goo blog サービス終了のお知らせ 

私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

『独白するユニバーサル横メルカトル』 平山夢明

2009-04-29 19:58:55 | 小説(国内ミステリ等)

タクシー運転手である主人に長年仕えた一冊の道路地図帖。彼が語る、主人とその息子のおぞましい所行を端正な文体で綴り、日本推理作家協会賞を受賞した表題作。学校でいじめられ、家庭では義父の暴力に晒される少女が、絶望の果てに連続殺人鬼に救いを求める「無垢の祈り」。
限りなく残酷でいて、静謐な美しさを湛える、ホラー小説史に燦然と輝く奇跡の作品集。
出版社:光文社(光文社文庫)


この世には多くの小説があるけれど、こうも読者を選ぶ作品はそう多くはない。
この小説には8つの作品が収められているが、どれもこれもびっくりするくらいにグロテスクで悪趣味だからだ。

たとえば、個人的にもっともツボにはまった「怪物のような顔の女と溶けた時計のような頭の男」。
何と言っても、賞賛すべきはその過剰なまでの暴力描写だろう。
具体的には書かないけれど、読んでいて、ここまで強烈に痛みが伝わってくる作品はまれである。肉が焼けるにおいも、まるで紙面から伝わってくるかのように生々しい。

それもこれもすべて描写力が優れているからだろう。悪趣味なほど陰惨な光景の描写は力強く、その力強さゆえに、まるで目の前にあるかのように、リアルに情景を思い浮かべることができる。
そのため読んでいて、恐ろしく気持ち悪くなるのだが、この不快なまでの勢いに、僕は完全に惹きつけられた。

そのほかの作品も、形はちがえ、人を不快にさせる要素がてんこ盛りだ。
悪意に満ちた終わり方にしてやられた、「C10H14N2(ニコチン)と少年」。
ストーリーがべらぼうにおもしろく、吐瀉物の不愉快な描写に圧倒的される、「Ωの聖餐」。
陰惨なシーンが連続するだけに、ラストの優しさがより印象的になっている、「無垢の祈り」。
読み手の感情を逆なでにするラストがすばらしかった、「オペラントの肖像」。
泥鰌を始めとする異常な光景と、バカバカしい空耳との落差が絶妙な、「すまじき熱帯」。
地図の一人称と使い方が非常に上手い、「独白するユニバーサル横メルカトル」。
などなど、質はいずれも高い。

個人的には結構好きな作品ばかりだ。
しかし僕はこの作品を、何があっても、他人に勧めることはないだろう。
そういう意味、とっても困った作品集と言えるかもしれない。

評価:★★★★(満点は★★★★★)


最新の画像もっと見る

2 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

コメント日が  古い順  |   新しい順
こんばんわ。 (かえる。)
2009-07-28 20:38:47
平山さんの本も、こちらで知って読むように
なりました。ありがとうございます♪
発想がびっくりするくらい突拍子もなくて
気持ち悪いですよねw~映画の脚本とか
書いてもらいたいくらいです。
短編集とかあわせて、10冊くらい読みました。
目に浮かぶような痛々しい表現がなんとも。

ありがとうございます。
あと三冊ほど、コチラで拝見した小説を
購入しました♪
またお邪魔します。
でわ。
返信する
コメントありがとうございます (qwer0987)
2009-07-28 22:29:59
コメントありがとうございます。
平山夢明の本、グロいですよね。
おもしろくて、アイデアも斬新だから、確かに映画の脚本書いたらおもしろそうです。でもちゃんと映像化できるんだろうか。
10冊はすごい量です。ほかの作品もあんな感じっぽいですね。こわいもの見たさで、読みたい気も。

>あと三冊ほど、コチラで拝見した小説を
>購入しました♪
ありがとうございます。
適当に思ったこと書いているだけのブログなんで、大丈夫ですか、って不安になるけど、参考にしてもらえたらありがたいことです。
これからもひっそりと続けてくので、ヒマなときにでもどうぞ。
返信する

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。