1日1話・話題の燃料

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著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

7月31日・ジョン・サールの部屋

2021-07-31 | 科学
7月31日は、民俗学者、柳田國男が生まれた日(1875年)だが、心の哲学を説く言語哲学者、ジョン・サールの誕生日でもある。

ジョン・ロジャース・サールは、1932年、米国コロラド州のデンバーで生まれた。父親はAT&Tに勤めるエンジニアで、母親は医者だった。
ジョン・サールは、ウィスコンシン大学に入学し、ローズ奨学金を得て英国オクスフォード大学へ留学、そこで博士号を得た。
27歳のころ、米国へもどったサールは、カリフォルニア大学バークレー校で教鞭をとり、35歳のころ、教授に就任。以後、同校の哲学科教授として、言語哲学、心の哲学について研究、発言を続けた。
1960年代には、マリオ・サヴィオたちが大学内への政治介入の排除を訴えた、バークレイ校内のフリースピーチ運動に教授側から参加し、そうかと思うと、ニクソン政権時代には大学問題に関する大統領特別顧問を務め、政治的にはいろいろな立場に立った。

ジョン・サールは無心論者で、歯に衣着せぬはっきりした物言いで知られ、いろいろなものを率直に批判した。
彼は、第三者が観察できる現象をのみ扱う行動主義心理学や、機能主義心理学を批判し、また、精神と物質の二つの実在が根本原理であるとする二元論を批判した。
サールは、意識という心の問題は、脳のプロセスによって生じることは明らかであるとした。すると、彼の主張は、物質こそ根源であり意識は物質(脳髄)の産みだした結果にすぎないとする唯物論に近づくが、彼はこの唯物論も批判した。
たとえば悲しみという感情は、当人が感じているあいだだけ存在している、当人が感じないかぎり生じない意識で、当人からしかこの意識に近づいてゆけない。すると、この心的なものを、物理的なもの(脳髄)に還元可能か、というと、因果的には還元は可能だけれど、存在論的には還元はできない、だから、単純な唯物論ではことはすまない、意識の特殊な性質を見失ってはならない、というのがサールの主張である。

サールが、AI(人工知能)を批判する際に持ちだした思考実験「中国語の部屋」は有名である。それはつぎのごとくである。
小部屋に、英語しか理解できない人、たとえば英国人を閉じこめておく。小部屋には小さな小窓があって、その小窓を通して、外部と紙きれをやりとりできる。
小窓から、中国語が書かれたメモが差し入れられる。メモには漢字が並んでいる。英国人には、意味のわからない記号の羅列にしか見えないのだが、小部屋には一冊のマニュアル本が置かれてあり、彼はそのマニュアルの「この記号にはこういう記号を書いて出せ」という指示にしたがって、メモに新たな記号(漢字)を書き足して小窓に出す。ちゃんとした中国語の問答になっている。また新たなメモが差し入れられ、漢字が書き加えられて出される。これが繰り返されると、小部屋の外にいる人は「この部屋のなかには中国語がわかる人がいる」と考える。
これは、相手が機械(人工知能)か人間かを判定するチューリングテストに対する反論だけれど、なかなか気が利いている。いかにもサール、である。
(2019年7月31日)



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