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著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

7月23日・チャンドラーの粋

2021-07-23 | 文学
7月23日は、たきぎを背負って本を読む二宮金治郎こと二宮尊徳が生まれた日(天明7年・1787年)だが、米国の推理作家、レイモンド・チャンドラーの誕生日でもある。「私立探偵フィリップ・マーロウ」の生みの親である。

レイモンド・ソーントン・チャンドラーは、1888年、米国イリノイ州のシカゴで生まれた。両親ともクエーカー教徒で、父親は鉄道技師で、酒飲みだった。レイモンドがまだ少年だったころ、両親は離婚し、レイモンドは12歳のとき、母親とともに英国へ渡った。母親は英国で息子にちゃんとした教育を受けさせようと思ったのだった。
レイモンドは高校を出ると、仏国パリ、独国ミュンヘンなどに留学した後、イギリスへ戻り、19歳のとき、英国国籍を取得した。海軍に勤務した後、新聞や雑誌に文章を発表。23歳のときにアメリカへもどった。石油会社役員などを務め、35歳のとき、18歳年上にあたる53歳の女性ピアニストと結婚した。
不況中の1932年、44歳で失業。その頃読んだアール・ガードナーやダシール・ハメットなどのハードボイルド探偵小説に強く影響され、一念発起して探偵小説を書きはじめた。
51歳の年に、私立探偵フィリップ・マーロウ・シリーズの第一作『大いなる眠り』を発表。独特の美学を持ったこのタフガイ探偵マーロウの創造と、洒落た警句や比喩のちりばめられた華麗な文章によって、一躍人気作家になった。
『さらば愛しき女よ』『かわいい女』『長いお別れ』などシリーズは映画化され、私立探偵マーロウは、ハンフリー・ボガードや、ロバート・ミッチャムらによって演じられた。
チャンドラーが66歳のとき、年上の妻が闘病の末に没した。最愛の妻を失ったチャンドラーは酒びたりの生活を送りだし、うつ状態に沈み、自殺未遂を起こしたりした。その後、周囲の励ましもあって、70歳の年、久々にマーロウが登場する新作『プレイバック』を発表して復活したが、71歳の日を迎えることなく、1959年3月に没した。

007号シリーズの作者イアン・フレミングは、チャンドラーを目標にして書いていると公言している。彼は、ジェイムズ・ボンド・シリーズが巻を重ねても、作者がなかなか上手にならないと批判されたとき、こう反論した。
「自分をチャンドラーのような才能のある作家と勘違いしてもらっては困る。自分はとぼしい自分の才能を使って、精一杯やっている」

拙著『名作英語の名文句』の1、2集の両方で、チャンドラー作品を取り上げた。チャンドラー作品には、粋なせりふが目白押しである。米文学のひとつの頂点かもしれない。
チャンドラーは言う。
「But the only salvation for a writer is to write. If there is anything good in him, it will come out.(作家を救済する唯一の方法は、書くことだ。作家のなかにいいものがあれば、それはいずれ現れる)」(Raymond Chandler, The Long Good-bye, Three Novels, Penguin Books)
(2021年7月23日)



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