フラワーガーデン

ようやく再会したハルナとトオル。
2人の下す決断は?

接点

2005年11月22日 19時58分16秒 | 第8章 恋愛鼓動編
さわさわと優しい風が川面を滑り、森の中へと駆けて行った。
「・・・思い出すなぁ」
そう言うと、キンケイドは遥か遠くの空を仰ぎ見た。
「オレは昔、フライ・フィッシングが得意な友人に良く川へと連れ出されたんだよ」
と、彼は笑った。
「オレは下手くそでな。良くヤツに笑われたよ・・・」

フライ・フィッシング・・・
まさか!?
僕は咄嗟にその人の名前を叫んでいた。
「ジョージ!?もしかして、ジョージ・ヘイワーズのこと?」
するとキンケイドはひどく驚いたようで、天を仰いだ目をかっと見開き僕を凝視した。
「なんで、ヤツを知っているんだ」

キンケイドはもしかしたら何かを知っているのかもしれない・・・。
そうだ!
僕は急いで喪服のブレザーの内ポケットに入れてあった写真を取り出し、彼に見せた。

「アリシア!」
キンケイドは写真を引っ手繰るようにして僕から奪うと、「アリシア・・・」と呟き、そのまま凍りついたように動かなくなってしまった。

この人がアリシア・・・
金髪に翠色の穏やかな目をたたえたこの美しい女性が、アリシア・・・

「この女性の写真は僕の父の書斎にもあったんです」
キンケイドは写真から再び僕に目を移すと、「はっ・・・・!はは・・・」と、頭に手を当てながら首を振った。

「ジョージは・・・、アリシアって誰なんですか?」
僕は今度こそこの二人の接点となるはずのキンケイドから何かを聞き出そうとしていた。


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悲しみの中で

2005年11月21日 23時07分19秒 | 第8章 恋愛鼓動編
お弔いの鐘が鳴る。
丘陵からは悲しげなラッパの音が流れ、空に向けて空砲が鳴り響いた。
家族を、恋人を、友人を失った悲しみの声を風が丘から運んで来た。

僕は葬式の列席者から遠く離れた川のほとりで悲しみと向き合っていた。
ジョージと一緒にフライフィッシングをした川とは違い木々が鬱蒼と茂る中で僕は1人で佇んでいた。

ジョージ・アンダーソン・・・いや、ジョージ・ヘイワーズは何かを知っていたはずなんだ。
そして、この写真・・・この金髪の女性は誰なのかも知っていたはずなんだ・・・。

なぜ、僕を殺さなかったんだろう・・・。
クライアントとは誰だったんだろう・・・。

川辺に膝をついて座ろうとした時、背後から草木を踏み分ける音がした。
僕は咄嗟に身構えた。
すると、見覚えのある人物が姿を現した。

「キンケイド!なぜ、ここに!!」
キンケイドは驚きもせず手を振ると、「探したよ。トール・フジエダ」と力無く笑った。

「君が、まさか例の研究所のチーフだったとはね。オレの情報網も錆付いたもんだな」
「一体、何をしに来たんですか?」

僕は彼が差し出す右手の握手を無視して彼を睨んだ。
「嫌われちまったか。ま、いっか」

彼は、ぼりぼりと頭を掻くと気だるそうに口を開いた。
「・・・オレもここに、友人の葬式に駆けつけたのさ」
「喪服を着ていないようですが・・・」
僕がジーパンにジャンパー姿の彼に対して訝しげに尋ねると、
「形式張ったことが嫌いな男だったんでね。
まぁ、普段どおりにお見送り程度の軽~い気持ちで来てやったって訳さ」

そう言いながら淋しそうに笑い、「一服やるか?」とタバコを差し出した。
僕が頭を横に振ると「そうか」と肩を竦めながら、自分の煙草に火をつけて煙をくゆらせ始めた。


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写真

2005年11月20日 13時37分04秒 | 第8章 恋愛鼓動編
僕はダクトを伝いながら無事雑木林のある裏庭へと出た。
まるで戦場のようになった研究所からは銃声と爆音が聞こえてくる。
「待ってて!ジョージ」
僕は雑木林の中を街目指して駆け降りていった。

林を途中まで抜けたところで、サイレンを鳴らしながらパトカーや救急車が丘陵を登っていくのに遭遇した。

誰かが通報してくれたんだ!

僕は急いで研究所へ戻り始めた。

研究所からはくすぶった煙が何箇所も立ち上っていた。
そこここに人が倒れていた。

僕は急いで厨房を目指した。
その時、オレンジ色の袋に包まれた遺体が数体、ストレッテャーに乗せられて運び出されているところだった。

「まさか・・・!」
胸騒ぎを覚えた僕は厨房へと急いだ。
僕が厨房の扉を開けたとき、今にもジッパーが閉じられようとしている袋の隙間から金髪が覗いているのが目に飛び込んできた。

僕は転びそうになりながら、その元に駆け寄った。
「ジョージ!しっかりして!!」
僕はジッパーを下まで降ろすと、すぐさま脈を取り、瞳孔反応を確認した。
「何やってるんだ!」
救急隊員は僕を脇から抱えて、ジョージから引き離した。
「僕は医者だ!」
そう叫ぶと、研究所のIDカードを見せた。
彼らは驚いた様子でお互い顔を見合わせ、
「君、医者って、どう見ても10歳位の子供じゃないか」と笑い出した。

そこへ顔見知りのドクターが駆けつけて、「Dr.フジエダ、ご無事でしたか!」と僕の無事を喜んでいた。
だけど、ストレーチャーの上のジョージの遺体を見ると、憐れみの涙を浮かべ十字を切った。

「失礼しました。さぁ、君も早く救急車に乗りなさい。怪我をしているじゃないか」
と、1人の救急隊員に促された。
僕はその時、初めて目から血が流れ出していることに気付いた。

病院に着くと、僕は左眼の応急手当を受けた。
ジョージはモルグで検死を受けていた。
「Mr.アンダーソン」と言う名前は偽名だったらしく、彼が収容されたモルグを特定できるまでかなりの時間を要した。
僕が再び彼に会えたのはその日の深夜だった。

太腿からの大量の出血によるショック死だった。
・・・彼は止血をしなかったんだ。
なぜ・・・・・・

「嘘つき!ジョージ!!待つって!待つって言っただろぉ!!」
僕はすっかり冷たくなったジョージの体を何度も叩いた。

泣いて泣いて泣き疲れて床に崩れ落ちた時、僕は一枚の紙が落ちていることに気付いた。

僕はその紙を拾った。
裏紙の感触からそれが写真であることがわかった。

おもむろにその写真を表に返して、僕は「あっ!」と叫び声を上げ、言葉を失った。
そこに写る女性はパパの書斎にあった写真と全く同じ人物だった。


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親友

2005年11月18日 23時19分04秒 | 第8章 恋愛鼓動編
「後、何分ある?」
「・・・・・・」
「僕が死ぬまで後何分あるの?」
僕は銃の先にいるMr.アンダーソンを凝視した。

「5分だ・・・」
「OK。じゃ、一回しか教えられないからちゃんと聞いて。
まず、この布を緩めるには・・・」

僕は止血法をMr.アンダーソンに教え始めた。
「・・・おい!」
「・・・それで、必ず患部に近い部分を止血して。でないと・・・」
「おい!!!」
「黙って!5分で終わるから聞いてよ!」
僕はMr.アンダーソンを救いたい一心で必死で止血法を教えた。

「待てよ!オレはこれからお前を殺すんだぞ!!」
「うん」
僕は手を伸ばし銃口を自分の眉間に当てた。
「僕はあなたを救いたい。だから、黙って聞いて!」
それから、彼は黙って僕の説明を聞いた。

「約束の5分だ」
そう言うと、Mr.アンダーソンは銃を持つ手に力を込めた。



「残念だったな、トール・・・。
どうやらお前は3回も神様にそっぽを向かれたらしいな」
Mr.アンダーソンは、銃を持つ手を下に降ろすとその銃を僕に手渡した。
「神様はよっぽどお前をお側に召したくないんだなぁ」
そう言うとくつくつと笑った。


「3回って?!」
「今と、誘拐された時と、飛行機のトラブルの時だ」
「なんで、あなたが知っているの?」
「オレも、乗っていたのさ。あの飛行機に」
「あなたが?!」
「全く、相変わらず肝の据わったクソガキだぜ、お前は・・・」
Mr.アンダーソンは憎憎しげに僕を見ながら笑った。

「その銃はお前でも扱えるタイプのもんだ。それを持って逃げろ!」
「あなたは!?」
「ここで助けを待つよ。助けを連れてきてくれるか、トール」
僕は、黙って頷いた。

「あの辺にお前が1人やっと通れる位のダクトがある。そこから逃げるんだ。
そのダクトはそのまま裏の雑木林に続いている。・・・いいな、絶対捕まるんじゃないぞ」


僕は、唇をきゅっと噛むと、「分かったよ」と答えた。
そして、ずっと胸に抱いていた疑問を初めて彼に投げ掛けた。

「Mr.アンダーソン。どうして、僕を殺そうとしたの?」
「・・・お前は危険だからな。奴らはこの研究所の人間を皆殺しにするつもりだ。
だが、お前は違う。例外だ。奴らはお前を捕縛し、利用するつもりでいる・・・。
だから、オレはクライアントにお前が奴らの手に落ちるくらいだったら殺せと命令されていた・・・。
さぁ、もうこれで説明は終わりだ。行け!トール!!」
「僕が逃げたら、あなたは困るんじゃないの?」
僕は彼の身を按じた。

「お前が捕まったら、オレの職人としての評価が落ちる。無事逃げ果せたらお前と親友として再会できる。
それだけのことさ」
と、僕の頭を叩いた。

「さぁ!行け!!ミラクルボーイ!!」
彼は僕の背中をどんと押した。

僕は、銃を手に強く握り締めると、
「絶対!絶対!!助けに来るからね!!Mr.アンダーソン」
そう叫びながらダクトを目指した。

「ジョージだ!トール!!」
「え!?」
「これからはそう呼んでくれ!親友なんだろ?オレ達は・・・」
僕は彼のこの言葉が心底嬉しかった。


「うん!」
僕は大きく頷いて、「必ず助けるよ!ジョージ!待ってて!!」
そう言って、素早くダクトに身を投じた。


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逃走

2005年11月17日 21時51分18秒 | 第8章 恋愛鼓動編
僕達は急いで食堂を抜け、厨房へと向かった。
銃声と悲鳴があちこちから聞こえてきた。
数回の轟音と共に、異臭が辺りを漂い始めた。

「あいつら、爆弾を満載した車ごと突っ込みやがった」
銃を構えながらMr.アンダーソンは僕を厨房へと誘導した。

彼は、太腿から大量に出血をしていた。
動脈の損傷を疑った僕は直ぐに止血をした。
出来るだけ早く手当てが必要だった。
僕は足を引き摺る彼と共に厨房を抜けようとした。


その時、背後からパンパンパンと乾いた銃独特の破裂音がした。

彼は僕をテーブルの下に突き飛ばすと、同時に彼自身も飛び込んできた。
「追いつかれちまったか・・・」
「彼らは一体・・・」
「この実験のモルモットになるはずだった奴らだよ」
と、だけ答えると、「しっ!」と指を立てた。

Mr.アンダーソンは、扉から忍び寄る足音を聞きながら、「1・・・2・・・3・・・3人か」と相手の人数を数え始めた。
そして、シンクの側にあるワゴンを引き寄せると、「よし、とオレが合図したら、このワゴンに積んである皿をあの蛍光灯目掛けて出来るだけ沢山投げるんだ」と、僕に指示した。

じりじりと敵はこちらに向かって距離を詰めてきた。
「よし!」と言う合図を聞いて僕は一斉に蛍光灯目掛けて皿を投げた。

皿の破片がシャワーのように彼らの上に降り掛かり、動揺した彼らは大声を上げながら頭や目を覆い始めた。
その隙にMr.アンダーソンは銃で彼らの頭を射抜いた。

「何も殺さなくても・・・」と言い掛けて、Mr.アンダーソンの形相に言葉を呑んだ。
彼は太腿だけでなく肩にも銃弾を受けていた。
彼の顔に血の気がなかった。

「大丈夫?!Mr.アンダーソン!!」
僕は肩の血を止血しようとした。
彼は、僕の手を制すと、「ここまでだ。トール」と、視線の定まらない目を漂わせながら頭を横に振った。
「もう・・・、守れない」そう言うと銃口を僕の方へ向けた。



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変容

2005年11月17日 19時05分13秒 | 第8章 恋愛鼓動編
僕は最新の設備と優秀なスタッフに囲まれて研究に勤しんだ。
何のへんてつもない自然界にありふれたバクテリアの培養と生態の研究―――。

彼らは一体何をしようとしているのか・・・。
当時の僕には検討もつかなかったんだ。
だけど、研究の過程でそのバクテリアは、ある条件が整うと、人類を恐怖へと陥れる禍禍しいものにその姿を変容させるモノであることが分かった。

僕はこの事実に脅威した。

日常に潜む何でもないありふれたバクテリアが人間を襲う・・・。

この研究は続けてはいけない。
それを提携先の社長に告げるために僕は走った。




だけど、それは既に遅すぎたんだ。
大きな破裂音と共に研究所の全てのガラスが吹き飛んだ。
動揺し、出口を求めて走り回る研究医達の間を縫って僕は音のする方へ走った。

研究所内は、怪我をした者、恐らく死んだと思われる者で溢れかえっていた。
阿鼻叫喚の地獄絵図がリアルなものとなって眼前に現れ、僕の足を捕らえ、動けなくしてしまった。

「トール!無事か」
「Mr.アンダーソン、これは一体・・・」

Mr.アンダーソンは風向きを読むと、
「階下の食堂へ!」と叫んだ。

「Mr.アンダーソン、あの人も連れて行って!」
僕は床でまだ息のある研修医を指さした。

だけど、彼は、「お前を守るだけで精一杯だ」とその願いを一蹴し、僕の襟ぐりをむんずと掴むとそのまま廊下の端まで、床を転がるボーリングのボールのように僕を放り投げた。



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陽光の中で

2005年11月16日 22時04分07秒 | 第8章 恋愛鼓動編
ハルナ・・・。
君は僕と初めて会った時のことを覚えていないだろう。
無理もない。
僕達が初めて出会った時、僕は今の僕と少し違っていたから。

僕は、君に出会う前までアメリカの大学院で医学を勉強していたんだ。
実習が苦手でね。
特に人体解剖やモルグでの検死実習の時間はとてもつらかったことを覚えているよ。
まだ、10歳にも満たなかったんだもの、仕方ないか。

僕が11歳で大学院に進んだ年、ある企業と共同研究をすることになった。
その研究のチーフに僕が選ばれたんだ。

企業は僕に幾つかの注文を出し、それ以外は自由に研究していいと言ってくれた。
そして、彼らは僕の護衛としてMr.アンダーソンを雇ったんだ。
齢40と言ったところだろうか・・・。

僕はこの彼の護衛が何を意味するのか全く分かっていなかった。


ひどく無愛想なその男は僕に「Mr.アンダーソン」以外の呼称を決して許さなかった。
僕はMr.アンダーソンと少しでも友好的な関係で仕事がしたくて、週末には彼が得意とするフライフィッシングを教えて欲しいと川に誘ったんだ。

木漏れ日を反射してキラキラ光る川面を繊細な釣り糸がヒラヒラと蝶のように舞う中、僕は自分自身のことを話し始めたんだ。

そして、僕が最初の魚を釣り上げて話が中断した頃、Mr.アンダーソンは初めて口を開いた。
「トール、お前は銃が使えるか?」
「ううん。使えないけど」
「そうか」

Mr.アンダーソンは懐から銃を出すと、僕に安全装置の外し方や打つ際の構えを教えてくれた。

「オレは命に代えてもお前を守る」
彼は銃を元に戻すと、僕の目の前にしゃがみ込み強い眼光を放ちながら言った。
「それでも、守りきれない時は、・・・お前を殺す」
僕は全身の血が凍った。
「守りきれない時って・・・?」
「オレがそう判断した時だ」

それから僕達は黙って釣りをした。
僕は何で殺されなきゃいけないんだろう。
考え込みながら釣り竿を回していたら、糸が複雑に絡まってしまった。
「大丈夫か?トール」
Mr.アンダーソンは僕から竿を取り上げると、河川敷にどっかりと腰を下ろし絡まった糸をほぐし始めた。

「少なくとも、今、殺されるわけじゃないよね」
「ああ。そうだな。これからもそうならないことを祈っているよ」

こんな物騒なことが冗談じゃないことは彼の目を見れば一目瞭然だった。
それでも、僕は不思議とMr.アンダーソンに安らぎを覚え、陽光煌く川辺で静かに釣りを楽しんだんだ。


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ヤキモチ

2005年11月15日 20時23分50秒 | 第7章 恋愛後朝編~ハルナの章~
私は横目でそろりとかずにぃの顔を見た。
かずにぃはにっこりと微笑んだ。

私は直感した。
わざと、着けなかったんだ。

「ハルナ、今度、マジで旅行しよ」
見送り先の玄関でかずにぃはさっきの話を無視するかのように旅行のプランを話し始めた。
「・・・私、行かない」
「何で?」

私は上目遣いでかずにぃを無言で責めた。
「分かったよ。これからはあーゆーやばいことはしないよ」
「気付いててするなんて・・・」
「へぇー」
かずにぃは明らかに嬉しそうだった。
「何?」
私は更にむっとした。
「気付かない位、夢中だったなんて光栄だなぁ~」

私は初めてかずにぃをぐーで殴った。
「いってぇー。なんで、お前までぐーで殴ることないだろぉ!」
かずにぃは左頬を押さえながら大声で叫んだ。
「ふーん。お前までって・・・、今まで他の女の人にもグーで殴られたんだ」
私はますますムカムカしてきた。

「いや。殴られたのは、年寄りのヤブ医者・・・。
まぁ、お前にもいつか紹介するよ」
そう言うと、「・・・ヤキモチ妬かれんのも、いいもんだな」
と、嬉しそうに笑った。

私がまたかずにぃをグーで叩こうとした時、かずにぃはその手を掴み、私の体を引き寄せると軽くキスをした。

「オレは、あいつのことを半分思うお前に滅茶苦茶ヤキモチ妬いてるよ。
あいつには絶対渡さないからな」

私は改めてこの体に刻まれたかずにぃの重みを感じずにはいられなかった。


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謝罪

2005年11月15日 07時54分46秒 | 第7章 恋愛後朝編~ハルナの章~
私は、再び寝息を立てて眠るトオル君の水枕とタオルを替えると、かずにぃのいる部屋へ向かった。

「かずにぃ。私帰るね」
「どした?急に」
「うん。ちょっとね」

それだけで、かずにぃは全てを察したらしく、
「俺も行くよ」と言って席を立った。
「え?!いーよ。私自身のことだし・・・。これ以上、かずにぃにメーワクかけらんないよ」
私が手をパタパタさせながら、断わると、
「迷惑じゃないよ」
と、言ってその大きな手で私の頭をクシャクシャにし「行くぞ」と言った。

家に帰るとママは玄関で仁王立ちになっていた。
かずにぃは家に入るなり「すみません」と頭を下げた。

ママは、厳しい顔で、
「幾ら二人のことを認めたからと言ってこういう節度がないのは困るの。
分かるでしょ」
かずにぃは、「はい。すみません」と、ただひたすら謝った。

かずにぃの真摯な態度に幾分ママの態度も軟化してきた。
そして、私たちをリビングに通すと、コーヒーを煎れて、切り出しにくそうに言った。

「ハルナはまだ幼くて周りが見えないまま、突っ走ってしまうこともあると思うの。
だから・・・。かずとさん、あなたがしっかりして頂戴・・・」
「・・・・・・」
かずにぃは黙って頭を下げた。
「それから・・・、これは言いにくいことなんだけど・・・・・・、ちゃんと避妊して頂戴」
「ママ!」
私は顔から火が出るという思いを初めて体験した。
だけど、ママは毅然とした態度を崩さなかった。

ママのバカ!
なんでそんなこと言うの!
かずにぃ、引いちゃうじゃん!!

私は、心の中でママの言葉を非難した。
だけど、かずにぃは、
「分かりました。今後、気を付けます」
「かずにぃ・・・・・・」
私はかずにぃの言葉に胸が熱くなった。

ママは漸くほっとしたようでかずにぃにコーヒーを勧めた。

私も落ち着いて、コーヒーを一口飲んだ。
そして、その時、ふと昨夜のことを思い出した。

・・・・・・昨日の夜、私達は避妊をしていなかった。


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夜更け

2005年11月14日 22時04分30秒 | 第7章 恋愛後朝編~ハルナの章~
「かずにぃ。有り難う」
かずにぃは黙って頷いた。

あれから私はかずにぃに助けを求めた。
かずにぃは倒れているトオル君を見ると驚いたものの、彼を支えるようにして、自分の部屋まで連れて行ってくれた。

「オレのパジャマはいつものとこに入ってるから持ってきて」
かずにぃはトオル君をベッドに仰向けに寝かせると私に幾つかの指示をした。
そして、「後は俺がやるから」と、私を部屋から出すと、トオル君を手早く着替えさせた。

かずにぃはトオル君の顔を見ながら、小さく溜息をつきながら
「こいつ、本当にお前のこと好きなのな」
と、いかにも呆れていると言った口調で言った。
「え?」
「だってさ。お前がオレに抱かれたなんて聞いたその日だぜ。
それでもやっぱり好きなんて言えるなんてさ・・・。
よっぽどのバカか、よっぽどお前のこと好きじゃないと言えないよな。
・・・オレだったら、わかんねぇ。
オレが逆の立場だったら・・・。少なくとも、正気じゃいられない。
・・・八つ裂きにするかもな。こいつを」

かずにぃは静かに笑うと、
「オレはオヤジ達の部屋でレポート書いてるから。何かあったら呼んで」
と、言って部屋を出た。

さっきまで、ひどく降っていた雨も小雨に変わっていた。
静かに夜が更けて行く・・・。

「39.7度か」
トオル君の熱はなかなか下がりそうになかった。
私は、彼のベッドの横で、顔を伏せると、
「ごめんね」と、言った。
すると、彼の手が私の頭を優しく撫でた。

「トオル君・・・」
私が顔を上げると、トオル君は優しく微笑んだ。

その時、私のケータイが鳴った。
「ハルナ!どこに行ってるの!!」
私は「直ぐ帰る」とママに言って出掛けたことを思い出した。

「今、かずにぃの家で・・・」
私がそう言うと、
「今日は片岡さん家はかずとさんだけでしょ!帰ってらっしゃい!!」
と、物凄い剣幕で怒っていた。


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