フラワーガーデン

ようやく再会したハルナとトオル。
2人の下す決断は?

リングの痛み

2006年03月18日 21時13分25秒 | 最終章 エターナル
「YESと言ってくれないか……?」

トオル君は私の頬を撫でながら言った。
「キスしてもいい?」

何ヶ月振りかのトオル君のキス……
私は、静かに目を瞑り、川のせせらぎを聞いた。


「YESと言うまで、キスするから……」
トオル君のイジワルは健在だった。
「じゃ、ずっと言わない……」
「それは、困る。のぼせてしまうよ……」

それでも、笑いながらトオル君は静かに唇を重ねた。

頬を撫でていた指が、ゆっくりと胸元のバスタオルを解いていく。


つらかった日々が、涙になって零れ落ちた。
トオル君が去って淋しかった日々も、再会した後のつらい想いも、彼の腕の中で全てが幸せな思い出に変わっていく……


嬉しい……
こんなに嬉しい事ってない……
彼の想いを全身で感じながら、もう、迷いはなかった。

何度目かの彼の唇を受け入れようとした時、私の唇から言葉が漏れた。

「イ……」

その時、トオル君の指が優しく私の顔の輪郭をなぞった。

チクンとした痛みが眉の上を走り、
「いたっ!」
と、小さく叫ぶと、私は思わず眉山を抑えた。

トオル君は、その手をどけながら、
「ここのところが、少し赤くなっているね……。どうした?」
と、私の眉を撫でた。

突然、心臓を激しい痛みが貫いた。

「服、ごめんな」
「弁償するから……」
「慰謝料分」
「お前以外の誰に贈るんだよ!」

私ははっとして左手の薬指を見た。
節くれ立った指が、私の左手を引き寄せ、その薬指にリングを嵌めていた。


―――――学生の身で100万円は無理だから。これはそんなに高くないけど、いつか本当に高いの買ってやるよ―――――

照れ笑いしながら、玄関を出る彼の影が鮮明に浮かんだ。


……カズト!



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もう一つの未来

2006年03月18日 17時38分18秒 | 最終章 エターナル
お腹の張りは幸運にも暫くすると治まった。
「診ると言って、患者に暴力を振るわれたのなんて初めてだ」
トオル君は苦笑い。
私は真っ赤になって、交互に「だって」と「ごめんなさい」。

2人で浴衣を着て、石畳の上を下駄の音を響かせながら歩いた。
離れにあると言うお風呂場まで、笹の葉がさわさわと風に靡く音を聞きながら手を繋いで歩いた。
トオル君は背がとても高いから、浴衣から長い足が出てしまって、おかしくて笑ってしまった。

竹林に囲まれた風情のあるお風呂は、日本の情緒たっぷりでとても素敵だった。
笹の中に隠れてたいくつもの照明が、暗闇の竹林を美しく照らし出していた。
「じゃ、後で。1時間後位に」
私達はそう言ってそれぞれの脱衣所に入っていった。

……けど、脱衣所から出てお風呂の戸を開けるとトオル君がいた。
「うわっ!」
「きゃーーーーーーーーーーーー!?」
トオル君は既にお風呂に浸かっていた。
私は慌てて、体をタオルで隠すと脱衣所に戻り、浴衣を着て、動揺しながら入り口に掲示板や看板とかないか探した。
すると、入り口にちっちゃくお札が……。
「混浴専用露天風呂」
み、見落としてた。
トオル君も浴衣を着て、いつの間にか私の隣りに来ていた。

「……僕はここで見張ってるから、君だけとりあえず入っておいでよ」
「いいよ!トオル君こそ先に……」
「いいから、君が先に入って部屋に戻って……」
と、言い合っているうちに、2人とも冷えたのか同時にくしゃみをした。

私達は2人とも顔を見合わせて、クスクスと笑った。

「……2人で入ろう」
トオル君の言葉に、心臓が大騒ぎしてしまった。
「僕のバスタオルを貸すから、君のは巻いて入ればいい」

結局、2人で入る事になってしまった。

葉擦れの音が心地良くて、最初は緊張していた私もすっかりリラックスしていた。
見上げると綺麗な星空が瞬いて、心が吸い込まれそうな気がしてくる。

トオル君は、星空を見上げながら不意に言った。
「ハルナ、これから僕の言う事を真剣に考えて欲しいんだけど……」
「え?」

笹の葉がくるくると風に舞って、お風呂の外にある小さな川の流れに飲まれていく……。

「僕と結婚して、その子を一緒に育てないか?」
私は驚きのあまり、一瞬、彼が何を言っているのか理解できなかった。

胸の鼓動が速くなる……
「突然で……」
言葉が続かなかった。
「突然じゃないよ。今までずっと、その事を考えていたんだ……」

私は、新幹線の中で、ずっと外を見ていたトオル君の姿を思い出していた。

「……片岡は、憎い。あいつの子供だ、と思うと正直、胸が張り裂けそうだ……。
だけど……」
トオル君は私の手を取ると、その甲にキスをした。
「だけど、君を失いたくないと言う気持ちの方が大きいんだ」

私は、トオル君が言っていた「別れない」と言う言葉の裏にある彼の決意を初めて知り、動揺を隠せなかった。




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トオル君の受難

2006年03月18日 00時27分01秒 | 最終章 エターナル
その日の京都は、東京よりも少し肌寒くて、私は少し悪寒を感じた。
トオル君は、コートを脱ぐと私に掛け、肩を抱いた。
私は彼に肩を抱かれながら、涙を拭き拭き、碁盤目のような京都の町を歩いた。
「大丈夫?」
彼の言葉に頷いたけど、そういって数歩も歩かないうちに、お腹がキューっとなるような痛みを感じた。

お腹がどんどん固くなっていくような感じがして、額に汗が滲み始めた。

「トオル君、ごめん。つらい……」

抱え込むようにお腹を抑えると、そのまましゃがみ込んでしまった。

「どうした?!」
トオル君が心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「分かんない。お腹が突然、キューって」
「張ってるような感じか?」
「分かんない……。それってどんな感じのこと言うの?」
トオル君に説明を受けたけど、その感覚がこれに該当するのかイマイチ分からなかった。
彼は辺りを見回し、私を抱き抱えると、近くの公園のベンチに私を横たえた。
「お腹、ちょっと触るよ」
そう聞くだけで、もっとお腹が緊張してくる。
「力を抜いて」
トオル君は、私のお腹を注意深く触っていた。
「やっぱり、張っているみたいだね……」


彼は手を離すと、考え込んでいるようだった。
「ハルナ、今、妊娠何週目」
「……19週目」
「じゃぁ、大丈夫かな。とりあえず、宿に入って安静にした方がいい」
トオル君は、タクシーを止めると行く先を告げた。
「赤ちゃん、大丈夫?」
「……恐らくね。5分ほどで着くから」
私は彼に膝枕をして貰いながら、宿に着いた。

トオル君に抱えられながら、部屋に入り、布団を引いてもらうとすぐに横になった。
少しだけ体が楽になったような気がして、ほっとしていた。

「まだ、張ってるね」

トオル君は私のお腹を触りながら、「う~ん。専門じゃ、無いけど……」と独り言を言った。
そして、時計を見つめ、次に私をじっと見つめると、袖を捲くり始めた。
「な、何?どうしたの?なにするの??」
咄嗟に不安が過ぎり、怯えながら質問した。
「これ以上張りが引かなかったり、何度も続くようだったら、内診するから」
彼は大真面目に答えた。

「そ、それだけは、死んでもイヤ!!!!トオル君のエッチ!!!!」

そう叫ぶと、トオル君の顔目掛けて枕を投げてしまったんだ……



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