2013年度作品。日本映画。
作家・田中慎弥の第146回芥川賞に輝いた同名小説を、『東京公園』の青山真治監督が映画化した人間ドラマ。山口県下関市を舞台に、行為の際に女性を殴る性癖を持つ父親と、そんな父親の血を持つ事にいらだちを募らせる高校生とのひと夏の物語が展開する。
監督は青山真治。
出演は菅田将暉、木下美咲ら。
「共喰い」は芥川賞受賞の原作を忠実に再現しながら、映画独自の味わいをも兼ね備えた作品となっている。
原作は個人的な解釈では、性と暴力を通して血脈の連鎖を描いた作品である。
だが一方の映画は、血脈と暴力を通して性の主体性を描いているように見えるのだ。
そしてそのオリジナルの要素のおかげで、本作は男の物語から女の強さを描いた映画へと変貌しているように感じるのである。
主人公の遠馬の父親は、暴力的な男で、セックスをするたびに女を殴りつけるようなひどい一面を持っている。
彼がそんなことをするのは、そうした方が、より強い性的快感を得られるからだ。
それは一方的な男の理屈で、女はいいようにいたぶられているようなものだ。
そんな父親に対して息子は嫌悪を抱き、その血を引いているという事実に、いらだちをもっている。
そのため恋人とのセックスのときも、彼なりに気を遣っているのだ。
しかしそんな風に気を遣っていても、恋人に対して衝動的に暴力をふるうこともあった。
そこからは血の忌まわしい連鎖を見る思いがする。
そんな男たちに対して、女たちは彼女たちなりの思いで行動する。
母親はその血と悪夢の連鎖を断ち切るために、思い切った行動に出ている。
田中裕子は冷めた雰囲気をまとっているけど、その行動はともかく力強い。
また遠馬の義母に当たる琴子さんは、夫からの暴力から逃れるためになんとしてでも妊娠しようとしたし、最終的には思い切って夫の元から離れようとしている。
それを見ていると、彼女たちは彼女たちの方法で戦っているのだろうと思えてならない。
またセックスに関しても、女たちは最後、主体的な行動を取っているのだ。
そこには前半部の、セックスによって男たちに痛めつけられる女の姿はない。
彼女たちはあくまで自分の欲望に応じて、性に望んでいるのだ。
そこからは男女の逆転現象が見られて、興味深い。
そしてそれもまた、暴力的な男たちとは違う、女たちの力強さでもあるのだろう。
そんな女たちの姿を描いたオリジナルの良さと、血の連鎖という原作の良さとが、上手く融合した佳作であると思った次第だ。
評価:★★★★(満点は★★★★★)
原作の感想
田中慎弥『共喰い』
良かったですか?私は映画化の話を聞いた時、こんな陰惨な物語を映画にするの!?と思ってしまいました。
主人公の両親に特に嫌悪感を持ちましたねー。変態性のある父親は勿論ですが実の母親も嫌いです。
母親が父親と結婚する前に交際していた男性とのエピソードなどゾッとします。
でも主人公役の俳優は原作のイメージに合ってると思いました。父親役の光石研は
あんな感じの人ではないし、割と好きなので、えー光石研がやるの!とちょっとショックでした。
つまらないことをタラタラと書いてしまいました(・∀・;)
原作が合わなかったのならば、映画の方も合わないのかな、と思います。確かに登場人物の多くは不快で、好き嫌いは分かれそうだと思います。
でも僕は結構原作が好きだったし、こういう人もいるんだろうな程度にしか思わなかったので、映画も素直に楽しめました。
主人公の青年はなかなか雰囲気があって良かったです。鬱屈を抱えている感が出ていました。
光石研はどうでしょうね。確かに最初はなじめない感じもありましたが、だんだん気にならなくなりましたよ。