私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

『権現の踊り子』 町田康

2006-11-22 20:09:53 | 小説(国内男性作家)


芥川賞作家、町田康の初短編集。
権現市に買い物に出掛け、そこで稚拙な踊りのリハーサルに巻き込まれるに至る表題作をはじめ、6作品を収録。表題作で川端康成文学賞を受賞。
出版社:講談社(講談社文庫)


町田康の作品には、世間的に見てわりあいだらしない人生を送っている人物を登場させることが多い。そしてそこで語られる物語はテンポがよく、笑いを誘う。
今回の作品集にも、そんな町田康らしさがちりばめられていて、読み応えがあるものが多かった。

個人的には、「ふくみ笑い」が好みだ。
そのグロテスクなイマジネーション、被害妄想に満ちた主観、狂気に対する描写、深読み可能なメタファー、とにかくも多様な世界が展開されていて、実に楽しい。そして同時に、その物語世界と、主人公の取り巻く状況に対して、かなりの恐ろしさを感じさせる。まるで毒のように痛烈なすばらしい作品だ。

表題作の「権現の踊り子」も短編なれど、読み応えがある。
根拠のない自信をもっていたり平気でDVをするのに態度は卑屈な人々の姿や、醜悪にしか見えない人たちと自分はどれほど違うのだろうという恐怖などには、「ふくみ笑い」とは違う寒気がただよっているような気がした。

その他にも、最高にバカバカしいスラップスティックの「逆水戸」など、町田康の実力と、味わいの違いを感じさせる作品集である。

評価:★★★(満点は★★★★★)

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