フラワーガーデン

ようやく再会したハルナとトオル。
2人の下す決断は?

一番星

2006年03月08日 23時29分04秒 | 第13章 思愛編
夕闇迫る多摩川の土手を、君は鼻をぐすぐす鳴らしながら僕のコートの端を掴んで歩いていた。
この微妙な距離感が、今の僕たちの心の距離そのものみたいで、僕はもどかしさを覚えた。

ハルナ……
君は知らない……
僕が君の妊娠を知っている事を……
君の退学を知っているという事を……

そして、僕は分からない……
このことをどういうタイミングで切り出したらいいのかと言う事を……

空には既に一番星が、この上もなく清らかな光を放っていた。
川から吹き上げる夜風に君がくしゃみをしたから、僕は遠慮する君に無理矢理コートを着せた。
一瞬、絡んだ目線を君は気まずそうにずらした。

綺麗になったね。ハルナ。
あれから、髪も伸びたんだね。
そして、……少し痩せたね。

全ての言葉を飲み込んで、僕はただ一番星を見上げながら歩いた。


彼女の家の近くまで来た時、僕は彼女に勇気を出して尋ねた。
学校を辞めた位だから、尋ねるまでもなく、君の答えは分かっていたけど、でも君に聞きたかった。

「……子供、産む……の?」

君は驚き、唇がわなわなと震え、その目からは次第に涙が溢れた。
「……知って、……知ってたんだ」
「……うん」
「知ってって、どうして?」
「え?!」
「どうして、今まで黙ってたの?」
「どうしてって……」
「トオル君はいつだってヨユーで私の一生懸命を笑ってみてるよね?!」
「そんなことないよ!」

突然の彼女の言葉に僕は声を荒げた。

「前に、鳩に追われてお風呂に入った時だって、ずっと知ってて言わないし……今だって!」
「違うよ!そんなつもりでいた訳じゃないよ。
いつだって、いっぱい、いっぱいだよ。
……君の事が好き過ぎて。
今だって……君を傷付けたくなくて……いつ、切り出そうかと……」

ハルナの僕のコートを強く握り締める手が緩み、呆然とした目で僕を見ていた。
僕は下を俯きながら、君の本当の心に触れたいとそればかり願いながら、言葉を繋いだ。

「この間の……」
「え?」
「この間の、ドライブの時の答え……」
「……」
「君が初めてなんだ。抱きたいと思ったのも……、その心に触れたいと思ったのも」

無邪気に笑う君が好きだった。
君の側にいれば笑う事がこんなに簡単だったんだと、初めて知った。
その君がたった15歳で子供を産もうとしている。

痛々しかった……
それだけに、ハルナを陵辱した片岡を憎んだ。同時に守りきれなかった僕自身も。

産んでとは言えない……
だけど、堕ろしてとは決して言えない……

僕はこの苦しみの中で、本当にいっぱいいっぱいなんだ。



涙を拭い、顔を上げるとハルナはもう泣いていなかった。
一番星をすっと見上げると、「ごめんね」と小さく呟いた。

「赤ちゃん、産むことにしたの。
……私、片岡和人と結婚します」
君はそう言うと、唇をきゅっと噛みながら、澄んだその瞳で僕の目を真っ直ぐに見つめたんだ。




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再会の夕暮れ

2006年03月08日 17時41分16秒 | 第13章 思愛編
自家用ジェットは日本時間の16時に空港に着いた。

僕は機長への挨拶もそこそこに、準備された社用車に乗り込んだ。
多摩川近くの駅に近づいた頃には辺りは既に薄暗くなっていた。

駅の前に来た時、ここでハルナから片岡に抱かれたという告白をされたことを思い出し胸がズキズキと痛んだ。

ハルナに会って……会ってどうするんだ。
僕は何の回答も用意出来ないまま、ただハルナに逢いたい一心で日本に来てしまった。


何を言ったらいい?
どうしたら……?

君の存在は、いつでも僕から綿密な戦略や、計画性といった物を綺麗に削ぎ落としてしまうんだ。
頭を抱えていたその手を外し、ふと車窓の外に目をやると息が止りそうになった。

まさか……。

反対車線の向こう側にハルナが大事そうにバッグを抱えながら歩いているのが見えた。

ハルナ!?

僕は急いで窓を開け、懸命に叫んだ。
だけど夕暮れ時の喧騒は僕の声をハルナから遠ざけた。

「北村!すまない!ここで降ろしてくれ!!」

コートだけを掴み、僕は数メートル先の歩道橋を跳ぶように駆け上っていった。
すると、ハルナの方も歩道橋の反対側を上がり始めていた。

「ハルナーーーーーー!!!」

ハルナは、弾かれたように顔を上げ、橋の上の僕の存在に気付いた。
だけど、彼女は突然向きを変え、階段を駆け下り、僕から逃げ出した。

「ハルナ!!」
逃がさない!
せっかく君に逢えたのに……


僕は階段を駆け下りる途中で、橋の欄干に手を掛け、そのまま飛び降りた。
が、両掌を怪我していることを忘れていた。
鋭い痛みが掌に走り、そして次の瞬間、今度は鈍い痛みが肩に走った。

「痛っっっっっ!!!!」

そのままバランスを崩して、肩から歩道に落ちてしまっていた。
「大丈夫かい?外人さん!?」
「うっわぁ~!まじぃ~?!イタソー」
「誰か救急車呼んどくれよ!」
あっと言う間に人が集まって来て、僕の周りを取り囲んでいった。


僕は肩を庇いながら、再び立ち上がった。
今、ここで追わなかったら、一生君に逢う事が出来ないような気がしたんだ。


だけど、その時、君は人混みを掻き分け、大粒の涙を流しながら戻って来てくれた。
「……やってる…こと、……ムチャクチャだよ……トオル君……」

でも、お蔭で君は戻って来てくれた。
そして、僕は漸く君の視界に入る事が出来たんだ。
嬉しくて、嬉しくて笑みが零れた。
君の瞳には愛が溢れていたから。

「ト、トオル君!手!どうし……」
彼女の口を包帯した手で優しく塞ぐと、
「ただいま……ハルナ……。遅くなって、ごめん……」
そう言って涙に震える君の細い肩を抱き寄せたんだ。



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