1日1話・話題の燃料

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著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

7月21日・ヘミングウェイの熱狂

2021-07-21 | 文学
7月21日は、「メディアはメッセージだ」と言ったマクルーハンが生まれた日(1911年)だが、米国の文豪、アーネスト・ヘミングウェイの誕生日でもある。

アーネスト・ミラー・ヘミングウェイは、1899年、米国イリノイ州のオークパークで生まれた。父親は医者で、母親はピアノと声楽の教師だった。開業医の父親より、母親のほうが収入が断然多かったらしい。アーネストは6人きょうだいの上から2番目で、ひとつ上の姉と双子のように育てられた。小さいころは服装から髪形まで同じ女の子風で、同じ高校に姉弟いっしょに入学し、同時に卒業した。後にハードボイルドな文体で知られたこの肉体派作家が、女の子のように育てられたのである。自然のなかで釣り、狩猟に親しんだアーネストは、10歳の誕生日のとき、父親から猟銃をプレゼントされた。
18歳の年に高校を卒業したヘミングウェイは、血気盛んな若者で、第一次大戦に従軍したくてうずうずしていたが、父親に反対され、新聞記者になった。しかし、半年後には退社し、イタリア軍付きの赤十字要員として、ヨーロッパ戦線へ出た。死体の収容や兵員への食料支給をしていて砲撃にあい負傷。入院療養した後、今度はイタリア軍に参加した。
20歳で復員した後、カナダのトロントで雑誌の編集をしていたが、22歳のとき、新聞社の特派員としてふたたび渡欧。パリで美術収集家のガートルード・スタインと出会い、彼女の指導を受けながら、文章修行を積み、小説家を目指した。ガートルード・スタインは、小説執筆について、ヘミングウェイにこう諭したという。
「もっと話の展開を早く。小説は作者が意見を言うためのものではない」
26歳のとき、短編集『われらの時代に』を出版。
27歳のとき、長編第一作『日はまた昇る』を発表。簡潔でスピード感のあるハードボイルドな文体で「失われた世代」の代表作家として一躍脚光を浴びた。
スペイン内乱や、第二次世界大戦に際しても、特派員として戦地に渡り、記者の立場を越えて戦争に積極的に参加し、その経験を生かして『武器よさらば』『誰がために鐘は鳴る』『老人と海』などを書き、ノーベル文学賞を受賞した。
晩年はノイローゼに悩み、1961年7月、アイダホ州ケッチャムの自宅で死亡した。7月2日の朝、二階で眠っていた夫人が銃声に驚いて階下へ下りると、階段の下で、ヘミングウェイは猟銃の弾によって顔全体がふっとんだ姿で倒れていたのだった。自殺とされる。

拙著『名作英語の名文句』で『老人と海』をとり上げた。けれど、ヘミングウェイでいちばん好きなのは『日はまた昇る』である。この原題は、The Sun Also Rises で、本来『日もまた昇る』である。『日はまた昇る』なら、The Sun Rises Again である。でも、邦題『日はまた昇る』は名訳である。この作品の終わりで、ヒロインのブレットが、語り手である「ぼく」にこう話しかける。
「『おお、ジェイク』とブレットは言った。『わたしたち、いっしょにもっとすごくいい時を過ごすこともできたんじゃないかしら?』('Oh, Jake,' Brett said,'we could have had such a damned good time together.')」
すると、「ぼく」はこう返す。
「『そうだね』とわたしは言った。『そう考えるのは、美しくないかい?』('Yes.' I said.'Isn't it pretty to think so?')」(Ernest Hemingway, The Sun Also Rises, Arrow Books)
このくだりが好きで、読めばたちまち、胸にスペインの太陽と熱狂がこみあげてくる。
(2021年7月21日)



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