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ぴかりんの頭の中味

主に食べ歩きの記録。北海道室蘭市在住。

【本】すべてがFになる THE PERFECT INSIDER

2007年02月08日 22時06分51秒 | 読書記録2007
すべてがFになる THE PERFECT INSIDER, 森博嗣, 講談社文庫 も-28-1, 1998年
・『某国立大学の工学部助教授』の肩書きをもつ売れっ子作家による、犀川助教授・西之園萌絵のS&Mシリーズ第一作。その名をよく目にしていましたが、今回初めてその作品を読みました。副業として書かれた、理系の要素を取り入れてちょっと目新しい感じのする推理小説か、という程度の認識でしたが、予想は大きく裏切られ嬉しい誤算。こりゃやられた。解くのは絶対無理!と思えるような問題を鮮やかに解いていく、推理小説の醍醐味を久々に堪能しました。随所にちりばめられた著者自身の研究者としての哲学というか思想が興味深い。多少マンガチックな部分が鼻につく。
・『真賀田四季』という登場人物について、天才的な頭脳を持つことと自分を完璧にコントロールすることとは根本的に別な話で、これを難なく両立してしまっている点にひっかかり(違和感)を感じます。でも魅力的なキャラクター。他にも気になる点があるが、ネタバレになってしまうので略。
・英題の『INSIDER』という単語。和英辞典では『内部の人、会員、消息通』などとあっさりした訳のみですが、英英辞典を引いてみると『a person who knows a lot about a group or an organization, because they are part of it』と、本書を読み終わってみるとゾゾっとするような語句解説が。
・『犀川』『西之園』『真賀田』等々凝った登場人物の名前が多いけど、何か意味があるのかな?
・遅いのか早いのかわかりませんが、397ページで犯人がわかりました。私の場合。
・「それでは、なぜ人間は交換をするのであろう。その理由は脳にある。脳は情報を交換する器官だからである。まったく異なるものを交換し、等値化できるアナロジーを有する。記号や言語は、見ることも聴くこともできる。すなわち、電磁波と音波が脳の中で等値変換されて、私たちのシンボル活動が生じている。「金の匂いがする」とは、食物と金が交換され、代替できなければ成り立たない。アナロジーを利用して、対象世界をシミュレートするということは、実のところ人間の大きくなって余剰になった脳に由来するのである。一つの信号に対する一つの反応の回路が余分にあるために、喩えるものと、喩えられるものとが生まれ、代替が起こり、シミュレートを試みる。かくして、この余剰が比喩となり、抽象化を生み、オブジェクト指向の考え方になったのである。 (青木淳/『オブジェクト指向システム分析設計入門』)」p.7
・「それが、人間の思考の切れ味というものなの。貴女、今、急にそれを思いついたでしょう? 素晴らしいわ……。それが機械にはできません。」p.14
・「(大学に委員会がなかったら、たぶん、研究は倍の速度で進むだろう)」p.26
・「相手の言葉を繰り返す場合は、認識に時間がかかっている証拠であり、ほとんどの場合、思考が停止していると見て良い。」p.44
・「木陰はかなり涼しく、意識して聞くと蝉の声がホワイトノイズのように一定だった。」p.70
・「自然を見て美しいなと思うこと自体が、不自然なんだよね。汚れた生活をしている証拠だ。」p.78
・「人間が作った道具の中で、コンピュータが最も人間的だし、自然に近い」p.79
・「僕ら研究者は、何も生産していない、無責任さだけが取り柄だからね。でも、百年、二百年さきのことを考えられるのは、僕らだけなんだよ」p.81
・「コックピットというのは棺桶という意味です」p.193
・「どこにいるのかは問題ではありません。会いたいか、会いたくないか。それが距離を決めるのよ」p.279
・「思い出と記憶って、どこが違うか知っている?(中略)思い出は全部記憶しているけどね、記憶は全部は思い出せないんだ」p.289
・「地球の最初の生命はどうして誕生したのか? どんな説にしたって、そんな奇跡的なことが何故起こったのか、と問われるんですよ。一番、可能性のあるものを取るしかない。それを信じるしかないのです。」p.300
・「Time is moneyなんて言葉があるが、それは、時間を甘く見た言い方である。金よりも時間の方が何千倍も貴重だし、時間の価値は、つまり生命に限りなく等しいのである。」p.308
・「情報が不足しているわけじゃないよ。考えが及ばないだけだ」p.310
・「人間ほど歴史を後生大事にする生き物はいない」p.357
・「元来、人間はそれを目指してきた。仕事をしないために、頑張ってきたんじゃないのかな?(中略)仕事をすることが人間の本質ではない。ぶらぶらしている方が、ずっと創造的だ。それが文化だとおもうよ、僕は」p.359
・「「変数の定義部分は?」と犀川の厳しい声。  またリストが流れる。  「グローバルの……、えっと、スタティックですね。インティジャだわ」島田が答えた。  「ロング?」犀川は質問する。  「いえ、ショート」と島田。「アンサインド・ショート」  「これは……、インティジャは2バイトだね?」島田が答え終わらないうちに、犀川が質問する。  「2バイトです」島田は答えた。  「西之園君」犀川は振り向いて萌絵を見た。こんなにてきぱきとものを言う最川を、萌絵は今までに見たことがなかった。「256と256のかけ算をして」  「65536」萌絵は即答した。」p.415 いかにも理系・・・というか情報系な会話。しかし、256×256=2の16乗=65536くらい普通頭に入ってそうなもんですが。
・「つまり、日本は、液体の社会で、欧米は固体の社会なんですよ。日本人って、個人がリキッドなのです。流動的で、渾然一体になりたいという欲求を社会本能的に持っている。欧米では、個人はソリッドだから、けっして混ざりません。どんなに集まっても、必ずパーツとして独立している……。ちょうど、土壁の日本建築と、煉瓦の西洋建築のようです」p.430
・「僕の個人的な意見として、人間って、単一人格者の方が少ないと思っている(中略)日本人って、個人の中の沢山の人格を、液体のようにミックスして撹拌してしまうのです。欧米の思想はそうではない。やっぱり固体なのです。日本もこれから、だんだんソリッドになっていくのでしょうか?」p.463
・「死を恐れている人はいません。死にいたる生を恐れているのよ」p.495
・「意識がなくなることが、正常だからではないですか? 眠っているのを起こされるのって不快ではありませんか? 覚醒は本能的に不快なものです。誕生だって同じこと……。生まれてくる赤ちゃんだって、だから、みんな泣いているのですね。生れたくなかったって……」p.496
・「自分の人生を他人に干渉してもらいたい、それが、愛されたい、という言葉の意味ではありませんか?」p.497
・以下、解説(瀬名秀明)より「太田忠司や辻真先がすでに指摘していることだが、とくに性格の書き分けや台詞の選択が絶妙だ。」p.514 この言葉には同意しかねる。
・「では森博嗣の本質はどこにあるのか。何が森博嗣の小説を「理系」たらしめているのか。  それは認識やリアリティに対するアプローチの仕方なのである。」p.516
・「この意味で私は森博嗣と京極夏彦の強い類似性を感じる。小説の中に謎は存在しない。読者のリアリティの中にこそ謎が存在する。このことを自覚的に私たちに提示したのが森博嗣であり京極夏彦なのだ。彼らが決定的に新しい理由はここにある。」p.517

?おきあがり‐こぼし【起上小法師・不倒翁】 (「おきあがりこぼうし」とも)達磨(だるま)などの人形で、底におもりのついたおもちゃ。倒しても、おもりのせいですぐに起きあがるようにしたもの。おきゃがりこぼし。
※これまで「おきあがりこ<ぶ>し」と思ってきたが「こぼし」が一般的なのか。しかも「」って・・・知らなかった・・・
?ミナレット(英minaret) イスラム教の寺院(モスク)に設ける細長い尖塔(せんとう)。古くは一寺院に一基であったが、後代には六基まで建てる。一般に一ないし数個の節状のバルコニーをもつ。
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