「どうぞ、おあがりやしておくれやす」
品の良いおかみさんが恭しく手をついて、差し出したお料理は、細やかな竹細工の上に、芸術的なまでに繊細な料理ばかりだった。
トオル君は、美しい箸さばきでそれらをひとつひとつ口に運ぶ。
こんな時、彼の育ちの良さをしみじみと感じる……
「あいつとは住む世界が違う」
カズトがそう言った彼の世界の一端を、まざまざと見せ付けられるような気がする。
「ハルナ、どうした?元気がないね。まさか、またお腹が張ってる?」
トオル君の気遣いに、首を振って微笑を返した。
「じゃぁ、どうした?」
トオル君は箸を置くとじっと私を見つめた。
「え?なんでもないよ」
トオル君は怖い。
一瞬で私の表情を読んでしまう……
「あ、あの……」
そう言い掛けた時、彼のケイタイが鳴った。
彼は、「ちょっと待って」と言うと、ケイタイに出た。
「はい。もしもし、……ああ、皆川さん」
彼はちらっと私を見て、微笑んだ。
「え!?……分かった。……有り難う」
トオル君が電話を切ると、何となく不安が過ぎって「トモ、……どうしたの?」と尋ねた。
トオル君は、一瞬考え事をしていたみたいだけど、私の「トオル君?!」と言う声に、顔を上げ、「いや、何でもないよ。ただ、電話してきたみたいだ」と答えた。
「それで、さっきの続き。風呂から帰ってから君の様子がおかしいんだけど、どうした?」
私は、言えなくて俯いた。
「僕達はずっと離れていた。だから、それをこれから話し合って埋め合わせていきたいんだ。君の心にもっと触れたい……。話してくれないか?」
トオル君の真剣な目に、心が震えた。
「カズトを……カズトを思い出してしまうの……」
トオル君の表情が強張るのが分かって、それだけ言うと口篭もった。
「……そうか」
彼は唇をきつく結ぶと、天井を見上げた。
「ごめんなさい……」
言うべきじゃなかったと私は後悔した。
トオル君は、「結構、きついな……」と小さく呟くと、腕を組んだ。
そして、暫く黙っていたけど、「僕もフェアに言うよ」と口を開いた。
「さっきの露天風呂。混浴だって僕は知っていた」
トオル君の告白に顔が真っ赤になった。
「……君に触れたくて黙ってた。ごめん」
それから、彼は真っ直ぐに私の目を見つめて「抱きたいんだ……」と言った。
鼓動が速くなり、喉が渇いていく。
「今の皆川さんの電話……」
彼はゆっくりと立ち上がると、庭に続くと言う戸の方に歩いていった。
そして、カラカラと音を立てて戸を開けると、下駄を履いて庭に出て行ってしまった。
「ハルナも、おいで。月が綺麗だよ」
綺麗な月が彼を吸い込んでしまいそうで、なんとなく恐くなる。
カランカランと音を立てて、彼は庭を歩き始めた。
私も慌てて、彼の丹前を持って後を追った。
「さっきの話を聞くと、尚更、君を帰したくないけど……」
トオル君は私が持ってきた丹前に手を通すと、黙って月を見上げていた。
だけど、やがて月の光を弾いてキラキラと輝く金髪をそっと掻き揚げると
「片岡が倒れたらしい……。君は、どうする?」と言った。
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品の良いおかみさんが恭しく手をついて、差し出したお料理は、細やかな竹細工の上に、芸術的なまでに繊細な料理ばかりだった。
トオル君は、美しい箸さばきでそれらをひとつひとつ口に運ぶ。
こんな時、彼の育ちの良さをしみじみと感じる……
「あいつとは住む世界が違う」
カズトがそう言った彼の世界の一端を、まざまざと見せ付けられるような気がする。
「ハルナ、どうした?元気がないね。まさか、またお腹が張ってる?」
トオル君の気遣いに、首を振って微笑を返した。
「じゃぁ、どうした?」
トオル君は箸を置くとじっと私を見つめた。
「え?なんでもないよ」
トオル君は怖い。
一瞬で私の表情を読んでしまう……
「あ、あの……」
そう言い掛けた時、彼のケイタイが鳴った。
彼は、「ちょっと待って」と言うと、ケイタイに出た。
「はい。もしもし、……ああ、皆川さん」
彼はちらっと私を見て、微笑んだ。
「え!?……分かった。……有り難う」
トオル君が電話を切ると、何となく不安が過ぎって「トモ、……どうしたの?」と尋ねた。
トオル君は、一瞬考え事をしていたみたいだけど、私の「トオル君?!」と言う声に、顔を上げ、「いや、何でもないよ。ただ、電話してきたみたいだ」と答えた。
「それで、さっきの続き。風呂から帰ってから君の様子がおかしいんだけど、どうした?」
私は、言えなくて俯いた。
「僕達はずっと離れていた。だから、それをこれから話し合って埋め合わせていきたいんだ。君の心にもっと触れたい……。話してくれないか?」
トオル君の真剣な目に、心が震えた。
「カズトを……カズトを思い出してしまうの……」
トオル君の表情が強張るのが分かって、それだけ言うと口篭もった。
「……そうか」
彼は唇をきつく結ぶと、天井を見上げた。
「ごめんなさい……」
言うべきじゃなかったと私は後悔した。
トオル君は、「結構、きついな……」と小さく呟くと、腕を組んだ。
そして、暫く黙っていたけど、「僕もフェアに言うよ」と口を開いた。
「さっきの露天風呂。混浴だって僕は知っていた」
トオル君の告白に顔が真っ赤になった。
「……君に触れたくて黙ってた。ごめん」
それから、彼は真っ直ぐに私の目を見つめて「抱きたいんだ……」と言った。
鼓動が速くなり、喉が渇いていく。
「今の皆川さんの電話……」
彼はゆっくりと立ち上がると、庭に続くと言う戸の方に歩いていった。
そして、カラカラと音を立てて戸を開けると、下駄を履いて庭に出て行ってしまった。
「ハルナも、おいで。月が綺麗だよ」
綺麗な月が彼を吸い込んでしまいそうで、なんとなく恐くなる。
カランカランと音を立てて、彼は庭を歩き始めた。
私も慌てて、彼の丹前を持って後を追った。
「さっきの話を聞くと、尚更、君を帰したくないけど……」
トオル君は私が持ってきた丹前に手を通すと、黙って月を見上げていた。
だけど、やがて月の光を弾いてキラキラと輝く金髪をそっと掻き揚げると
「片岡が倒れたらしい……。君は、どうする?」と言った。
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