フラワーガーデン

ようやく再会したハルナとトオル。
2人の下す決断は?

君の声が

2006年03月02日 16時25分04秒 | 第13章 思愛編
僕は散乱した書類を掻き集め、封筒に仕舞うとコートをはおった。

封筒を小脇に抱え、マジックのキャップを取り、エラープリントの書類を引き寄せるとその裏に
「お大事に」とだけ書いて、僕はケッチャムの家を後にした。

辺りは夕暮れ時になっていたが、さすがにあの家で一夜を過ごす気にはなれず、雑木林を走り抜け、町を目指した。

ここから一番近い町は、2時間も歩けば着くはずだ。




しかし、1時間も歩かないうちに辺りはすっかり暗くなり、街燈もない道は漆黒の闇に包まれた。

黒い雲は月を深くそのヴェールの中に隠し、僕は真っ暗闇の中に取り残された。
退院したての弱った体を夜の冷気が包み込み、体温を容赦なく奪っていく……。

そう言えば、今朝は朝から何も食べていなかったっけ……
コートの襟を立てて、闇の中、街を目指した。

いい加減、疲れて足が折れた頃、一陣の風がさぁっと道脇の草原を渡り、あの日のハルナの声を連れてきた。

「トオル君と出会わなかったら、こんな世界があるなんて知らなかったよ」

……僕もだよ。ハルナ
君に会わなかったら、僕はきっと温もりを知らなかった。
闇の中をずっとあのまま彷徨っていたのかもしれない。

独りだった。
君に出会うまで、僕はいつも独りだったんだ。

歩くのに疲れて、膝を抱えて座っていた時、月の光が温かく僕の辺りを照らした。

その時、突然、白い小さな花々が闇の中から浮かび上がり、僕を囲むように優しく揺れていた。

「ハルナ……」

君のところに戻りたい。
君が僕の手を引いて歩いてくれたあのフラワーガーデンに……


僕は再び立ち上がり、月の光に導かれながら街を目指した。



↑「いま、会いにゆきます」で有名な♪アルファポリスです

↑私のお薦めのブログ、探してみてね♪
にほんブログ村 小説ポエムブログへ

忍者TOOLS

遅かった忠告

2006年03月02日 00時11分29秒 | 第13章 思愛編
あの母にして、この息子あり、か……。

それでも、どうにか僕が徐々に冷静さを取り戻し始めた頃、トムは隙を突いて足払いをし、僕諸共ベッドに倒れこんだ。

覆い被さるトムの顎を捕まえ、僕は必死で抵抗した。
しかし、彼の体はびくともしなかった。

「……君は、抵抗する男を無理矢理襲う趣味はないと言わなかったっけ!?」
「相手によるかなぁ。トールが相手となれば、それは難しいな」

僕はふぅっと溜息を吐くと、抵抗する手の力を抜いた。

「降参。分かったよ……」
「トール?」
「……感じさせてくれるんだろう?」
少し体を起こすと、僕は唇をトムの唇に重ねた。

「トール……」
トムは夢中になって、僕の唇を吸い始めた。
僕はキスをしながら、少しずつ手を移動し、隙を見て彼の手を捕えた。

その瞬間、彼の顔が苦痛に歪んだ。

「……このまま、君が止めないって言うんなら、指節骨を折るよ?」
トムの指を曲げ、力を加えた。

「君はケッチャムの息子だ。
だから、僕としては腱の断裂まではしたくないんだけどね……」
そう警告しながら、ギリギリと力を加えていった。

「いっ!……や、やめてくれ!……やめて!トール!」

僕はトムの指に圧力を掛けながら、彼の横面を叩くと壁に激突させた。

ドサリと崩れ落ちたトムの体から這い出すと、ベッドのシーツを口で裂き、彼の両手を後ろに合わせ、グルグル巻きにした。


僕が肩でゼーゼーと息をしながら壁にもたれ掛かっていると、携帯が鳴った。

「よっ!トール。俺だよ」
声の主はキンケイドだった。
「言い忘れてたけど、トーマスはゲイらしい。
お前の容貌はモロ、ゲイ萌えだからなぁ。油断して襲われんなよ!じゃな」



…………今頃遅いよ……。



僕は気絶しているトムの顔を見ながら、先程のキスを思い出し、「うっ!」と吐き気を催す口を袖で拭った。




↑「いま、会いにゆきます」で有名な♪アルファポリスです

↑私のお薦めのブログ、探してみてね♪
にほんブログ村 小説ポエムブログへ

忍者TOOLS