フラワーガーデン

ようやく再会したハルナとトオル。
2人の下す決断は?

邂逅

2006年03月03日 22時55分23秒 | 第13章 思愛編
「さぁさぁ、お前達はソロソロ学校に行きなさい」
ご主人に促されて、子供達はしぶしぶ僕の頬に「お兄ちゃんに、祝福を……」とキスをすると学校に出掛けて行った。
夫人も「ほら、遅刻しますよ」と言って、彼らを見送りに玄関へと向かった。

みっともなく泣いてしまった事で僕は恥かしかったけれど、そのお蔭で心は凪いでいた。
主人は僕の前にコーヒーを置くと、「飲みませんか?」と勧めた。

「Dr.フジエダ。大丈夫ですか?」
彼の言葉に僕は驚き、突然立ち上がると椅子をガターンと倒してしまっていた。

僕は昨日名乗っていないはずだ……
しかも、最近はCEOとしての責務が多く、僕を「ドクター」と呼ぶ者はいない。


「あなたは……何者だ?!」
「あなたこそ、どうしてここに?ワシントンでAMH社とC&H社のCEOになられた後、入院したと聞きましたが……」
「聞いた?」
彼は肩を竦めると、
「あなたはご自分が自覚している以上に有名だと言うことを知らなくてはいけませんよ」
と笑った。

「でも、あなたは今、僕を『ドクター』と……」
「ああ!」

彼はクスリと笑うと、「あなたはご存知ないかもしれないが、私も奇蹟の生き残り組みなんですよ」と両手を合わせ、額に当て話を続けた。
「あなたはまだ11歳になるかならないかで、研究所のチーフになられた。が、私は、全くの門外漢であなたにお目通りすら適わなかった……」

彼の思い掛けない告白に僕は言葉を失った。

「あの事件で生き残ったのは、300人中あなたと私を含めて53人……。
あれから、あなたは研究所の経営再建にも参画し、立ち直らないだろうと思われた所の経営危機を不動産のセキュリタリゼーション、株式の発行等あらゆる経営手法で立て直し、翌年には黒字化させた……」
そして、それが契機となって僕はAMH社の赤字経営の建て直しの為に、CEOとして招聘されたことを思い出し、運命の不可思議を感じていた。

彼は、コーヒーの最後の一口をすすると、
「それに、書類を持ってピクニックする人はいませんよ。
不自然だったから、あなたを良く良く見て思い出したわけなんです」と笑った。


その時、バラバラと頭上をヘリコプターの飛ぶ音が聞こえた。
「どうやら、お迎えが来たようですね」
「え?!」
なんのことかと、僕が訝しがっていると、突然、聞き覚えのある大きな声が、拡声器を通して上空から降って来た。
「トール!あなたは既に包囲されています!!
私が行く前に勝手に退院してしまうなんて!!
今度こそ、社に戻ってもらいますよ!!!」

怒ると美しいクイーンイングリッシュが独逸訛りになってしまうハインツは、声の限りに叫んでいた。

僕ははぁ~と溜息を吐くと、思わず愚痴を零していた。
「……頼むよ、ハインツ。僕は犯罪者じゃないんだから……」


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投宿

2006年03月03日 12時56分32秒 | 第13章 思愛編
月明かりを頼りに数百m歩くと、ぽつんと小さな家の明かりが見えた。
一夜だけ投宿出来ないものかと、灯りの見える家の扉を叩いた。

中からは30代後半位の茶色に白髪混じりの男が出てきた。
そして、小太りのその男の後ろからは、やはり小太りで30代くらいの奥さんがひょっこり顔を出した。

ピクニックをしていて迷ったと事情を言うと、2人は僕にスープとパン、そして2人の寝室を明渡してくれた。

僕は大変恐縮してそれを辞退したのだが、「子供が変な遠慮はするもんじゃない!」と、押し切られた。
ともあれ、今晩の寝床を確保できて良かったと思いながら、ベッドに就くといつの間にか昼間の疲れからか眠ってしまっていた。

翌朝、ガタガタと言う音に起きると、奥さんがまだ夜も明けきれないうちに料理を作っていた。

「僕に出来ることがあればお手伝いしますよ」
「いいのよぉ。こんなキレイなお客さんの手を荒らさせたくないし……。
そのまんま、座ってて」

それでも何とか豆の皮むきの仕事をゲットし、台所の大きなテーブルの隅で皮を向いていると、
「ママァ。おはよー!あれ?この人だーれ?」と、子供が起きてきた。
「あら、ベスおはよ。後でね」
「ママ!おはよ!あれ?このお兄ちゃん、どうしたの?」
「あら、ジムおはよ。後で説明するから」
「ママ、おはよぉ~。え?この人、お客さん?」
「あら、ジェシーおはよ。そうよ」
「ママ、おはようございます。……誰ですか?この人は」
「あら、サイモンおはよ。人を指差しちゃダメよ」

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い、一体、この家には何人子供がいるんだ!!
それからも続々と子供達は台所に現われ席に着いた。

じ、12人!

24の瞳がじ~っと僕に注がれ、居心地が悪くなった頃、ご主人が台所の席に着いた。
子供達は一斉に目を瞑り、指を組むと、お祈りをし始めた。

「いやぁ、びっくりなさったでしょう?」
先に子供のことを話題にしたのは、ご主人の方だった。
「殆どの子が拾い子でね」
そう言うと彼はニコニコと笑ったが、突然の話に僕の方が絶句した。


「あ!僕は街で箱に入って捨てられてたんだって!」
1人の子があっけらかんと手を挙げた。
「私は、この家の前に捨てられてたんだって」
もう1人の女の子も嬉しそうに話す。

それを夫婦はニコニコと見ていた。
あまりにもあっけらかんとしているので、僕は面喰ってしまった。
夫妻の実子は「ミーナ」と「サイモン」と言う2人だけであることが話から判明した。

それに、よくよく見ると子供達は肌の色も、目も髪の色も全てマチマチだった。

「みんな、私たちの子供だよ」と、夫婦は嬉しそうに語った。
「どうせ、いずれ分かることなら、教えとこうってこの人が……」
夫人はにっこりと微笑むとご主人と見つめ合った。

なぜだか、分からない……。
突然、涙が込み上げて来た。
後から、後から流れる涙に僕自身がびっくりして、でも堰止めることが出来なかった。

「お、お兄ちゃん、どうしたの?」
「お兄ちゃん、大丈夫?」
子供達が僕のことを心配して、「このパン上げるよ」「スープもあげるから」「だから泣かないで」と周りに集まって泣き出していた。




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