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いっさい逃げ場なしの悪夢的状況。それでも、どす黒い狂気は次から次へと襲いかかる。痴漢に間違われたサラリーマンが女権保護委員会に監禁され、男として最も恐ろしい「懲戒」を受ける表題作。たった一度の軽口で、名も知らぬ相撲力士の逆鱗に触れた男が邪悪な肉塊から逃げ惑う「走る取的」。膨大な作品群の中から身も凍る怖さの逸品を著者自ら選び抜いた傑作ホラー小説集第一弾。
出版社:新潮社(新潮文庫)
短篇集は、いろんな作品が集められている以上、作品による好き嫌いがどうしても現れてしまう。
それはこの『懲戒の部屋』においても、同様だ。
たとえば、前半に載せられている『走る取的』『乗越駅の刑罰』『懲戒の部屋』。
これらははっきり言って、僕の趣味には合わなかった。
この3作品は、登場人物の行動が(恐らく意図的だろうが)極端すぎて、読んでいる最中、引いてしまうところがあった。
その極端さをおもしろいと思う人もいるだろうけれど、僕には受け入れがたい。
だがその次に収められている『熊の木本線』以降は、トーンががらっと変わって落ち着いたものになっており、サクサクと読み進めることができる。
同じ作者の作品と言えど、内容により、個人の趣味に合致するか否かはあるようだ。
というよりも、それだけ幅広いトーンの作品を書ける筒井康隆を称賛すべきかもしれない。
個人的に好きなのは『熊の木本線』だ。
ラストで明かされた迷信じみた話が、真実かどうかはわからないのだけど、不穏なことが起こるかもしれない、という予感が実にすばらしい。
その中にあるずっしりとした空気に、読んでいてぞくりとしてしまった。
『風』という作品も結構好きだ。
風が結局何なのか、僕にはさっぱりわからないのだけど、その淡々としたトーンと作品全体に漂う静けさ、そしていろんな解釈が可能なラストが、興味深い。
そのほかにも、グロテスクな描写が徹底していて迷惑な『顔面崩壊』。
黒い笑いが混じっているようでおかしくもある『蟹甲癬』。
しみじみとしていて、人の死を見送る側に立つことの切なさが胸に響く『かくれんぼをした夜』。
前半部のエンタメな展開と、後半の不可思議な展開がおもしろい『都市盗掘団』、など。
合う作品、合わない作品、いろいろあるが、どれも筒井康隆の個性を感じさせてくれる。
非常に興味深い短篇集である。
評価:★★★★(満点は★★★★★)
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