パパの仲裁のお蔭で、カズトとトオル君の2人は無事医務室送りとなっていた。
当のパパは「おー!痛……!」と言いながら、私が差し出した濡れタオルを左頬に当てていた。
仲裁に入ったパパが視界に飛び込むなり、トオル君の拳は寸前でピタッと止ったけど、カズトの方は勢い止らず、パパの左頬を強打してしまっていた。
「カズトのヤツ!どさくさに紛れて、僕のこと3度も『お父さん!』と呼びやがった!!!!」
「パパ、それ怒りどころが違うから……(ってゆーか、殴られた事を怒ろうよ……)」
私のツッコミを無視して、パパは私をじっと見つめた。
「しかし、あれだね……。トオル君だっけ?彼のあの技はどこで習ったんだろうね。空手とも柔道とも違っていた……。あれは確実に相手の急所を捕え、人を殺傷する事を目的とした技だった……。背筋が凍ったよ。彼が手加減しなければ、カズトはあの世送りだったかもしれないね……」
私は、まるで舞うようにカズトの拳をすり抜けるトオル君のしなやかな動きを思い出していた。
美しいと思った……
でも、今、パパの話を聞いて、彼はどうしてそんな技を身に付けなくてはならなかったんだろう……そう思うと悲しくなった。
私が、彼のことを考え、物思いに浸っていると、パパが徐に口を開いた。
「君はあの少年と付き合っていたのか?」
突然のパパの質問に一瞬戸惑ったけど、私は静かに頷いた。
「だけど、君のお腹の子の父親はカズト……。僕はその意味をどう取ったらいいのかな?」
パパは私の表情を読み取ろうとするかのように、じっと私の顔を見つめた。
私はパパの目線から逃れるように唇を固く結ぶと、俯いた。
「僕は神様でもなければ、裁判官でもない。だから、誰がどう悪いのか裁くつもりも無い……。だけど、君の父親として、心から君の幸せを願っているんだよ」
パパの優しい言葉に涙が溢れそうになった。
「……君は、あの少年を愛しているんだね?」
「あ……。私……」
「『世間体』とか、『こうしなくちゃならない』とかではなくて、きちんと自分の心を見つめるんだ。……結婚を侮っちゃいけないよ」
パパは私の頭を優しく撫で、少し開いた扉の向こう側に向かって大声で話し掛けた。
「そう言う訳で、式場関係者と招待客には、僕と和明から上手く話をしておくから、後は君達3人でよく話し合いなさい!」
扉がギィーっと開くと、タオルを左頬に当てたトオル君とカズトが入ってきた。
パパとカズトとトオル君の3人は、お互いタオルを左頬に当てながら一瞬目線を合わせると気まずそぉ~な顔をした。
「もう一度殴り合いをしたら、君達に娘はやらんぞ!」
パパは睨みながら2人の頭を小突くと、式場へと足早に走っていった。
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