悲劇」を見た時、感動で号泣してしまった。

今でこそ、世界一のトップクラブチームとして君臨するマンチャスターユナイテッドに、こんな悲劇と起死回生の復活劇があったとは!

1958年、ユナイテッドの選手はアウエイの試合で帰国する際、ミュンヘンの空港で飛行機事故に合い、23名もの犠牲者を出した。

しかし、臆することなく、不屈の魂でユナイテッドは強靭にも復活していくのだ。事故から無事生還できたボビー・チャールトン選手、ユナイテッドに一生を捧げたアシスタントコーチのジミー・マーフィ、ユナイテッドの礎となったマット・バスビー監督。

そして、当時のオールドトラッフォード・スタジアムの荘厳さ。

ストーリー、人物、風景全てがパーフェクトだった。

こんな素晴らしい実話のあるユナイテッドの赤いユニフォーム(赤い悪魔と言われている)を香川君が着て、ピッチに立つ姿を思い浮かべて、なおさら興奮してきたのだ。

7月7日公開

【監督】ジェームス・ストロング

【出演】ディヴィッド・テナント  ダグレイ・スコット  ジャック・オコンネル


『ダーク・シャドウ』

2012年05月10日 | 映画

「痛切なる1970年代へのアイロニーとオマージュ!!!」

『ダークシャドウ』を見終えて、強くこう思った。ティム・バートン監督、ジョニー・デップがタッグを組んだ最近作で、私は『ダークシャドウ』が最高の出来栄えだと思った。

バンパイアーを演じるジョニー・デップ。今回こそ、この主人公を演じるのはジョニー以外の他にだれがいようか?

200年ぶりに蘇ったバンパイア。時は1970年代のアメリカ。ベトナム戦争、ヒッピー、ハードロック全盛のアメリカで蘇らせたのは、ティム・バートン監督のはからいか。

ティム監督は70年代に何か恨みがあるのか、はたまた、最高に愛した時代だったのか?と、70年代に青春時代を送ったティム・バートン監督の70年代への屈折した思い入れが、同じ時代を生きた私には手にとるように、わかるのだ。

エリック・シーガル作のベストセラー「ラブストーリー」。ブラック・サバスの「パラノイド」、思いもかけずのアリス・クーパーの出番には大笑い。

不死に苦しむバンパイアがまさか、時空を超えて、70年代にやってくるとは!

魔女役を演じたエヴァ・グリーンの怪演にもぶっ飛ぶはず。バンパイア、ジョニデプと魔女、エヴァの激しい(?)セックスシーンに、またもまたも大爆笑。

とにかく面白い!

5月13日のジョニー・デップ、ティム・バートン監督の来日記者会見には、時間を作って行ってみようかな…。

5月19日から公開

【監督】ティム・バートン

【出演】ジョニー・デップ  エヴァ・グリーン  ミシェル・ファイファー

 


『ミッドナイト・イン・パリ』

2012年05月08日 | 映画

ウディ・アレンも77歳になるのね…。

『アニー・ホール』『インテリア』『カメレオンマン』『私の中のもうひとりの私』。大爆笑のスラップスティックな喜劇を撮ると思えば、ベルイマンを意識したような超芸術作品を撮る偉大な監督の一人である。

「ニューヨークと同じくらいパリが世界中で一番偉大と」と、ウディ・アレン自ら告白しているように、今回の『ミッドナイト・イン・パリ』は、パリが舞台である。

ハリウッドの売れっ子脚本家が主人公。彼の夢は本格的な作家になること。それには芸術の都、パリに行くしかないとパリを訪れる。

アメリカ人側から見た憧れのパリの風景がスクリーンに華麗に舞う。パリの素晴らしさ、美しさを、ウディは撮って撮ってとりまくっている。「エッフェル塔」「ロダン美術館」「ベルサイユ宮殿」「セーヌ川」などなど。

主人公はある晩、タイムスリップして1920年代のパリに戻ってしまう。フィッツジェラルド、ヘミングウエイ、ジョセフィン・ベーカー、コール・ポーター、ピカソ、ゴーギャン、ダリなどの芸術の黄金期と言われた20年代を飾った偉大な芸術家たちと遭遇するのだ。

このウディの奇抜な発想、このシュールさ。主人公がヘミングウエイに自分の原稿を読んでもらうあたりで、私はおかしくてお腹が痛くなった。

芸術の都パリという町を、ウディ・アレン監督は実に軽妙なタッチで、ウディ独特のアイロニーという隠し味を使いながら、豪華絢爛に料理してくれた。

パリには2度ほど旅したことがあるが、私もウディ・アレンと同じくらいパリが好きだ。

生憎、財布の中身が乏しい貧乏旅行だったので、「マキシム・ド・パリ」のドアを開けることができなかった。アールヌーボーの高級老舗のレストランの味って、もしかしたら、こんな味なのかしら?

5月26日から公開

【監督・脚本】ウディ・アレン

【出演】オーウェン・ウイルソン

     キャシー・ベイツ  マリオン・コティヤール  エイドリアン・ブロディ


『裏切りのサーカス』

2012年04月17日 | 映画

イギリスを代表するスパイ小説の巨匠ジョン・ル・カレ。

ル・カレの原作で映画化された作品は多々あるが、私は90年度の「ロシアハウス」が一番印象的だった。主演はショーン・コネリー、ミシェル・ファイファー。あいにく、ここには、ル・カレの作品にいつも登場する老スパイ、スマイリーはいない。

スマイリーが登場する作品では「スクールボーイ閣下」「スマイリーと仲間たち」は原作で読んでいる。

今回公開される『裏切りのサーカス』の原作「TINKER TAILOR SOLDIER SPY」は読んでいなかった。かなり難解な作品だと聞いていたので、恐ろしくて手が届かなかった。

イギリスのテレビドラマシリーズでこれを映像化した時のスマイリー役がアレック・ギネスだった。あまりにも複雑な物語だったので、7話までの長さが必要だったそうだ。

それを約2時間でまとめた映画『裏切りのサーカス』には賛否両論がある。この名作を果たして2時間で完結することができるのか?と。

寸分をも見逃すまいと、試写室でありったけの集中力で眼をこらして見ていた。

ル・カレに免疫はあるものの、確かにこの作品は難解な物語だが、ソ連の二重スパイ(モグラ)のからくりは以外とよくわかったきた。

それは、多分、スマイリー役を演じるゲーリー・オールドマンのおかげだと信じた。つまり、大好きな俳優が出ることによって、スクリーンへの集中力は倍増するからだ。

これが、ゲイリーでなければ、私はきっと、途中で疲労して、展開が分からなくなっていたかもしれない。

ジョン・ル・カレに造詣の深い作家の小中陽太郎さんとご一緒したが、小中氏は「スマイリーがあんまりハンサム過ぎる」と、言っていた。原作のスマイリーは冴えない風貌の老スパイだから、ゲイリーはカッコ良すぎるとのことだった。

うん。これも一理ある。が、ジョン・ル・カレは今回のゲイリー・オールドマンのスマイリーを絶賛している。新生スマイリーによって、『裏切りのサーカス』(「TINKER TAILOR SOLDIER SPY」)は、英国諜報部の内膜、ソ連の二重スパイの実態が、妻に裏切られたスマイリーの心の傷を通して、リアルに再現されたようだ。

だからこそ、ゲイリー・オールドマンはアカデミー主演男優賞の候補になったに違いない。

 

4月21日から公開

【監督】トーマス・アルフレッドソン

【出演】ゲイリー・オールドマン   キャシー・バーク  コリン・ファース ジョン・ハート


『戦火の馬』

2012年02月28日 | 映画

 

 

競馬エッセイストでもある私。馬に関する映画の情報が来ると、真っ先に見たくなる。

馬が登場するだけで、馬バカの私は、その作品がいまいちくだらないと思っても、弁慶の泣き所、何でも絶賛する性癖がある。

映画ライターとしてはいささか不公平な判断をしかねないが、「お馬が好きなんですぅ!、だからしょうがないでんですぅ!」と、笑ってごまかしている。

「戦火の馬」は、競走馬でなく、軍馬の物語である。戦争に巻き込まれていく、1頭の馬・ジョーイの波乱万丈の人生をスティーブン・スピルバーグが微細にかつ壮大に描いている。

まず、軍馬に注目したスピルバーグ監督に拍手喝采。この作品は馬版「プライベートライアン」であり「シンドラーのリスト」なのだ。つまり、根底には反戦思想と平和への願いが込められている。

私は、「初の反戦馬映画」というジャンルを勝手に作っていた。

スクリーンの中で、軍馬ジョーイは暴走する。逃げる途中で有刺鉄線に絡まるジョーイの悲しさと悔しさ。戦争を起こしている人間たちに激怒の侮蔑の目を向けながら、彼は爆走する。まるでジョーイは人間たちに戦争の愚かさを教えようとしているかのように。

昨日、アカデミー賞が発表された。「戦火の馬」は作品賞にノミニーされたが、取れなかった。10年ほど前、競馬傑作映画「シービスケット」の劇場パンフにコラムを書いた。この時、ビスケット君も作品賞のノミネートされたが、無冠の帝王になってしまった。

馬は駆けるのが仕事。しかし、アカデミー賞の賞レースには負けてしまうのは、ちょっと皮肉といえば皮肉な話かも知れない。

しかし、元々アカデミー賞受賞作品も当たり外れのあるお祭りごとの結果。ノミネート作品の中に珠玉の一編もあるのも確かな事実なんですよね。

 

3月2日から公開

【監督】スティーブン・スピルバーグ

【出演】ジェレミー・アーヴァイン   エミリー・ワトソン


『ポエトリー アグネスの詩』

2012年02月10日 | 映画

 

 

韓国のお母さんが主人公の作品が大好きだ。その中でも、数年前に見た『母なる証明』のインパクトったらなかった。

韓国映画は、母親を描かせたら、多分、世界一なんじゃないかなって思っている。

『ポエトリー アグネスの詩』の主人公は、釜山で働く娘のために、その息子、つまり孫を預かり育てる初老のオバーサンである。だから、この作品は母親ではなく、祖母を描いているが、祖母と母親というのは、名前が変わるだけで、原点では同じなのではないかと思う。

このオバーサンの仕事はホームヘルパー。ある日、物忘れが酷いことから医師から初期の認知症を宣告される。

平穏無事に平和に生きてきたオバーサンに、この日を境に軒並みにアクシデントが押し寄せる。学校の友達の自殺に関与した孫への不信感と、孫を守る深い愛情が出たり入ったり。

どんどんと状況はオバーサンを孤独にしていく。

たった一つ、このオバーサンを救ってくれるたのが詩を書くことであった。

これだけの淡々とした物語なのだが、全身全霊を込めて、詩作に耽るこのオバーサンの姿を見ているうちに、なぜか泣けてくる。

試写を見て数ヶ月たった今でも、あのオバーサンの一つ一つの表情やしぐさが、心に焼きついて離れないのはなぜだろう?

 2月11日から公開

【監督】イ・チャンドン

【出演】ユン・ジョンヒ  キム・ヒラ  パク・ジョンシン

 

 

 

 

 


柴又帝釈天と寅さん記念館

2012年02月05日 | 映画

3月に開催する「昭和の銀幕を語るパート2」の講演会の資料作成のために、柴又帝釈天まで行ってきた。

昭和の映画を語る上で、私は山田洋次監督のフーテンの寅さんこと「男はつらいよ」シリーズは絶対に外すことのできない作品だと思ったからだ。

柴又を訪れてからもう15年の歳月がたっていた。さくらが旅に出る寅さんを見送る柴又駅のホームもあんまり変わっていなかった。

新発見と言えば、駅前に寅さんのモニュメントがあったこと。たくさんの寅さんファンたちは、このモニュメントの側にたち、写真を撮っていた。

寅さんファンといえば、年配者を思い浮かべるが、若いカップルの寅さんファンがたくさんいてくれて、私はうれしかった。

そうだ!昭和と言えば、寅さんなんだ!と、実感した。どんなに観念的な優れた芸術作品を作っても、日本人にはやっぱり寅さんなんだ!

山田監督は今、小津安二郎監督の傑作「東京物語」のリメイクとなる「東京家族」を取り始めている。去年、クランクインするはずが、東日本大震災のため、大きなリスクを抱えながら、クランクインを一年延ばしたそうだ。山田監督にとって東日本大震災は避けて通ることのない大きなショックであり痛手であったからだろう。

庶民に笑いと希望を与えた48作の寅さんシリーズを成し遂げた山田監督。「東京家族」のクランクアップが楽しみでならない。

帝釈天をお参りし、その側にある「寅さん記念館」まで足を伸ばしてみた。入場料500円という安さなのに、入館した途端、フーテンの寅さんの世界に巻き込まれていく。寅さんの生い立ち、おいちゃんとタコ社長と寅さんがよく喧嘩した、あの暖かい居間も再現されていて、私はマドンナ・リリーさん(浅丘ルリ子)になったつもりで、居間の脇にちょっこり座っていた。

「ねー、寅さん、あんたってさ、死んでも、こんなに皆に愛されているだよ!寅さん、あんたはやっぱ、一番私の恋しい人だからさ」と、私は勝手にリリーのセリフを作っていた。


『J・エドガー』

2012年01月15日 | 映画

思えば、レオナルド・ディカプリオとは長い付き合いになる。14歳の時の、「ボーイズ・ライフ」、知的障害の少年を演じた「ギルバート・グレイブ」で出会い、その繊細でいて、実にパワフルな演技力に圧倒され、19年たった今でもあの時代のレオの新鮮な演技が頭に焼き付いて離れない。

「タイタニック」「キャッチ・ミー・イフ・ユウ・キャン」、ハワード・ヒューズを演じきった「アビエイター」、「ブラッド・ダイヤモンド」に、最新作で一番強烈な印象を与えてくれた「シャッターアイランド」。

こう綴っていくと、レオナルド・ディカプリオが出演した作品は強烈に心に残る作品が多いということだろうか。

で、今回の「J・エドガー」では、な、な、なんと、あのクリント・イーストウッド監督との初タッグを組んでくれた。

クリント・イーストウッド監督もまた、天才的な閃きで、その時代時代にあった問題作を、映画史上に残すほどの傑作に変える偉大な監督である。2年前の「グラントリノ」は、「本当にこの映画を見れて、生きていて良かった!」と思うほどの感動作だった。

このペアリングならば、絶対に失敗はない!

しかし、競走馬が走ってみなければわからないように、映画も見てみなければわからない。

競馬を見るスタンスと映画を見るスタンスは実によく似ているのだ!

そうです!「J・エドガー」は、期待した通り「グラントリノ」と匹敵するほどの大傑作だった。

j・エドガーというより、J・エドガー・フーバーと正式名を入れたほうが分かりやすい。フーバー長官は「FBI」のシステムを作りあげたFBI初代長官で、50年にわたり、8人の大統領に仕え、その存在の偉大さを知らしめた人物である

そのフーバーの生涯をディカプリオが演じている。ただ演じているのではなく、スクリーンの中でフーバーの魂がディカプリオにのり移りったかのような強烈なインパクトを持って。

フーバー長官と言えば、映画「翼よ、あれが巴里の灯だ」の主人公である実在の飛行家リンドバーグの愛児誘拐事件を解明し、「パブリックエネミー」こと稀代の大悪党ジョン・デリンジャーを射殺したことでも有名だった。

しかしである。このフーバー長官の活躍は実は捏造されたものであったということが、徐々に解明されていく。

そして、歴史上の人物の洋服を一枚一枚剥ぎ取るように、その私生活の恥部までも入り込んで、ゆっくりとゆっくりと露呈させいくこの怖さ。

ジュディ・デンチ演じる母親とフーバーの歪んだ愛情関係までを掘り下げていく。

フーバーの野心に満ちた青年期から晩年までを、スクリーンの中で実現し、生き抜いたディカプリオに、今度こそオスカーを!と心の底から願っている。

 2月28日から公開

【監督】クリント・イーストウッド

【出演】レオナルド・ディカプリオ  ナオミ・ワッツ  ジュディ・デンチ  アーミー・ハマー


『王様ゲーム』

2011年12月09日 | 映画

 

 

大作、秀作の情報がたくさん入ってくるにも関わらず、時々、私は高校生が登場する『王様ゲーム』みたいなホラー映画が急に見たくなる。

多分、自分が年を取り、二度と取り戻せない高校生の頃を思い出し、ただ単に懐かしがってるだけかも知れない。と、ともに、今の高校生が何を考え、何をやっているのかも、ゲスのかんぐりで覗いてみたい衝動も隠せない。

それには高校生の間で大ヒットしたケータイ小説を元に映画化された『王様のゲーム』みたいな作品が一番現代を反映しているのじゃないか、なんて、思っているのだ。

ここに出演する若い男女俳優の名前は、勉強不足で申し訳ないのだが、実を言うと誰も知らない。

ある高校の同じクラスの生徒31名の携帯に、同時に王様という人からメールが届く。「これはクラス全員で行う王様げーム。途中棄権は認められない。王様の命令は絶対なので24時間以内に服従すること」

ストーリーの展開がドキドキ、シャープなカメラワークで、スクリーンに集中しっぱなし、なかなか面白かった。

私の高校時代にもこれに似た「不幸の手紙」というのがあった。この手紙が来たら、5人の人にこの内容の手紙を転送しないと不幸になるという。嘘っぽいとは分かっていても、その脅迫に自分が不幸になっちゃたらイヤダもん、だから、せっせと5人の友達に送りつけていた。

送られた友達もせっせと5人の友達に送りつけたらしいから、私からの発信で約125名もの友達に手紙が届いたという計算である。

つまり、チェーンメール、つまり、ねずみ講と同じシステムなんでしょう。高校時代の友達関係の乾いた希薄さと、その一方で永遠に変わらないはずの友情も描いている。

今から40年も前の高校生だった私と、今の高校生のやっていることが全く変わらないことにホッとした。ただ、そのツールが、「はがき」と「携帯メール」という違いだけで…。

 12月17日から公開

【監督】鶴田法男

【出演】熊井友理奈  鈴木愛理  桜田通  

 

 


『50/50 フィフティ・フィフティ』

2011年11月26日 | 映画

 

 

さて、この映画をどういう風に料理しようか?試写を見て、かなり感動して、この感動を早く表現したいと思っていた。感傷的なカッコつけた文で始めるか、それとも、軽いタッチのチャライ文で始めるか、散々悩み抜いて、今日に至ってしまった。というのも、この作品はどちらの文章タッチにも当てはまらないほど、掴みどころもなく、実に個性的で新鮮な魅力を持った作品だったからでしょう。

ラジオ局に勤める27歳の青年アダムが、ある日、晴天の霹靂、ガンの宣告を受ける。5年生存率は50%。つまり映画のタイトルのように50/50なのである。

「なんで僕が?!」 

多分、私もこの宣告をされたら、「なんで私が?!」と、主人公アダムと同じリアクションをしたに違いない。

そして、残された命をどう生きるか、と、死の恐怖と戦いながら暗い日常を生きるのだろうか?家族、友達と、自分を愛してくれた人々にお別れを言うことの辛さ。想像しただけでも、涙が出そうになる。

あれっ?でも、本当にそんなもんかな?そんなに簡単に自分の命を限定していいのかな?そうそう、50%の生存率は50%の死と生と半分づっつ。ならば、50%生きることも可能なわけじゃない。

ポジティブな私は、50%の生に運を使おうと思った。

アダムも多分そう思ったのだろう。生死をかけた手術に踏み切った彼の生き様に、私は黒澤明監督の「生きる」の主人公がダブった。

人は死を宣告された時、自分のためには生きることはできないが、人のためには生きることができる。そう愛する人、友達や家族のためには無我夢中で生きることができる。

スクリーンを飛び交うユーモアに満ち溢れたセリフや滑稽なシーン。アダムの周囲の人間たちが冷たいようで、実は物凄く暖かい。生と死という重いテーマにも関わらず、ガンの最高の特効薬が「笑い」であるということを確実に証明してくれた作品でもあった。

 12月1日から公開

【監督】ジョナサン・レヴィン

【出演】ジョセフ・ゴードン・レヴィット  セス・ローゲン  アナ・ケンドリック

 


『ウィンターズ・ボーン』

2011年10月12日 | 映画

 また、ここに実力派女優誕生の予感があった。

彼女の名前はジェニファー・ローレンス。『あの日、欲望の大地で』でシャーリーズ・セロンの子供時代を演じていた。しかし、この時のジェニファーの演技はあまり印象に残らなかった。

しかし、『ウィンターズ・ボーン』での圧倒的な存在感に度肝を抜かれたのだ。心を病んだ母親、幼い兄弟を養いながら、行方不明になった父親を捜す少女役。父親はどうも麻薬に絡む怪しい一面もあったらしく、闇の世界に単身乗り込んで父親を捜し出すたくましい少女。

舞台となるミズーリ州南部の風景は荒み、息苦しいほどの退廃の香りを放つ。この荒地に、少女はまるで一輪のバラを咲かせるかのように、自らの力を振り絞って未来に向けて開拓していくのだ。

時々、物語にカルト的なホラーの要素も加わって、これを疑問を感じる人もいるだろうが、私はこのエッセンスがあったからこそ、ミズーリ南部オザーク山脈という大自然の不気味さと貧しさを、より深くリリーフさせたのではないかと思う。

で、思った。これと全く同じ感想を持った作品が『トゥルー・グリット』である。ジョン・ウェイン主演の往年の名作『勇気ある追跡』をコーエン兄弟がリメイクした作品だが、父親のかたき討ちに命をかける少女役を演じたヘイリー・スタインフェルド。まさに、この少女のために作られたような作品で、彼女一人勝ちの作品だった。

ジェニファー・ローレンス、ヘイリー・スタインフェルド。

彼女たちの次作が楽しみになってきた。

 

10月29日から公開

【監督】デブラ・グラニック

【出演】ジェニファー・ローレンス

     ジョン・ホークス  ケヴィン・ブレズナハン