波の塔 (上)(下), 松本清張, 文春文庫 ま-1-5・6, 1974年
・92年に没して以来、けっこうな年月が経ちました。そろそろ『松本清張てだれ?』などと言う世代がボツボツ現れるのでしょうか。恐ろしや。 『この次はどうなるのだろう?』というドキドキワクワク感。『あれ?これどうなってたっけ?』と数ページ戻って読み直す、などというひっかかりがなく、スムーズに読み進められる文章運び。ついでに言うと、冷静に考えれば『ありえない!』ような設定でも違和感無く納得してしまう、その語り口。とても安心感のある小説です。
・1959~1960年に雑誌『女性自身』に連載された作品。青年検事の小野木喬夫と謎の女結城頼子の関係を描いた、松本清張としては異色の恋愛小説という紹介をされていますが、ミステリーやサスペンスなどの要素もとりこまれており、単なる恋愛小説の枠に収まらない作品です。映画やテレビドラマにもなったようですが、私の世代ではちょっとわからない。。。私の親の世代ならわかるのかな? この作品が、青木ヶ原の樹海が自殺の名所となるきっかけとなったほど、社会に与えた影響が大きかったようです。
・「「道があるから、どこかへ出られると思ったけれど、どこへも行けない道って、あるのね」」上巻 p.60
・「「いずれ、女房は東京の者をもらうのだろうな? 住むのはいいが、女房にするのは、東京者は考えものだ」
「なぜだ?」
「女房は関西がいい。第一、経済観念があるし、親切だ。そして住むのは東京だね。これが理想的だ」」上巻 p.105
・「――小野木さんは、ご自分のまえに立っているわたしだけを対象にしてくださったら、それでよろしいんですわ。わたしの後ろに、どんな線があるのか、ご存知なくともいいんです。」上巻 p.188 これぞ魔性の女。
・「日曜の朝の電話というと、ひどく感度がいい。」上巻 p.277 昔はこうだったんだなぁ・・・
・「女は好きな男のためには、さまざまな食べものを奉仕するものらしい。」下巻 p.123
・「ただ、ぼくは、あなたというひとりの人間だけあればいいのです。その背景も、つながりも知る必要はありません」下巻 p.180
・「ふしぎだわ。こうして、あなたと、この場所にいっしょにいることが」下巻 p.186
・「感覚に密度がないのである。」下巻 p.218
・「疑獄事件は、いつも捜査が中途半端になるのが常識になっています。このさい、今度こそしっかりやっていただきたいですね。これは国民の声です。」下巻 p.294
・「この話は、妥協の余地がなかったことにしよう。」下巻 p.317 戦慄を覚える一言。
・「実体は、それが過ぎてしまえば何もないと同じことだった。現実感はいつも現在であり、でなければ現在から未来へわたる瞬間に限られていた。実体は現在にしかないのだ。それが過去になると幻影に変わってしまう。」下巻 p.346
・以下、田村恭子氏による解説より 「清張さんは不思議な方で、ご自分の小説について(まだ書かれていないが)話をされるのが、すばらしく上手なのである。いわゆる能弁では決してないのに、こちらの興味を巧みに惹きつけて、わたしたちはどうしてもその続きを聞いてみたいという誘惑にかられてしまう。」下巻 p.377
・「恋愛小説における"みそ"は、いかにして恋する男と女の間を邪魔する堰をつくるかということに尽きるのではあるまいか。」下巻 p.378
・「第一、そのような翳りのある女であることに、男は最初から惹かれたのではなかったか。彼女が健康でピチピチしていて幸せいっぱいに見える女であったなら、最初の出会いのとき、ああまで親切にしたかどうか。」下巻 p.380
・「「波の塔」は今まで何回が映画やテレビに登場した。多分、この頼子役はたいていの女優さんが夢みるような役だろうと思うけれど、わたしとしては、まだ一度も、ああ、ぴったりだなあと感嘆するような頼子にはめぐりあっていない。清純すぎたり、かわいらしかったりで、頼子の持っている魔性みたいなものと、おとなの女の色気を匂わせてくれた人はいなかった。」下巻 p.380
~~~~~~ ~
?ゆうよく【遊弋・游弋】 定まったルートをもたず、徘徊すること。特に、軍艦が、徘徊・航行して、敵に備えること。
?しょうじょう【蕭条】 1 ものさびしいさま。「満目蕭条」 2 生気をなくしてひっそりとした様子になること。
?エポック(英epoch) 時代。特に、それまでとは違った意味をもった時期、段階。
?ちょりつ【佇立】 たたずむこと。
?そほん【粗笨・麁笨】 あらく、雑なこと。粗雑。粗大。粗放。「粗笨な計画」
?しっこく【桎梏】(「桎」は足かせ、「梏」は手かせの意)手かせと足かせ。転じて、自由な行動を束縛すること。また、そのもの。「桎梏をのがれる」
?しょうき【瘴気】 熱病を起こさせる山川の悪気や毒気。
?こうのう【行嚢】 1 =ゆうたい(郵袋) 2 旅行に用いる袋。行李(こうり)。
?らんだ【懶惰・嬾惰】 なまけ怠ること。無精をすること。また、そのさま。怠惰。「懶惰な生活」
?ぼうこ【茫乎】 とりとめのないさま。はっきりしないさま。広々としているさま。
?たいへいらく【太平楽】 1 好き勝手なことやのんきな言い分。また、それをいうこと。 2 勝手気ままな振舞い。また、そのさま。
?さたん【嗟嘆・嗟歎】 1 感じいってほめること。感心してほめること。 2 なげくこと。
?やしゅ【野趣】 野山や田舎に漂う自然の趣。自然で素朴な感じ。鄙(ひな)びた味わい。「野趣に富む」
?ろうれつ【陋劣】 卑しくおとっていること。下劣。「陋劣な手段を弄する」
・92年に没して以来、けっこうな年月が経ちました。そろそろ『松本清張てだれ?』などと言う世代がボツボツ現れるのでしょうか。恐ろしや。 『この次はどうなるのだろう?』というドキドキワクワク感。『あれ?これどうなってたっけ?』と数ページ戻って読み直す、などというひっかかりがなく、スムーズに読み進められる文章運び。ついでに言うと、冷静に考えれば『ありえない!』ような設定でも違和感無く納得してしまう、その語り口。とても安心感のある小説です。
・1959~1960年に雑誌『女性自身』に連載された作品。青年検事の小野木喬夫と謎の女結城頼子の関係を描いた、松本清張としては異色の恋愛小説という紹介をされていますが、ミステリーやサスペンスなどの要素もとりこまれており、単なる恋愛小説の枠に収まらない作品です。映画やテレビドラマにもなったようですが、私の世代ではちょっとわからない。。。私の親の世代ならわかるのかな? この作品が、青木ヶ原の樹海が自殺の名所となるきっかけとなったほど、社会に与えた影響が大きかったようです。
・「「道があるから、どこかへ出られると思ったけれど、どこへも行けない道って、あるのね」」上巻 p.60
・「「いずれ、女房は東京の者をもらうのだろうな? 住むのはいいが、女房にするのは、東京者は考えものだ」
「なぜだ?」
「女房は関西がいい。第一、経済観念があるし、親切だ。そして住むのは東京だね。これが理想的だ」」上巻 p.105
・「――小野木さんは、ご自分のまえに立っているわたしだけを対象にしてくださったら、それでよろしいんですわ。わたしの後ろに、どんな線があるのか、ご存知なくともいいんです。」上巻 p.188 これぞ魔性の女。
・「日曜の朝の電話というと、ひどく感度がいい。」上巻 p.277 昔はこうだったんだなぁ・・・
・「女は好きな男のためには、さまざまな食べものを奉仕するものらしい。」下巻 p.123
・「ただ、ぼくは、あなたというひとりの人間だけあればいいのです。その背景も、つながりも知る必要はありません」下巻 p.180
・「ふしぎだわ。こうして、あなたと、この場所にいっしょにいることが」下巻 p.186
・「感覚に密度がないのである。」下巻 p.218
・「疑獄事件は、いつも捜査が中途半端になるのが常識になっています。このさい、今度こそしっかりやっていただきたいですね。これは国民の声です。」下巻 p.294
・「この話は、妥協の余地がなかったことにしよう。」下巻 p.317 戦慄を覚える一言。
・「実体は、それが過ぎてしまえば何もないと同じことだった。現実感はいつも現在であり、でなければ現在から未来へわたる瞬間に限られていた。実体は現在にしかないのだ。それが過去になると幻影に変わってしまう。」下巻 p.346
・以下、田村恭子氏による解説より 「清張さんは不思議な方で、ご自分の小説について(まだ書かれていないが)話をされるのが、すばらしく上手なのである。いわゆる能弁では決してないのに、こちらの興味を巧みに惹きつけて、わたしたちはどうしてもその続きを聞いてみたいという誘惑にかられてしまう。」下巻 p.377
・「恋愛小説における"みそ"は、いかにして恋する男と女の間を邪魔する堰をつくるかということに尽きるのではあるまいか。」下巻 p.378
・「第一、そのような翳りのある女であることに、男は最初から惹かれたのではなかったか。彼女が健康でピチピチしていて幸せいっぱいに見える女であったなら、最初の出会いのとき、ああまで親切にしたかどうか。」下巻 p.380
・「「波の塔」は今まで何回が映画やテレビに登場した。多分、この頼子役はたいていの女優さんが夢みるような役だろうと思うけれど、わたしとしては、まだ一度も、ああ、ぴったりだなあと感嘆するような頼子にはめぐりあっていない。清純すぎたり、かわいらしかったりで、頼子の持っている魔性みたいなものと、おとなの女の色気を匂わせてくれた人はいなかった。」下巻 p.380
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?ゆうよく【遊弋・游弋】 定まったルートをもたず、徘徊すること。特に、軍艦が、徘徊・航行して、敵に備えること。
?しょうじょう【蕭条】 1 ものさびしいさま。「満目蕭条」 2 生気をなくしてひっそりとした様子になること。
?エポック(英epoch) 時代。特に、それまでとは違った意味をもった時期、段階。
?ちょりつ【佇立】 たたずむこと。
?そほん【粗笨・麁笨】 あらく、雑なこと。粗雑。粗大。粗放。「粗笨な計画」
?しっこく【桎梏】(「桎」は足かせ、「梏」は手かせの意)手かせと足かせ。転じて、自由な行動を束縛すること。また、そのもの。「桎梏をのがれる」
?しょうき【瘴気】 熱病を起こさせる山川の悪気や毒気。
?こうのう【行嚢】 1 =ゆうたい(郵袋) 2 旅行に用いる袋。行李(こうり)。
?らんだ【懶惰・嬾惰】 なまけ怠ること。無精をすること。また、そのさま。怠惰。「懶惰な生活」
?ぼうこ【茫乎】 とりとめのないさま。はっきりしないさま。広々としているさま。
?たいへいらく【太平楽】 1 好き勝手なことやのんきな言い分。また、それをいうこと。 2 勝手気ままな振舞い。また、そのさま。
?さたん【嗟嘆・嗟歎】 1 感じいってほめること。感心してほめること。 2 なげくこと。
?やしゅ【野趣】 野山や田舎に漂う自然の趣。自然で素朴な感じ。鄙(ひな)びた味わい。「野趣に富む」
?ろうれつ【陋劣】 卑しくおとっていること。下劣。「陋劣な手段を弄する」