フラワーガーデン

ようやく再会したハルナとトオル。
2人の下す決断は?

不吉な予感

2006年03月05日 20時57分36秒 | 第13章 思愛編
僕は愕然として、フラッシュバックの中に潜む記憶の成層を辿った。

ハルナは何と言った?
最後のメールで「待てない」と言わなかったか?

入院中に見たベッドに横たわるハルナ……
あれは彼女からのシグナルだったのではないか?

そして今、佐々原が言った。
ハルナが退学したと……。

不吉な3つの符号が重なる。


ドクドクと波打つ心臓の音が、耳鳴りとなって警告する。

トオル、お前は一体何をしていたんだと。



震える手で辛うじて持っていた受話器は、僕の手から滑り落ち、気付くと「ガチャーン」と言う音を立てて、フックにぶつかった。

急いで、受話器を持ち上げたが、「ツーツーツー……」と言う音を残して通話は切れていた。

慌ててリダイヤルをしようとした時、ミセス・マクダウェルが扉をノックした。
「Mr.フジエダ、5分経ちましたが……。
ど、どうされましたか!!」

ミセス・マクダウェルは僕の側に駆け寄ると、腕を支えた。
「Mr.フジエダ、お顔の色が真っ青ですが、大丈夫ですか?会議は遅らせますか?」
「いや、いい……。直ぐに行く」
「ですが……」
「一刻も早く行って、一刻も早く終わらせる。
ミセス・マクダウェル……。すまないがこのC&H社のアンニュアル・レポートを1部コピーして、CFOに渡して下さい。
……それから、プライベートで申し訳ないけど、日本にあるこのスペルの女子高の電話番号を調べてもらえないだろうか」

僕はそう言うとメモ帳にスラスラと学校名を書き留めた。

そして、すぐさまガンガンとした痛みが支配する頭を抱えたまま、僕はミーティング・ルームを目指して走って行った。



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日本への電話

2006年03月05日 07時49分38秒 | 第13章 思愛編
社に戻ると、秘書のミセス・マクダウェルが「まぁ!まぁ!まぁ~!」と感激の涙を流し、僕の帰りを喜んでくれた。

昨日用意されていたと言う、退院祝いの食事の殆どはキンケイドが平らげていた(らしい)。

「すみません……退院祝いの用意をしてくれていたなんて知らなくて、僕は……」

だが、誰も僕を責めるでも無く、退院を心から喜んでくれた。

「でも、ミセス・マクダウェル。さすがにこの花は部屋の外に飾ってくれるとありがたいのですが……」

部屋はむせ返るような大量の花で埋め尽くされていた。
その花に囲まれるように額縁には大きな僕の写真……。

(あのぉ、……僕、まだ生きてるんですけど……)

この微妙なコーディネートはやはりグレイスがやったらしい。

そして、サイドテーブルには数々の退院を祝う色取り取りのカードが立てて並べられ、オフィスは一層華やいで見えた。



ひと息つくと、ミセス・マクダウェルは早速いつも通り、分刻みの本日のスケジュールと、留守中の電話の伝言を読み上げ始めた。

「そうそう!Mr.フジエダが会見をなされた翌日から何度も『ササハラさん』と言う方からお電話を頂きましたわ」
「『ササハラ』から?!」
「ええ。『自分からも電話するけど、いつでも良いから電話を欲しい』って、タドタドしい英語でおっしゃってましたわ」

やっぱり、あの「佐々原」だ!
僕は懐かしくて、時差も忘れ、「5分だけ」とミセス・マクダウェルから時間を貰い、彼の自宅に電話してみた。

「はい?」
寝ぼけて出た佐々原の声に、僕は初めて日本がまだ朝の5時であることを理解し、かけ直すと言った。
「いいよ。もう、目ェ覚めたし。久し振りだな、トオル。見たよ、記者会見」
「え?!日本にも流れたのか?」
「うん。しっかし、すげぇよなぁ~。その年で、社長様で、しかも大学まで出てたなんて……。
っつーか、何で言わないんだよ!水臭いじゃんよ」
「……ごめん」

佐々原は僕のトーンダウンした言葉に恐縮したらしく、
「え?!いいよ。別にさ、謝んなくてもさ。でも、まぁ、お前がいないと、あの時間にお前目当てで電車に乗るジョシコーセーの数がめっきり減ってさ、俺も淋しいのよ……」
と、「淋しい」の論点を微妙にずらす所も佐々原らしい。

そんな相変わらずの佐々原節に、僕はくすりと笑っていたが、「女子高生」の言葉に、
(もしかしたら、佐々原からハルナの近況が聞けるかもしれない……)
と思い、さり気なく彼にハルナのことを尋ねてみた。

「え?!トオル、知らないのか?」

佐々原の思いも掛けない質問に、なぜだろうか……胸騒ぎを覚えた。

「知らないって、何を?」
佐々原は、「まじかよ……」と言うなり黙り込んでしまった。

「佐々原!?」
「……いや、俺も彼女の友達の皆川さん?っつーの?トモちゃんとか言ったっけ?
彼女からの又聞きなんだけどさぁ……」

僕は次第に痺れを切らして声を荒げてしまっていた。

「だから、何をだよ!」
「いや……、だから、その……理由までは知らないけど……つまり、彼女が……、ハルナちゃんが高校を退学したってことだよ……」






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