フラワーガーデン

ようやく再会したハルナとトオル。
2人の下す決断は?

フェア

2006年03月19日 21時23分39秒 | 最終章 エターナル
「どうぞ、おあがりやしておくれやす」
品の良いおかみさんが恭しく手をついて、差し出したお料理は、細やかな竹細工の上に、芸術的なまでに繊細な料理ばかりだった。

トオル君は、美しい箸さばきでそれらをひとつひとつ口に運ぶ。
こんな時、彼の育ちの良さをしみじみと感じる……

「あいつとは住む世界が違う」
カズトがそう言った彼の世界の一端を、まざまざと見せ付けられるような気がする。

「ハルナ、どうした?元気がないね。まさか、またお腹が張ってる?」
トオル君の気遣いに、首を振って微笑を返した。

「じゃぁ、どうした?」
トオル君は箸を置くとじっと私を見つめた。
「え?なんでもないよ」
トオル君は怖い。
一瞬で私の表情を読んでしまう……

「あ、あの……」
そう言い掛けた時、彼のケイタイが鳴った。
彼は、「ちょっと待って」と言うと、ケイタイに出た。
「はい。もしもし、……ああ、皆川さん」
彼はちらっと私を見て、微笑んだ。
「え!?……分かった。……有り難う」
トオル君が電話を切ると、何となく不安が過ぎって「トモ、……どうしたの?」と尋ねた。
トオル君は、一瞬考え事をしていたみたいだけど、私の「トオル君?!」と言う声に、顔を上げ、「いや、何でもないよ。ただ、電話してきたみたいだ」と答えた。

「それで、さっきの続き。風呂から帰ってから君の様子がおかしいんだけど、どうした?」
私は、言えなくて俯いた。
「僕達はずっと離れていた。だから、それをこれから話し合って埋め合わせていきたいんだ。君の心にもっと触れたい……。話してくれないか?」
トオル君の真剣な目に、心が震えた。
「カズトを……カズトを思い出してしまうの……」
トオル君の表情が強張るのが分かって、それだけ言うと口篭もった。
「……そうか」
彼は唇をきつく結ぶと、天井を見上げた。

「ごめんなさい……」
言うべきじゃなかったと私は後悔した。

トオル君は、「結構、きついな……」と小さく呟くと、腕を組んだ。
そして、暫く黙っていたけど、「僕もフェアに言うよ」と口を開いた。

「さっきの露天風呂。混浴だって僕は知っていた」
トオル君の告白に顔が真っ赤になった。
「……君に触れたくて黙ってた。ごめん」

それから、彼は真っ直ぐに私の目を見つめて「抱きたいんだ……」と言った。
鼓動が速くなり、喉が渇いていく。



「今の皆川さんの電話……」
彼はゆっくりと立ち上がると、庭に続くと言う戸の方に歩いていった。
そして、カラカラと音を立てて戸を開けると、下駄を履いて庭に出て行ってしまった。

「ハルナも、おいで。月が綺麗だよ」

綺麗な月が彼を吸い込んでしまいそうで、なんとなく恐くなる。
カランカランと音を立てて、彼は庭を歩き始めた。
私も慌てて、彼の丹前を持って後を追った。

「さっきの話を聞くと、尚更、君を帰したくないけど……」
トオル君は私が持ってきた丹前に手を通すと、黙って月を見上げていた。

だけど、やがて月の光を弾いてキラキラと輝く金髪をそっと掻き揚げると
「片岡が倒れたらしい……。君は、どうする?」と言った。



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2人の狭間で

2006年03月19日 08時50分56秒 | 最終章 エターナル
カズトは、私に赤ちゃんが出来たと知った日からアルバイトを始めていた。
私は一緒に住むようになってから知ったのだけど……

「医療系の翻訳は金になるからな」
カズトは英々辞書に目を落としながら笑った。
「でも、学校に、ボランティアにゼミのお手伝いに……カズト殆ど寝てないよ」
私はベッドに腰掛け、枕を抱きしめながら、所在無く足をプラプラさせていた。
彼は真剣な眼差しでパラパラと辞書を数頁捲り、「おお!これか!」と小さくガッツポーズをすると、急いで翻訳文を書き込んでいた。

「お前の心配はアリガテーけど、父親としてアカンボのミルク代とかオムツ代くらいは、出してーし。
何もかも、親掛かりってのもなんかやだしな」
「でも……」
「それに、こういう医学用語は結構何回も同じのが出てくるから、そのうち慣れてどんどん速く訳せるようになるさ。自分の勉強にもなって一石二鳥!」
そう言って数行ほどスラスラと書き込むと、パタンと辞書を閉じた。

カズトは、椅子から立ち上がり、ベッドに座っている私にキスをすると、私から枕を取り上げてお腹の赤ちゃんにもキスをした。
「オレが好きでやってんだから、お前は気にすんな」
カズトはお腹に頬擦りすると、赤ちゃんに語り掛けた。
それが、彼の欠かさず行う日課だった。
「おーい!チビスケ、ママン中は気持ちいいだろぉ~~。
いいよなぁ、お前は24時間体制で入れてもらえて……。
オレなんか全然挿れさせてもらえねーのになぁ……」
「な!なんてことゆーーのぉ!!」
私はカズトの頭をゲンコツで殴った。

……?
あれ?
無反応だ??
私が覗き込むとカズトは既に寝息を立てて眠っていた。


なぜ?
どうして、カズトを思い出すの?

「ハルナ?どうした?」
トオル君の声に、はっとなった。
「具合悪い?」
心配そうに彼は私の頬に手を添えた。

「あ、あの……。のぼせちゃった、かも」
トオル君は、恥かしそうに「ごめん。そろそろ上がろうか?」と笑った。




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