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マリリンの映画日記

エッセイスト瀧澤陽子の映画ブログです!新作映画からオールドムービーまで幅広く綴っております。

『一命』

2011年09月18日 | 映画

 

 

3D映画が苦手なのである。

ド近眼のところに加齢により老眼が加わった私は常時メガネをつけていないと日常生活ができない。

だから、メガネの上にメガネをかけなくては見れない3D作品の試写はなるべく避けていた。

しかし、日本の時代劇を3Dで作った『一命』の作品情報が届いた時は、ちょっと驚いた。なんせ、3Dはハリウッドの十八番だとばかり思っていたので。

さらにそれが、あの仲代達也主演の『切腹』(62年)のリメイクだと聞いた時には、自分のメガネの上に3Dのメガネをつけても絶対にこの作品は見たい!そう思って、雷雨の日、アキバシアターの試写室に行った。

江戸時代の初め、大名のお家取りつぶしのために、巷には職を失った浪人たちが溢れていた。そんな浪人たちのサバイバル術が「狂言切腹」。お金持ちの大名屋敷に押しかけては切腹を申し出る。自分の家の前でハラキリされたら困るので、お大名様はその浪人にいくばくかのお金を渡して、ていよく追い出す。これが「狂言切腹」なのである。

知らなかった…。だから映画は知的財産になってくれるのだ。

オープニングで狂言切腹を企てる侍を瑛太。この瑛太の狂言切腹が失敗に終わったところから、この作品に得たいの知れないミステリアスな雰囲気が流れ始める。

芥川龍之介の「藪の中」を読んでいるみたいな吸引力をもって、見る側をスクリーンの中にぐいぐいと引っ張りこんでいくのだ。

主役を演じる市川海老蔵は、あのボコボコ事件で人生に汚点を残したが、今回の海老蔵は有り余るエネルギーで熱演し、あの事件の雪辱を果たしたと言ってもいいでしょう。

いや、もしかしたら歌舞伎役者兼実力派映画俳優として、新生・海老蔵の誕生かもしれない。

瑛太の妻役の満島ひかりは、個性がありそうでないことが個性の女優だと思うので、今回は適役だったような気がする。

10月15日から公開

【監督】三池崇史

【出演】市川海老蔵  瑛太  満島ひかり 役所広司


『未来を生きる君たちへ』

2011年07月24日 | 映画

 

この状況をどういう風に説明すべきか?

ごちゃごちゃ説明すると、この物語が色褪せてきてしまい、見る人に伝わらなくなる心配がある。

一言で言えば、アフリカの紛争地帯でもデンマークの一般家庭でも、共にそこに存在するのは「恐るべき憎悪」であり、「歯車の狂ってしまった人間関係」と「亀裂」なのかもしれない。

アフリカとデンマーク。全く違った世界をかくも巧みに繋ぎ合わせ、その深い傷口を舐めるように少しずつ治癒させ、修正していく演出の上手さ。

見終えた後のこのすがすがしい希望に満ちた清涼感は、いったいなんだろう?

人間としての矜持なのか?

それとも、人は人を許した時に初めて自分も救われるというアンチテーゼなのだろうか?

『おくりびと』『瞳の奥の秘密』に続き、アカデミー賞外国語映画賞を受賞した『未来を生きる君たちへ』。最近、本家本元のアカデミー賞受賞作品よりも、外国語賞作品の方が、ずっと優れているなと、思ったりした。

8月13日から公開 

 【監督】スサンネ・ピア

【出演】ミカエル・パーシュブラント、トリーネ・ディアホルム、ウルリッヒ・トムセン、

 


『アリス・クリードの失踪』

2011年05月16日 | 映画

東日本震災後、競馬を見ても映画を見ても、なんとなく面白くなくなっていた。3月11日以後、なんだか人生観が変わってしまい、今まで楽しかったものが無味乾燥に思えてきたりした。これは私だけでなく、周囲にいる友人や家族が声を揃えて言っている。

少なくとも日本人の半分があの巨大な揺れを経験し、あの天地をひっくり返すような巨大地震が起こった時、「もしかしたら自分は死んでしまうのかもしれない」という恐怖を味わってしまったからだろう。

あの日以来、死生観が心を支配しているのだろう。地震や津波の被害だけでなく、未だに収束しない福島原発事故も大きな原因になっていることは確かである。せめても、原発事故が完全終息したとなれば、人々の心に残った不安やしこりは少しだけ緩和されるに決まっている。だからこそ、一時も早く、原発の収束を願うばかりだ。

で、そんな暗い心を抱えた中で、オープニングからラストまで、「わー!何この映画、めちゃくちゃ面白いじゃん!」と、大声を出して叫びたくなった作品が『アリス・クリードの失踪』である。

登場人物は3人。大金持ちの一人娘を誘拐し、身代金を奪う誘拐犯の二人と、たったこれだけの登場人物なのに、シナリオ抜群、演出抜群、ラストのオチも茶番でなくキチッと決めてくれ、まさにパーフェクト中のパーフェクトな作品に仕上がっていた。

この作品で、震災前の映画への自分の向き合い方が戻ってきた。

高揚する気持ちが戻ってきた。

やっぱ、映画って素晴らしい!!!

6月11にから公開

【監督】J・ブレイクソン

【出演】ジェマ・アータートン  エディ・マーサン マーティン・コムストン

 

 

 

 


『瀬戸内少年野球団』『キッズ・オールライト』

2011年04月24日 | 映画

 

 

震災後、節電のために、ずっと自粛していた社会協議会の映画上映会の解説の仕事が始まった。待ってましたとばかり、映画ファンのお客様がたくさんいらしてくださった。「映画をずっと見たかった、始まってうれしい」と大喜びしてくれた。こういう不安定な時期だからこそ、映画が人々の心を落ち着けてくれるのかもしれない。

今回の解説作品篠田正浩監督の『瀬戸内少年野球団』(1984年)だった。夭折した大女優、夏目雅子が、敗戦直後の淡路島で、教鞭を取る教師をたくましく演じている。彼女は本当に美しい。敗戦の不安な時代を背景に、野球を通して子供たちが元気になっていくと言ったストーリーなのだが、なぜか、東日本大震災の今の日本とダブってくる。きっと、悲劇の時代にはスポーツは救世主になってくれるんだろうな。

新作では、アネット・ベニング、ジュリアン・ムーア主演の風変わりな家族のホームドラマ『キッズ・オールライト』が一番印象に残っている。おかしくて、切なくて…、実にいい話だ。

4月29日から公開

 


『ガリバー旅行記』

2011年04月17日 | 映画

 

 

 

巨大余震の恐怖、原発事故への恐怖。毎日、毎日、心が萎えてしまい、マイナス思考になっていた。

が、じゃーん!やっぱり、こういう時こそ、ジャック・ブラックだ!彼の『スクールオブロック』は私のベスト10の中に入っている。

今回の『ガリバー旅行記』では、小人の国に漂流した役。とにかく、面白い!とにかくくだらない。とにかくバカバカしい。でも、今の日本には絶対に必要な作品だ。

久しぶりの、大声あげて笑った。3・11以降、こんな大笑いしたことはない。ジャック・ブラック、I LOVE YOU!

公開中


『チャイナシンドローム』と『唐山大地震』

2011年04月12日 | 映画

3月11日の巨大地震後、大津波、原発事故と、東日本は最大のクライシスの下にあった。それから1ヵ月後もたつのに、またも連日の巨大余震。

家族、家、友達を失った被災地の方々のお気持ちを察すると、言葉にならない。ましてや、福島第一原発事故で、地震の被害だけでも心に受け止めることができないうちに、原発の危険性から避難所を転々としている被災者の方のお気持ちを察すると…。もう地震が憎くて憎くてならない。

地震のバカヤロー!早く収まれ!原発事故も早く収束してくれ!

そんな怒りを胸に抱きながら、二本の映画を思った。『チャイナシンドローム』と『唐山大地震』である。

Facebookにも書いたウォールから

「映画は時にして予言者になることがある。

 1979年公開された米 映画「チャイナシンドローム」は公開12日後にスリーマイル島原 発事故が起きた。

実は3月11日の震災の一週間前に、松竹の試写室で20世紀最大の被害者を出した中国の巨大地震「唐山大地震」の試写を見て、地震の恐怖をスクリーンの中で疑似体験していた。

あの試写の一週間後に、まさか東日本がこんなことになると誰が知っていただろう。3月26日公開予定だった「唐山大地震」は公開無期延期になっている。

映画は時に、預言者になることもあるんだと、なんだか不思議な力を感じている」

 

 

 


『英国王のスピーチ』『ザ・ファイター』『ブラック・スワン』

2011年02月10日 | 映画

2月に入ってからベトナム取材の膨大な原稿に追われ、全く試写に行く時間がなかった。なんとか無事に入稿も済み、ウキウキしながら見たかった試写を立て続けで見た。

そこで、アメリカアカデミー賞の発表が近づいているので、ミーハーであるが、ノミネート作品にターゲットを絞って感想を書いてみた。

                 『英国王のスピーチ』

 現在のエリザベス女王の父・ジョージ6世が吃音であったことなど知らなかった。それよりも、こういった王室の秘密を堂々と映画化し、アカデミー賞最多12部門までにノミネートさせてしまうイギリス映画のリベラルな姿勢とパワーにはもっと驚嘆してしまった。風通しの悪い日本の皇室では絶対に作れない作品だ。

 吃音のキングジョージ6世を演じるのはコリン・ファース。それを支える妻役にヘレナ・ボナム・カーター、ジョージ6世の吃音を治すセラピストにジェフリー・ラッシュ。この演技派の俳優陣が出演するということだけで、すでに傑作への準備はそろっていた。

 コンセプトは、簡単に言えば、コンプレックスで臆病になっていた人間は、人の愛情と協力によって、必ずそれを克服できるということだろう。キングジョージ6世のコンプレックスが、世界中に生きる一般庶民のコンプレックスと何ら違わいことに、見る側は安心するのだ。国王の苦悩に共感し、その人間臭さに惹かれ、庶民と国王の距離感がどんどんと縮まっていく。

国王であれ、普通の人なのである。

この展開が視聴者の心を鷲づかみにし、大きな感動を与えるのだ。

吃音から立ち直り、王として「ヒットラー政権のドイツとの開戦の報告」を、国民に向けて、そつなくできたスピーチの裏側には、こんな事情があったのかと、新しい発見をもあった。

何よりも、ジェフリー・ラッシュの枯れた渋い演技が、この物語にクリーミーでまろやかな甘味料を加えている。

上記の3作の中では、そのノミネートの数に比例して、なるほどとうなるほど、好感度抜群の作品だった。

2月26日から公開

 監督:トム・フーパー

出演:コリン・ファース、ヘレナ・ボナム= カーター、ジェフリー・ラッシュ

                      

                   『ザ・ファイター』

 ボクサーの物語で思い出すのが、超古きは、アカデミー賞主演男優賞にノミネートされたに、カーク・ダグラス主演の往年の作品『チャンピョン』と、ロバート・デ・ニーロが見事に主演男優賞を獲得した『レイジング・ブル』である。

 こう辿っていくと、、ボクシングを扱った作品は、かなりの頻度でアカデミー賞にノミネートされている。アメリカ人はボクシングが大好きだということかもしれない。

 『ザ・ファイター』もその流れに乗って、アカデミー賞6部門のノミネートされた。実を言うと、ストーリーはそれほど面白いとは言えなかった。過去に栄光を掴んだボクサーだが、今では落ちぶれてヤク中になってしまった兄役をクリスチャン・ベール。その弟で兄の雪辱を晴らすために、リングに挑戦する弟役にマーク・ウォールバーグが扮している。

実話に基く物語なのだが、感動的に描けば描くほど、その押し付けがましさに、妙に気分は冷めていく。唯一、救いと言えば、あの「バットマンリターンズ」「ダークナイト」で私を虜にしてくれた実力派のクリスチャン・ベールが13キロの減量に成功し、スクリーンに現れた瞬間、どこの誰だかわからなかった点だろう。

 ハリウッドはこういった俳優の血と汗と涙の努力の結晶ともなる役作りが大好きなので、作品賞は無理でも、ひょっとするとクリスチャン・ベールは助演男優賞に輝くかもしれない。

 3月26日から公開

監督:デヴィッド・O・ラッセル
出演:マーク・ウォールバーグ クリスチャン・ベール エイミー・アダムス メリッサ・レオ

 

                    『ブラック・スワン』

 ミッキー・ローク主演の『レスラー』で、ダーレン・アロノフスキー監督の力に注目していた。彼の次作がナタリー・ポートマン主演のこの『ブラック・スワン』だ。この作品もアカデミー賞主要5部門にノミネートされている。

 舞台はニューヨークのバレエ団。チャイコフスキーの「白鳥の湖」のプリマの座を争うバレリーナたちの闘いに打ち勝ち、主役に抜擢されたのが、ニナ演じるナタリー・ポートマンだ。

 抜擢されたものの、ニナはそのプレッシャーと過酷なレッスンから、徐々に精神を病んでいく。パラノイア状態に陥ったニナは、現実と想像の世界が混濁し、実生活に適応できなくなっていく。

 パラノイアの一環で、実際は生真面目で純真な女性だったはずのニナがセックスに耽溺するシーンには生唾が出た。この淫らさ、この異常な官能の美。素晴らしい!

 もしナタリー・ポートマンが主演女優賞に輝くことができるのなら、このシーンが過分に加味されているからだと思う。

 ストーリーそのものは、一種のサイコホラーで月並みなものであったが、ナタリー・ポートマンという女優の渾身の演技だけを見るだけも十分価値がある。

5月から公開

監督:ダーレン・アロノフスキー

出演:ナタリー・ポートマン、 ヴァンサン・カッセル、ミラ・クニス、バーバラ・ハーシー、ウィノナ・ライダー

 


『ハーモニー 心をつなぐ歌』

2011年01月16日 | 映画

 

 

「なみだは人間が作るいちばん小さな海です」

詩人、歌人の寺山修司の名言である。

韓国映画『ハーモニー 心をつなぐ歌』を見た後、この言葉が心に浮かんだ。

舞台は韓国の女子刑務所。収監者たちは、夫のDVや義理の父からの性的暴行を受け、自分の身を守るために殺人を犯してしまった。

殺人犯であるのだが、女性としてその動機が痛ましく悲しくさえ思える。

世代もバラバラな収監者たちが、刑務所の所長を説得して、合唱団を結成する。刑務所で子供を産んだ主人公のジョンへが発案者。彼女は18ヶ月間だけ子供と暮らすことが許されている。その後は我が子を里子に出すしかない。ジョンへは子供との別離の前に、その絶望の日が来るまでを歌を唄うことで気を紛らし、母親としての最後の誇りを保とうとする。

収監者たちの孤独感や絶望感が、コーラスを通して、徐々に緩和され、彼女たちは社会復帰の夢、更正の道を求め、生きる希望を持ち始めるのだ。

ここまで話すと、刑務所内の暗い話のように見えるのだが、塀の中の人間関係を実にコミカルに描いている点にも注目したい。ある種のコメディ仕立てになっている点も微笑ましいし気を楽にさせてくれる。

そして、ラストは...。

韓国で300万人の観衆を号泣させたという実績を持つ作品。おっしゃる通り、東映の試写室にいる誰もが嗚咽を重ね、私の右隣にいた若い女性は涙をこらえ切れずに大声を上げて泣きじゃくる。左隣にいた年配の男性はハンカチで目頭を押させては「ひっく、ひっく」と子供のように泣きじゃくっていた。

試写室にいる誰もが確かに泣いている。

そう確信した時、私も遠慮なく大声を出して泣かせていただいた。

涙が体中の毒素を全てを追い出し、浄化し、泣いた後のこの爽快感は何なんだろう?

まるで、「心のデドックス」みたいな作品だった。

「なみだは人間が作るいちばん小さな海」であるが、その小さな海に私は溺れそうになったくらいだ。

泣くことによって、体も心も綺麗にしてくれた近代まれに見る感動作だった。

【監督】カン・テギュ

【出演】キム・ユンジン  ナ・ムニ  カン・イェウォン

2011年1月22日よりシネスイッチ銀座、新宿バルト9ほか

         


『エリックを探して』

2010年12月18日 | 映画
イングランド・プレミアリーグのマンチェスターユナイテッドファンの私には、たまらない魅力の作品だった。

そういえば、今公開中の『君を思って海をゆく』という作品も、クルド難民の少年がドーバー海峡を泳いで渡るという硬派な内容のものであったが、この少年の夢もまたマンチェスターユナイテッドの選手になることだった。

なんだか、最近、マンUが一気に映画の中に登場して、うれしい限りである。

「すべては美しいパスから始まった」

『エリックを探して』の中で、元フランス代表であり、マンチェスターユナイテッドの天才プレイヤーであったエリック・カントナが語る名セリフである。マンUの試合を見るたびに、このセリフが頭に焼き付いて離れない。素晴らしいシュートやゴールは、素晴らしいパスがあってこそ成立するということだろう。

パニック障害の郵便局員。何をやってもうまくいかない。人生に悲観的になっていた彼の前に突然、実際のエリック・カントナが現れ、彼の人生の水先案内人になっていく。

物語は単にそれだけのことであるが、突然、彼を襲ったアクシデントを郵便局の同僚たちが助けたりと、サッカーを通した男たちの熱い友情も語られている。そこにも、またもマンUのエリック・カントナが面白おかしく絡んでくるのだ。

アイルランド闘争を描いたシリアスな『麦の穂をゆらす風』から180度回転し、監督のケン・ローチはサッカーコメディの真髄に迫ってくれた。

ケン・ローチ監督自身が無類のマンUファンだからこそ実現できた、世界のマンUファンに贈る作品といってもいい。

12月25日から公開

【監督】ケン・ローチ

【出演】スティーブ・エベッツ、エリック・カントナ


『クレアモントホテル』

2010年11月28日 | 映画

         

 

     老後を考える年になってしまったのか…。 せこい話だが、最近、夫の厚生年金額や自分の国民年金額が気になってしょうがない。誕生日月に送付されてくる年金定期便を綿密にチェックしている自分がイタイ。

30代、40代の頃なんて、全くそんなことが気にならなかった。50代になった途端、こうなるんだから、50代こそ、本当の意味で人生のターニングポイントなのかもしれない。

  目を背けたいが、背けることができない、近い未来に迫った老後。 健康とある程度のお金がなければ不安は尽きない。

 近所のクリーニングのおばーちゃんに「老後っていったいいくらあればいいのかね?」と、尋ねると、「ま、片手くらいあれば大丈夫だよ」と言っていた。

「そうか、500万円あれば大丈夫なんだね…。」と、私。

とっさにおばーちゃんは、

「あんた、バカじゃん、500万円で老後やろうっての?アホじゃん。5000万円だよ!物書きやっている人にしちゃ、想像力がないね」と、叱られてしまった。

 5000万円???見たこともねー!!もちろん、触ったこともねー!今の私には想像を絶する高額だ。気絶しそうだった。

 この後、気分は撃沈。老後の不安に拍車がかかり、あのクリーニング屋のババァに質問しなければ良かったと後悔した。

 それから数日の間、悶々とし、マジにへこんでいたが、一本の試写が私を救い、解放してくれた。

イギリス映画の『クレアモントホテル』である。

 夫を亡くし、娘夫妻の同居から逃れ、一人で老後を過ごすためにロンドンのホテルにやって来た上品な老婦人が、ある若い青年と知り合うことで、孤独感から解放されていく 。

 ホテルに滞在する他の人々との交流も実にほのぼのとして、往年の作品『グランドホテル』を彷彿させた。

 老婦人はこのホテルで独身のオジーさんにナンパされたり、いつしかこの若い青年との間にも恋愛に近い感情まで芽生えてくる。

 ロンドンの街がとにかく綺麗。ビッグベン、ロンドンアイなどなど…。古い洗練されたホテルが醸し出すインテリア、エクステリアの調度品たちを見ているだけでも、妙に心が落ち着いてくる。

老婦人の

「私は、妻でも母でもない自分として最期を迎えたかった」というセリフに、女性の逞しさや切なさが込められていて、心が弾んでいた。

 そして、私は思ったのだ。今から年金の心配をしていたセコい自分を恥じた。なんとアホだったんだろうか!と。

 来るべきその日が来るまで、人は日々を精一杯生きていれば、そんな不安など薄れるはずなのだ。きっと、最近、私は怠惰だったに違いない。

 まさにその老後が本当にやって来た時にこそ、この老婦人のように考え、決断し、逞しく生きていけばいいのだと。

 大人の童話のような素敵なおばーちゃんの物語に、私はめちゃくちゃ元気になっていたのだ。

 実にいい映画だ。

【出演】ジョーン・ブロウライト ルバート・フレンド ゾーイ・タッパー

  12月4日から岩波ホールにて公開


『レオニー』

2010年11月14日 | 映画

まず、感動すべきは、8年間もかけてこの作品が制作されてから市場に出回るまでのプロセスである。

メガホンを撮った松井久子監督は、前作『ユキエ』『折り梅』と、自らが日本全国を行脚し、講演し、自主上映し、まさに手作りの努力が実り、口コミという手段で、のべ200万人の観客動員という快挙を果たした。

そんな健気な松井久子監督の生き様と、作品のクオリティの高さに感動したファンたちが、「松井久子監督に第3作目をどうしても撮らせたあげたい!」と立ち上がったのが、「マイレオニー」という集団である。

日本全国に点在する多くの松井ファン、それぞれが全くの赤の他人。共通項は、松井久子監督と作品の魅力だけ。

低迷する映画を支えていくのは、もはや、本家本元の映画関係者ではなく、一般庶民であった事実に胸を打たれた。古きは、市民運動の「べ平連」(ベトナムに平和を市民連合の略)がダブった。60年代から起こった「ベトナム戦争」の反戦運動は、全国の一般市民が立ち上がったことで、反戦への大きなうねりとなり、戦争に歯止めをかけた。

松井久子監督の『レオニー』も、まさに、そういった市民の力が結集し、働き、実現したと言っても過言でない。

「マイレオニー」には、一般の主婦から労働者、市民まで、と様々な人々がいる。以前、私が対談した故・筑紫哲也さんの元秘書でいらした白石順子さんも賛同している。私と白石さんのトークイベントには、「マイレオニー」の事務局の方もいらしてくださり、「映画ライターでもある瀧澤陽子さんにはいち早く見ていただきたい!」と熱心に勧められ、出来立てホヤホヤの『レオニー』の試写を見せていただいた。


世界的な彫刻家・イサム・ノグチ。ニューヨークで、彼の名前を知らないアメリカ人はいない。そのイサム・ノグチの母親レオニーが日本に単身乗り込み、日本という社会で生きた壮絶な人生を描いたこの映画に、いつの間にか私は釘付けになっていた。

全編が日本映画でありながら、英語が中心であったことも画期的だが、国籍を超えた人間の深いつながり、それも熱~いつながりが描かれていることも実に興味深い。


『レオニー』…、 庶民が動かした全く新しいタイプの作品の登場である。


11月20日から公開

【監督】松井久子

【出演】エミリー・モーティマー
    中村獅童
    原田美枝子
    竹下景子
    吉行和子
    中村雅俊

 


『ノーウェアボーイ  ひとりぼっちのあいつ』

2010年10月30日 | 映画


36度にまで気温が上昇した酷暑の7月初旬。

六本木シネマート。

ジョン・レノンとオノ・ヨーコの共通のお友達でいらっしゃる作家の小中陽太郎さんと一緒に、ジョン・レノン生誕70歳記念映画ともなる、『ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ』の試写を初日に見た。

べ平連運動の重鎮でもいらした小中陽太郎さんは、60年代のベトナム反戦運動からジョンとヨーコと交流があり、ジョン亡き後もヨーコさんと仲良しである。


そんなビートルズの原点、いや、ジョン・レノンの原点を知っている方と試写にご一緒できることは、見終えた後に、私だけの個人的な感想だけに留まらず、そこに計り知れないジョン・レノンへの愛情や薀蓄を聞くことができるのも醍醐味だった。

メインテーマは、「ジョン・レノンには対照的な二人の母親がいた」ということ。自由奔放で音楽を愛する母親(アンヌ・マリ・ダフ)と、厳格で知性的な伯母で実母に捨てられたジョンの母親代わりをしたクリスティン・スコット・トーマスである。

ジョンに二人の母親がいたことを全く知らなかったので、ビートルズを扱った作品の中では群を抜いて面白く、ビートルズのジョン・レノンが、かくして登場したんだと、唸っていた。

物語がストーリーテリングに満ち溢れているだけでなく、何よりも、ジョンを育てた50年代のリバプールの町の風景が魅力的だった。

「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」が生まれた、どことなく閉塞された雰囲気の赤い鉄柵の門の孤児院。ビートルズデビュー前後にビートルズファンで沸かした「キャバーン・クラブ」などなど。

ロンドンには何度か行ったことがあるが、そのシークエンスを見ているうちに、リバプールという町に、このまんま飛んでみたくなっていた。

リバプールとビートルズ。

リバプールという港町でなければ、ビートルズは生まれなかったのかもしれない。


母親を亡くした若き頃のポール・マッカートニーとの出会いと友情も素晴らしく、何よりもジョン・レノンを演じたアーロン・ジョンソンの演技も卓越だった。

サム・テイラー・ウッドという女性監督が撮ったとわかり、「そうか、そうか、やっぱり、そうだった。母親と息子の確執は母親やった女でなければ撮れないですよね、これはある種の女性映画でもあり、ホームドラマでもありますよね」と、小中陽太郎さんに言うと、「ジョンの平和主義も反戦思想も、この母親という女性たちが礎だったんだよね」と、意見が一致。

試写を見た後、六本木のカフェで小中陽太郎さんから、ジョンとヨーコの超有名な「ベットイン」のエピソードなどの、とっておきの思い出話を聞いて、なおさら、ジョン・レノンの偉大さが、心に沁みた私だったのだ。



11月5日から公開

【監督】 サム・テイラー=ウッド
【出演】 アーロン・ジョンソン 、 クリスティン・スコット・トーマス 、 アンヌ=マリー・ダフ



『隠された日記 母たち娘たち』

2010年10月02日 | 映画
カトリーヌ・ドヌーブと言えば、『シェルブールの雨傘』(1964)である。

去年、デジタルリマスター版が公開され、戦争に巻き込まれていく恋人たちの悲恋の哀しさに満ち溢れていて、ある種の反戦映画でもある。ミシェル・ルグランの名曲に包まれたガソリンスタンドのラストシーンは、映画史上に残ると言っていいほど哀しさと美しさに満ち、感動の涙を誘う。

この時のカトリーヌ・ドヌーブの美しさったらない!!!!!

まるで「スクリーンを駆け巡る女神」のようであった。

カトリーヌ・ドヌーブはフランス人の持つ美意識やプライドを曲げないので、日本のメディアからは「気難しい女優」と思われている。しかし、これだけの大女優になれば、メディアに媚びることなどしなくても、カトリーヌ・ドヌーブという偶像一本でやっていける天才女優なのである。

カトリーヌ・ドヌーブはカトリーヌ・ドヌーブでいいのだ。

今回の『隠された日記 母たち娘たち』では、妊娠し、産むべきか産まざるべきかを迷い、フランスの片田舎に帰省した娘の母親役を演じている。

この田舎の風景が実にいい。波光きらめく海辺の亡き祖父の家。家の前に広がるまるでプライベートビーチのような優しい海のきらめき、さざ波が、この作品に柔らかなクリーミーなバニラエッセンスの香りを放っている。

祖父の家で見つけた祖母の1冊の日記。

娘がこの日記を読み始めてから、祖母の生き様を通して、ギクシャクしていた母と娘の関係が少しずつ変化し始める。日記のリフレインで、傍らに亡き祖母の亡霊が現れる演出が見事である。

結末はさすがフランス映画の持つシュールさ。アメリカ映画にはない斬新な結末にびっくりさせられる。

祖母・マリ=ジョゼ・クローズ。 母親・カトリーヌ・ドヌーブ。娘・マリナ・ハンズ。

共に世代は違うが、根底には「女の自立」を巡る祖母と母と娘の確執であることは間違いなしである。

こういった作品に出会うと、ストーリーは決して明るいものではないが、元気になれる自分が不思議である。

10月23日から公開

【監督】ジュリー・ロペス=クルヴァル
【出演】カトリーヌ・ドヌーブ
    マリナ・ハンズ
    マリ=ジョゼ・クローズ
    ミシェル・デュショーソワ



『BECK』

2010年08月22日 | 映画
なぜか、40年前の高校生の頃の自分にタイムスリップしていた。

当時、ブリティッシュハードロック全盛の時代で、レッド・ツェッペリン、ディープ・パープル、ブラック・サバスを耳にタコができるほど聴いていたロック狂の女の子だった。

私の高校時代の音楽はハードロック以外の何物でもなかった。ロックがあったから、生きられた。ちょっこし不良女の子だった私が、マジの不良にならずにすんだのもロックのおかげだった。

ロックには病んだ者、悩んでいる者、孤独な者を救済するSOMETHINGと計り知れないパワーがあったからだと思う。

アマチュアロックバンドの追っかけもやっていて、小さなライブ会場でタバコと酒の味も覚えていた。高校の時、マジに惚れた男の子も、ギタリストだった。

『BECK』の5人のメンバーの中に、高校時代に惚れた男の子が突然現れた。ニューヨーク帰りの帰国子女・竜介だった。竜介演じるロン毛の水嶋ヒロ君ほどカッコ良くはなかったけど、そのライフスタイルとギターテクニックが昔の元カレそっくりだったので、時空を超えて、なんだか懐かしくなってしまい、胸がジーンとしていた。

ロケンロールは不滅。ロックは救済、ロックは平和、ロックは友情、ロックは人生そのもの。

現代の日本が舞台の『BECK』だが、音楽を愛する者にだけ共通するライフスタイルやメンタリティは、私の高校時代と全く同じだった。

涙が出た。

気絶しそうな酷暑の夏。熱中症患者続出の夏。

くそ暑い日本の夏。

しかし、『BECK』を見ている間、肉体的な暑さは消え、体中に溢れるほどの清涼感が走っていた。

音楽に青春をかけた『BECK』のメンバーの心の熱さ、友情、亀裂、哀しさ、達成感と、絵空事でない真実の声がこだまする。

水嶋ヒロと佐藤健のギターテク、向井理のベース、タイコの中村蒼、ラップ調で完璧なボーカルを務める桐谷健太。

それぞれのクオリティが高く、あまりにもカッコ良くて、第一期のディープ・パープルの全盛時代を見ているようなノリと迫力だった。

あーあ、ロックって本当にいいですね!!!最高!!!


9月4日から全国公開

【監督】堤幸彦
【出演】水嶋ヒロ、佐藤健、桐谷健太、中村蒼、向井理、忽那汐里




『インセプション』

2010年07月11日 | 映画
クリストファー・ノーラン監督に大注目している。『バットマンビギンズ』、故・ヒース・レジャーにアカデミー助演男優賞を与えた作品『ダークナイト』。

クリストファー・ノーラン監督の表現の中に、私はいつもイギリスの鬼才・スタンリー・キューブリック監督やサスペンスの神様・アルフレッド・ヒッチコック監督を見出す。

ノーラン監督がこういった昔の天才監督の薫陶や影響を受けているかどうかはわからないが、それをあえて予想して、そういった監督の撮ったものは、不思議なことに決して駄作がない。

つまり、監督の才能や力量の半分は、影響を受けたり尊敬する監督の名前で判断できると言っても過言でない。

これはちょい暴走した見解だけど…。

ノーラン監督期待の第3作目が『インセプション』である。

前作で開花したノーラン監督は、お金や時間を気にすることなく、心の中に暖めていた全てを吐露することができたのだろう。

テーマは「眠りの中の潜在意識の具現化」と言っていいかもしれない。その着想の面白さ。2重3重、ややおもすると4重にまで物語が交差し錯綜する展開は見事であった。

映画を見る人なら誰でも、100%以上の勢いと感動を与えてくれた作品を声を大にして大絶賛したい。この感動を何としても早く人に伝えたい。しかし、そんな作品に出会うことは1年に1度あればいいほうなんである。

こんな至福の出会いを期待して、いつも試写を見ているのだが、なかなか…。

だから、ある程度クリアーしている作品であれば、自分の中で良作として定義するようにしている。いや、これは納得でもある。

で、結論。

『バットマンビギンズ』『ダークナイト』は1年に1度の確率で出会った大絶賛に値する作品であった。が、『インセプション』はそれを超えることがなく、良作の範囲で留まったことは残念であった。

とは言っても、ノーラン監督の技量と才能に大きな期待をかけ過ぎ、『バットマンビギンズ』や『ダークナイト』以上のものをと求めていた私の見解でもある。時々、期待し過ぎも作品を判断する上で裏目に出ることも多々あり。

多分一般市場ではその斬新な着想、発想、エンタテイメント性で大ブレイクすること間違いなしと思っている。


映画の見方は本当に人それぞれだから…。




【監督・脚本】クリストファー・ノーラン

【出演】レオナルド・ディカプリオ 渡辺謙 マリオン・コティヤールエレン・ペイジ

 7月23日から公開