フラワーガーデン

ようやく再会したハルナとトオル。
2人の下す決断は?

ケータイ

2006年03月12日 19時34分25秒 | 最終章 エターナル
翌朝、マンションに戻って鍵を開けようとしたら、逆に鍵が掛かってしまった。

「あれ?おかしいな……。昨日、確かに鍵をかけて出掛けたはずなのに……」


私とカズトは結婚式までもう日がないから、と言う理由で3月から一緒に住み始めていた。
「一緒に住むなんて……。そんな、結婚前なのに……」
と、渋るママに、
「子供が生まれたら二人だけの静かな生活はもう出来なくなってしまいますから、ほんの少しでも2人の時間を持ちたいんです」
と、カズトは願い出て、実現させた。

もう一度、鍵穴を通し、扉を開けると、カズトが「よぉ。お帰り」と声を掛けてきた。

「カズト!昨日は研究室で泊まるって……」
「……のはずだったけど、お前が心配でね」
シャワーを浴びたばかりのようで、半袖にトレパンといった格好のカズトは、タオルで頭を拭きながら、冷蔵庫からウーロン茶を取り出し飲み始めた。

「で、どうだった?」
「……え?!」
「午前中の検査の後、そのまま実家に泊まってきたんだろう?
で、アカンボ元気だったか?」
「……あ、うん」
ドキドキしながら、本当のことを言うべきかどうか息を飲んだ。
「そのこと聞こうと思って、昨日、お前ン家にデンワしたら、誰も出ねーからさ。
やっぱ、心配したよ。食事にでも出掛けた?」
「……う、うん」
「ったく!いい加減、ケイタイ買うぞ!」
と、私の頭をくしゃくしゃにしながらカズトは笑った。

カズトの笑顔に胸が痛む。
何もやましいことなんか無いんだから、言った方がいいのかもしれない。
「あの……!」
そう言い掛けた時、空っぽのペットボトルを頭にコンコン当てていたカズトが、急に大声を上げた。
「あ!やっべー!!ウーロン、ラッパしちまった。ごめん。
今からお前の分、買ってくる」
「え!いいよ」
「よくねぇー。すぐ、戻るから」

カズトは急いで戻ってくると今度はすぐさま着替え始めた。
「今日は早く帰れるから一緒に招待状の続きを書こう」
そう言うと、バタバタと玄関から出て行った。

でも、数秒後、「充電!充電!」と、叫びながら戻ってきた。
「ケータイのこと?」
私が、慌てて、カズトの部屋へケイタイを取りに行こうとしたら、「ちげー」と笑いながら、私の腕を捕まえると、抱きしめて、キスをした。
「充電完了!」
カズトは慌しく扉を閉めると、呆気に取られた私を残してドタドタと出掛けてしまったんだ。



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訣別の朝

2006年03月12日 08時51分04秒 | 最終章 エターナル
海から吹き上げる風が、木々の梢を揺らし、さぁーっと雨の雫を落としていく。
雲に覆われていた月がようやく姿を現し、ベッドで寝ているトオル君の上で十字の影を落としていた。


トオル君は私を包むように眠っていた。
私は聴診器を外すと、トオル君を起こさないようにそっと彼の胸に耳を当てた。

トクン、トクン、トクン、トクン……

トオル君の心臓の音……
温かくて、優しい音……

私は顔を上げ、トオル君の寝顔をずっと見つめていた。
長い睫毛も、
透き通るような金髪も、
形のいいこの唇も、
全て目に焼き付けていこう……。

赤ちゃんを産もう……
そう決意した時から覚悟は出来ていた。
トオル君の側にはもういられないことを。

なのに……
彼の顔を見ると涙が出てしまう私は、なんて弱虫なんだろう……

気付くと窓の外は白々と夜が明け始めていた。

私は、ゆっくりと体を起こし、服を着替え始めた。
そして、テーブルの上にあるバッグからペンダントを取り出した。
私は彼の寝顔を見ながら枕元に跪くと、「ありがとう。トオル君」と微笑んだ。

あなたと出会えて、本当に良かった。
あなたを愛せて、本当に幸せだった。

トオル君……
私は、今、とても幸せです。
譬え一緒にいることが出来なくても、
あなたが、生きているだけで、
同じ空気を吸っているだけで、
同じ星を見上げていると思えるだけで、
私は頑張って生きていけるから……


私は彼を起こさないように、ペンダントを枕の下に忍ばせた。
このペンダントに私は何度も救われたんだ……
だから、今度はトオル君を救ってあげる番……


これが彼を見る最後になる……
もう一度彼の顔をじっと見つめた。
「あなたを愛してる……」
誰よりも……

零れ落ちそうになる涙を慌てて、拭き取ると、私は立ち上がった。

トオル君のいない人生を精一杯歩き始めるために……



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