フラワーガーデン

ようやく再会したハルナとトオル。
2人の下す決断は?

君の声

2005年11月26日 20時44分56秒 | 第8章 恋愛鼓動編
体がだるい・・・・・・。

枕元で誰かが泣いている。
女の子?!
栗色の髪の華奢な女の子・・・。
大きな瞳からは、大粒の涙を流していた・・・・・・。
「大丈夫だから、泣かないで」
僕はそのコの頬に手を添えた。
彼女は僕の手に自分の手を重ねると、「ごめんね。トオル君」と咽び泣いていた。

僕はこのコを知っている。
なのに、名前がどうしても思い出せない・・・。
とても切ない、この気持ちは何だろう。


僕が目を覚ますと女の子の姿は消えていた。
あの子は誰だったんだろう・・・。
ひどく懐かしい気がする。

「徹!大丈夫か?」
「父さん、・・・母さん・・・」
両親は、僕のことをとても心配そうに見ていた。
「僕は・・・」
「階段から落ちて骨折したんだよ」

ああ。やはりそうか・・・だから貧血を起こしたんだ。
じゃ、ここは父の通っている病院なのか。
ほっとすると同時に僕は目に異常を覚えた。

父が言うには4年前の事件の後遺症ではないかとのことだった。
「日本に私の知り合いで、眼科の権威がいる。
一緒に日本に行って治療を受けてみないか」
父の突然の申し出に、僕はこのアメリカでまだやらなくてはならないことがあるから即答はできないと言った。

母は、「徹。おばあ様、覚えているかしら。実は、痴呆症を発症していて、私達に日本に戻って来て欲しいとおじい様からご連絡があったの」と、帰国を懇願された。

「ここで、一度日本に帰ってみるのも良いかもしれないな。
リハビリだと思って」
父に続き、母も、
「それでね。私達、あなたに向こうの高校に通って貰って、年相応の経験を積んで欲しいとも思っているのよ」
と、言いにくそうに切り出した。

日本の高校に通う・・・。
一度も考えたことの無い選択肢だった。
何より、両親の態度に違和感を覚えた。
そうだ。
以前、日本に戻ろうとした時に似ている。
彼らは今度は一体何を思って日本に帰ろうと言うのだろう。

僕はゆらゆらと漂う夢現の中で、まだ見ぬ君の声だけを頼りに日本に行くことを決めたのかもしれない。


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