夕闇迫る多摩川の土手を、君は鼻をぐすぐす鳴らしながら僕のコートの端を掴んで歩いていた。
この微妙な距離感が、今の僕たちの心の距離そのものみたいで、僕はもどかしさを覚えた。
ハルナ……
君は知らない……
僕が君の妊娠を知っている事を……
君の退学を知っているという事を……
そして、僕は分からない……
このことをどういうタイミングで切り出したらいいのかと言う事を……
空には既に一番星が、この上もなく清らかな光を放っていた。
川から吹き上げる夜風に君がくしゃみをしたから、僕は遠慮する君に無理矢理コートを着せた。
一瞬、絡んだ目線を君は気まずそうにずらした。
綺麗になったね。ハルナ。
あれから、髪も伸びたんだね。
そして、……少し痩せたね。
全ての言葉を飲み込んで、僕はただ一番星を見上げながら歩いた。
彼女の家の近くまで来た時、僕は彼女に勇気を出して尋ねた。
学校を辞めた位だから、尋ねるまでもなく、君の答えは分かっていたけど、でも君に聞きたかった。
「……子供、産む……の?」
君は驚き、唇がわなわなと震え、その目からは次第に涙が溢れた。
「……知って、……知ってたんだ」
「……うん」
「知ってって、どうして?」
「え?!」
「どうして、今まで黙ってたの?」
「どうしてって……」
「トオル君はいつだってヨユーで私の一生懸命を笑ってみてるよね?!」
「そんなことないよ!」
突然の彼女の言葉に僕は声を荒げた。
「前に、鳩に追われてお風呂に入った時だって、ずっと知ってて言わないし……今だって!」
「違うよ!そんなつもりでいた訳じゃないよ。
いつだって、いっぱい、いっぱいだよ。
……君の事が好き過ぎて。
今だって……君を傷付けたくなくて……いつ、切り出そうかと……」
ハルナの僕のコートを強く握り締める手が緩み、呆然とした目で僕を見ていた。
僕は下を俯きながら、君の本当の心に触れたいとそればかり願いながら、言葉を繋いだ。
「この間の……」
「え?」
「この間の、ドライブの時の答え……」
「……」
「君が初めてなんだ。抱きたいと思ったのも……、その心に触れたいと思ったのも」
無邪気に笑う君が好きだった。
君の側にいれば笑う事がこんなに簡単だったんだと、初めて知った。
その君がたった15歳で子供を産もうとしている。
痛々しかった……
それだけに、ハルナを陵辱した片岡を憎んだ。同時に守りきれなかった僕自身も。
産んでとは言えない……
だけど、堕ろしてとは決して言えない……
僕はこの苦しみの中で、本当にいっぱいいっぱいなんだ。
涙を拭い、顔を上げるとハルナはもう泣いていなかった。
一番星をすっと見上げると、「ごめんね」と小さく呟いた。
「赤ちゃん、産むことにしたの。
……私、片岡和人と結婚します」
君はそう言うと、唇をきゅっと噛みながら、澄んだその瞳で僕の目を真っ直ぐに見つめたんだ。
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ハルナ……
君は知らない……
僕が君の妊娠を知っている事を……
君の退学を知っているという事を……
そして、僕は分からない……
このことをどういうタイミングで切り出したらいいのかと言う事を……
空には既に一番星が、この上もなく清らかな光を放っていた。
川から吹き上げる夜風に君がくしゃみをしたから、僕は遠慮する君に無理矢理コートを着せた。
一瞬、絡んだ目線を君は気まずそうにずらした。
綺麗になったね。ハルナ。
あれから、髪も伸びたんだね。
そして、……少し痩せたね。
全ての言葉を飲み込んで、僕はただ一番星を見上げながら歩いた。
彼女の家の近くまで来た時、僕は彼女に勇気を出して尋ねた。
学校を辞めた位だから、尋ねるまでもなく、君の答えは分かっていたけど、でも君に聞きたかった。
「……子供、産む……の?」
君は驚き、唇がわなわなと震え、その目からは次第に涙が溢れた。
「……知って、……知ってたんだ」
「……うん」
「知ってって、どうして?」
「え?!」
「どうして、今まで黙ってたの?」
「どうしてって……」
「トオル君はいつだってヨユーで私の一生懸命を笑ってみてるよね?!」
「そんなことないよ!」
突然の彼女の言葉に僕は声を荒げた。
「前に、鳩に追われてお風呂に入った時だって、ずっと知ってて言わないし……今だって!」
「違うよ!そんなつもりでいた訳じゃないよ。
いつだって、いっぱい、いっぱいだよ。
……君の事が好き過ぎて。
今だって……君を傷付けたくなくて……いつ、切り出そうかと……」
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僕は下を俯きながら、君の本当の心に触れたいとそればかり願いながら、言葉を繋いだ。
「この間の……」
「え?」
「この間の、ドライブの時の答え……」
「……」
「君が初めてなんだ。抱きたいと思ったのも……、その心に触れたいと思ったのも」
無邪気に笑う君が好きだった。
君の側にいれば笑う事がこんなに簡単だったんだと、初めて知った。
その君がたった15歳で子供を産もうとしている。
痛々しかった……
それだけに、ハルナを陵辱した片岡を憎んだ。同時に守りきれなかった僕自身も。
産んでとは言えない……
だけど、堕ろしてとは決して言えない……
僕はこの苦しみの中で、本当にいっぱいいっぱいなんだ。
涙を拭い、顔を上げるとハルナはもう泣いていなかった。
一番星をすっと見上げると、「ごめんね」と小さく呟いた。
「赤ちゃん、産むことにしたの。
……私、片岡和人と結婚します」
君はそう言うと、唇をきゅっと噛みながら、澄んだその瞳で僕の目を真っ直ぐに見つめたんだ。
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