「全ての人生劇というものは結婚をもって終わるって、バイロンのヤローは言ってたけど、オレは待ち遠しいなぁ……」
カズトは、婚姻届の「夫になる人」の欄に名前を書き込みながら嬉しそうに微笑んだ。
私達は、婚姻届を挙式したその足で提出しようと決めた。
カズトは市役所で手に入れた婚姻届を、家に帰るなり書き始めていた。
そして、「夫の職業」の欄で手を止めると、「げっ!オレ、もしかして無職?カッコわりぃ。学生じゃダメなのかよ!?」と、紙に向かって1人突っ込みを入れては、私を笑わせた。
一通り書き終わると、テーブルの向かい側に座って見ていた私の方に紙の方向を変え、「ん!」と顎をしゃくりあげながらボールペンごと渡した。
緊張に震える私の手を見ながら、カズトの方が息を飲み緊張しているようだった。
何とか「妻になる人」の欄に自分の名前を書き終え、私が「ほぉ~」とおでこの汗を拭っていた時、カズトが「あ゛ーーーーーーーー!!!」と叫び、私の頭をペンッ!と叩いた。
「このバカタレ!ここは『片岡』じゃなくて、今の名前の『園田』だろぉ!」
「あ、そ……っなの?」
「あ、そ……っなの?じゃねぇよ!お前、全っ然、説明聞いてなかったな!!」
カズトは、がっくりと肩を落とすと、書き損じた婚姻届をビリビリと破り始めた。
そして、もう一度、新しい婚姻届をべしっとテーブルに置くと自分の欄を書き始めた。
「ったく。手の掛かるヤツ!さっきの方が、字がマシに書けてたのに……」
カズトが書き終わり、再度私が書く番になった。
2回目は失敗しないように、更に緊張しながらペンを滑らせていたけど、「本籍地」に「東京」と書いて手が止まった。
「カズト……。ごめんね。……間違えちゃった……かも」
カズトは、目を皿のようにして、「またかよ……」と怒りに声を震わせた。
「そう言えば、うちは本籍地って長崎だったような気がする」
「おいっ!今頃言うか?!」
カズトは私のおでこをグリグリすると、「家に電話して確認しろよ!」とむくれた。
私が急いで家に電話するとママが出た。
「そうよ。良く覚えてたわね~。パパの実家があった、長崎のまんまよ」
「やっぱり……。詳しい本籍地の住所とか筆頭者の氏名とか分かるかな?」
「パパに聞いてみないと……」
はぁ~と私が溜息を吐くと同時に、背後でカズトがやけくそ気味に婚姻届を細かく千切り、ふーふーと息を吹きかけながら紙吹雪を散らしていた。
もう!後で掃除をするのは私なのに……
「分かった。じゃ、明日、挙式の前に、パパのサインを貰う時に一緒に書くから教えてね」
そう言って、切ろうとした時、「あ!ハルナ、そう言えば、『フジエダトオル』君って言う男の子から、電話を貰ったわよ」とママが急に彼の名前を口にした。
突然のことに、心臓が動揺しざわざわと騒ぎ出す。
「……いつ?」
「いつだったかしら??」
「……なんて、言って……たの?」
ママが答えようとした時、カズトが「オレにも代わって!」と受話器を持つジェスチャーをしたから聞けなかった。
「ごめん。カズトが代わりたいって」
私はカズトに受話器を渡すと、思いも掛けず彼の名前を耳にし、高鳴る胸を抑えてベランダに出た。
遠く瞬く一番星を見上げて、ふっと笑った。
「名前を聞いただけで動揺しちゃうなんて……。
ママはダメダメだよね」
お腹の赤ちゃんに話し掛けながら、ひんやりとする手摺に手を添えて、顔を埋めた。
目を瞑ると、不意に彼の面影が浮かび、慌てて手の甲で涙を拭った。
冷気に体を震わせ室内に入る前に、もう一度、一番星を見上げた……
トオル君……
明日、私は『片岡春名』になります。
↑「いま、会いにゆきます」で有名な♪アルファポリスです
↑ランキング上位に入ってしまいました(@ O @)応援有り難うございます♪
カズトは、婚姻届の「夫になる人」の欄に名前を書き込みながら嬉しそうに微笑んだ。
私達は、婚姻届を挙式したその足で提出しようと決めた。
カズトは市役所で手に入れた婚姻届を、家に帰るなり書き始めていた。
そして、「夫の職業」の欄で手を止めると、「げっ!オレ、もしかして無職?カッコわりぃ。学生じゃダメなのかよ!?」と、紙に向かって1人突っ込みを入れては、私を笑わせた。
一通り書き終わると、テーブルの向かい側に座って見ていた私の方に紙の方向を変え、「ん!」と顎をしゃくりあげながらボールペンごと渡した。
緊張に震える私の手を見ながら、カズトの方が息を飲み緊張しているようだった。
何とか「妻になる人」の欄に自分の名前を書き終え、私が「ほぉ~」とおでこの汗を拭っていた時、カズトが「あ゛ーーーーーーーー!!!」と叫び、私の頭をペンッ!と叩いた。
「このバカタレ!ここは『片岡』じゃなくて、今の名前の『園田』だろぉ!」
「あ、そ……っなの?」
「あ、そ……っなの?じゃねぇよ!お前、全っ然、説明聞いてなかったな!!」
カズトは、がっくりと肩を落とすと、書き損じた婚姻届をビリビリと破り始めた。
そして、もう一度、新しい婚姻届をべしっとテーブルに置くと自分の欄を書き始めた。
「ったく。手の掛かるヤツ!さっきの方が、字がマシに書けてたのに……」
カズトが書き終わり、再度私が書く番になった。
2回目は失敗しないように、更に緊張しながらペンを滑らせていたけど、「本籍地」に「東京」と書いて手が止まった。
「カズト……。ごめんね。……間違えちゃった……かも」
カズトは、目を皿のようにして、「またかよ……」と怒りに声を震わせた。
「そう言えば、うちは本籍地って長崎だったような気がする」
「おいっ!今頃言うか?!」
カズトは私のおでこをグリグリすると、「家に電話して確認しろよ!」とむくれた。
私が急いで家に電話するとママが出た。
「そうよ。良く覚えてたわね~。パパの実家があった、長崎のまんまよ」
「やっぱり……。詳しい本籍地の住所とか筆頭者の氏名とか分かるかな?」
「パパに聞いてみないと……」
はぁ~と私が溜息を吐くと同時に、背後でカズトがやけくそ気味に婚姻届を細かく千切り、ふーふーと息を吹きかけながら紙吹雪を散らしていた。
もう!後で掃除をするのは私なのに……
「分かった。じゃ、明日、挙式の前に、パパのサインを貰う時に一緒に書くから教えてね」
そう言って、切ろうとした時、「あ!ハルナ、そう言えば、『フジエダトオル』君って言う男の子から、電話を貰ったわよ」とママが急に彼の名前を口にした。
突然のことに、心臓が動揺しざわざわと騒ぎ出す。
「……いつ?」
「いつだったかしら??」
「……なんて、言って……たの?」
ママが答えようとした時、カズトが「オレにも代わって!」と受話器を持つジェスチャーをしたから聞けなかった。
「ごめん。カズトが代わりたいって」
私はカズトに受話器を渡すと、思いも掛けず彼の名前を耳にし、高鳴る胸を抑えてベランダに出た。
遠く瞬く一番星を見上げて、ふっと笑った。
「名前を聞いただけで動揺しちゃうなんて……。
ママはダメダメだよね」
お腹の赤ちゃんに話し掛けながら、ひんやりとする手摺に手を添えて、顔を埋めた。
目を瞑ると、不意に彼の面影が浮かび、慌てて手の甲で涙を拭った。
冷気に体を震わせ室内に入る前に、もう一度、一番星を見上げた……
トオル君……
明日、私は『片岡春名』になります。
↑「いま、会いにゆきます」で有名な♪アルファポリスです
↑ランキング上位に入ってしまいました(@ O @)応援有り難うございます♪