フラワーガーデン

ようやく再会したハルナとトオル。
2人の下す決断は?

痛み

2006年03月09日 19時29分34秒 | 第13章 思愛編
時々砂浜を歩いたり、腰を下ろしたりして僕は長い長い時間を過ごしていた。
冬にも拘わらず、数人のサーファーがボードを巧みに動かし、波を捕えていた。

午前中までは、春を感じさせるような暖かい陽射しが海辺を照らしていたが、午後からは天候が一変した。
ポツポツと小さな雨が降り始め、やがては徐々に大きな粒も混ざり始めてきた。
僕はコートに手を突っ込んで、ずっと海を見ていた。
見ず知らずの女の子が、傘を差し出し、僕にくれた。

まだ16時だと言うのに空は真っ黒になり、激しい雨の前に、遂にサーファーもいなくなった。

包帯に雨が染み込み、まだ塞ぎきれていない掌の傷口からの鮮血が包帯を真っ赤に染めていた。

ここに来てから、既に11時間が経っていた。



背後に不意に人の気配がして、さっきこの傘をくれた女の子かと思い振り向くと、ハルナ、君が立っていた。
「バカだよ……。藤枝君……」

君は俯きながら僕の方に歩いて来た。
そして、黙って僕の手を取ると、何かを渡そうとしたが、僕の包帯の血を見るなり、小さな悲鳴を上げ、手で口を覆った。

「ト……藤枝君!どうしたの、これ?」
僕は何も答えずただ君を見つめていた。
「包帯の替えとか、薬とかは?」
「……別荘」
「痛む?」
「少し……。大丈夫、後で自分で替えるよ」と答えた。

仕方が無い……
君を抱きしめたくて、自然と手に力が入って、傷口が開いてしまうんだ。

君は、じっと僕の手を見ていたかと思うと、いきなり僕の手を引いて車道に出た。
そして、タクシーを止めると、「手当てをするだけだから……」と車に乗り込んだ。


タクシーは10分もしないうちに僕の別荘に着いた。
「濡れるよ」
と、差し出す僕の傘を君は、「藤枝君こそ」と押し返した。

ずぶ濡れになっている君を心配して、
「とりあえず、シャワーを浴びた方がいい」と言う僕の言葉に、
「直ぐに帰るから……。薬と包帯は?」と、君は取り付く島もない。

僕が部屋の机の引出しを教えると、君はテキパキと包帯の替えを始めた。
「ひどい。どうして、こんな……」
君の顔が歪む。
「痛……い?」
包帯を巻きながら、君の声が震えた。

「……凄く、痛いよ。……心がね」
そう言うと僕は思わず君を抱きしめていた。



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さよなら

2006年03月09日 10時08分58秒 | 第13章 思愛編
予感はあった。

だけど、やはり君の口から聞きたくなかった。
聞かなくてはならないことだとしても……。

大事そうに抱えていた君のバッグからは式場のパンフレットが顔を覗かせていた。

「式……挙げるの?」
「うん……3月27日に」

君の誕生日だねと、言い掛けて止めた。

「もう会わない……」
君の言葉は、鋭い刃物となって僕の胸をでえぐった。

「カズトが、不安がってるの。トオルく……藤枝君のことで」

彼を『カズト』と、そして僕のことを『藤枝君』と君は言った。
その呼び方に、彼と君の数ヶ月を見せつけられる思いがした。


「じゃぁ……、さようなら……」
君は、左手を差し出した。

……なにが、さよなら、なんだよ。
君は今にも泣きそうなのに。
僕を愛していると、君の瞳は言っているのに。

「この手じゃ、握手できないよ」
僕は、彼女の握手を拒絶した。
「そか……。じゃぁ」
と言って、君はその左手を目の位置で横に振り、
「ばいばい、だね」と笑ったかと、思うと、くるりと踵を返し、家の門をくぐった。

「ハルナ!!」
僕は門に手を掛け、君を追おうとした。
「来ないで!!」
君は僕に背を向けながら、震える声で、「もう、私を見ないで」と言った。

「明日、僕は江ノ島のあの海岸で待ってる!君が来てくれるまで、待ってる!
君と、君ともっとちゃんと向き合って話したい」

君は、ドアのノブに手を掛けると、
「行かない。行けないよ……」
と小さく答え、ドアの向こう側に姿を消した。







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