都立高専交流委員会ブログ

都立高専と城南地域の中小企業(特に製造業)との交流・連係を図り、相互の利益と地域社会・地域経済の発展を目指します。

極東ダイカススト 専務取締役 山森勝利 氏 / 中小企業家経営塾 講義 原稿 ②

2013年11月09日 | Weblog
 
 極東ダイカススト 株式会社 専務取締役 山森勝利 氏 による
 本年度の中小企業家経営塾 平成25年度 第1講 の 講義の原稿です。
 下記と併せて、お読みいただけば幸いです。
  
 
 
 
 
    3.ドラマ制作の仕事・現場で学んだ社会人の基本
 
 
 3ヶ月の連続ドラマがメインで、平均睡眠時間が3時間。
 ギャラは20万円/月で3食付、製作車両とスタジオ仮眠室での生活を5年以上続けました。
 
 ただの仕事として考えるならとても割の合わない業種で、街中での撮影では常に一般人に頭を下げ、
 裏家業の人たちと警察には必ず事前に筋を通して・手続きを済ませ、
 現場が常に安全に撮影できるよう注意を払い、
 ロケセットの交渉やスポンサーとの競合が無いかに目を配り、
 体力や精神力をすり減らしながら仕事をしていました。
 
 実力主義の世界でしたので、私は2年半で製作担当という制作進行・製作主任の上で
 プロデューサーの次に責任のある役職につくことができましたが、
 下の担当者を育てようとしても既に私より若い年代の方たちは忍耐力が無く、
 早い人は2時間で現場を放り出して逃げ出す人もいました。
 
 あるフジテレビの連続ドラマの作品で、
 幕張にある技術系企業の本社ビルで撮影したいとの監督からの要請があり、交渉しました。
 総務部に電話したところあっさり断られました。
 ですが、私が大学生時代に父親の車の運転手をしたときに、
 ゴルフ場送迎で、この会社の社長が同乗したことがあり、面識があったことを思い出したので、
 当時、父親が現在の旭東ダイカストの専務をしていて、
 取引先としてこの会社とのお付き合いがあったことから、
 社長へ直接交渉する為のためのアポイントを取ってもらうお願いをしました。
 そのときの交換条件として、その交渉に父親が同席するという条件をつけられました。
 
 おそらく、私がどのような仕事をしているのか、一度見てみたかったのでしょう。
 父親同席のもと、セイコーの社長に撮影交渉をしました。そして、見事撮影許可が降りたのです。
 大手メーカーの自社ビルでの撮影許可は降りないのが業界でのセオリーでした。
 なぜなら、企業秘密が詰まっており、機密漏洩のリスクがあったからです。では、
 なぜ許可が降りたのでしょう? それは、私が大学生時代に車の運転手をして面識があったこと。
 そして、機密漏洩しない計画を台本に沿って綿密に立て、
 このときはフジテレビ社長の誓約書をつけて交渉したことが認められたようです。
 
 おまけとして、社長からの提案でビルのワンフロアー丸々空いている階があって、
 撮影期間中ロケセットをそこに作りっぱなしで設置しておいてもいいと提案をしてくれたのです。
 これには、プロデューサー・監督・撮影スタッフ皆が驚愕しました。過去に例が無かったからです。
 フリーで仕事をしていましたから、この実績はあっという間に業界に知れ渡り、
 様々な局から仕事のオファーをいただけるようになりました。
 
 ここでいえることは、交渉時に押してだめなら引いてみる。
 手段は決して一つではない、どんな仕事でも答えが一つということは決して無いということです。
 また、コネがあるなら例え親でも有効に使うということが大事でしょう。
 下手なプライドや羞恥心はいらないのです。
 仕事を完遂させる為に手段を選んではいられない。結果が全てだということです。
 私の社会人としての基本は、ここで培われたといえるでしょう。
 
 そして、ギャラ(給料)は二の次で仕事が認められれば自然についてくるものなのだということ。
 私のこの仕事の場合、
 作品のエンディングテロップに自分の名前が出ることで一つ一つの仕事の区切りがつき、
 基本的な仕事の流れ(始まりから終わりまで)を理解することができました。
 
 かくして、
 父親に私の仕事をしている姿を見せることができ、社会人として一つの区切りを向かえることができました。
 いつまでもヤクザな商売をしているのではないと言われ、
 始めに話しました小泉内閣による痛みを伴う政策により、中小企業である父親の会社も例外なく影響を受け、
 大変な時期にあることも分かっていたことから、旭東ダイカストに入社する決意をしました。
 
 
    4.契約社員として入社し、研究開発責任者に任命される。
 
 
 旭東ダイカストに入社するのも、息子だからといって簡単なことでは決してありませんでした。
 当時、東京都の助成金を受け、Mgダイカスト技術・設備を開発する契約社員として入社し
 このMgプロジェクトの研究開発(3ヵ年)に成功した暁に正社員として迎えるという条件付きでした。
 ここに旭東ダイカストの取締役専務として立っているということは、
 なんとか成功したということの証といえますが、決して楽な条件ではありませんでした。
 
 ここから少しダイカストはどういうものか説明していきたいと思います。
 合金(主にAl・Zn・Mg)の塊をインゴットと呼びますが、
 それを炉で溶かしダイカストマシンに製品を形作る金型を搭載し、溶けた合金を流し込む。
 この溶けた合金を流し込み、金型で成形された製品を取り出すという作業を、
 大きさにもよりますが、20秒から50秒のサイクルで繰り返す製造方法をダイカスト言います。
 同じ金属製品を大量に作り出す製造法で、主に自動車部品の製造に使われてきました。
 
 弊社は現在の会長(私の父親)へ代が変わったところで、いち早くこの自動車部品の仕事から脱却し、
 当時のダイカストメーカーが決して手を出さなかった、多品種・小ロット・高付加価値製品に切り替え、
 このような条件の製品でも利益が出る工場の不稼働時間低減と
 最適ロット・金型交換時間を削減できる金型設計などの技術を磨き、他社との差別化を計ってまいりました。
 しかしながら、全く自動車業界と関係が無いわけではありませんでした。
 どういった製品であったかというと、
 自動生産ラインのロボットや搬送装置に使われる空気圧制御機器部品でした。
 これは、自動車メーカーはもちろん、半導体メーカーや医療機器メーカーの生産設備に使われております。
 
 自動車部品専門に商いをしているダイカストメーカーと何が違うのかというと、
 ダイカスト部品1つの単価が違うということ。
 これは、自動車部品では大量に生産できるということから、あまり付加価値を乗せることが
 客先から認められず、更にコストダウンも厳しいということが挙げられます。
 弊社はその逆ということです。そして、何より景気の動向に受注が左右される場合に、
 自動車業界だけではない為リスクヘッジになっているという違いがあるといえます。
 
 私が入社する場合の条件として挙げられたMgダイカストの技術確立を命じられたのはなぜかと言うと、
 先にも述べましたダイカスト技術でまだ他社がやっていないことを1番にやるということです。
 常に同業他社との差別化を計り、生き延びて歴史を積み重ねなければならないのです。
 
 一般的にMgダイカスト技術が今までなかったという訳ではありません。
 ドイツのビューラーというマシンメーカーが、専用設備を開発しており
 その設備を使って生産していたダイカストメーカーがごく少数ではありましたが存在していました。
 
 なぜ普及しなかったかというと、Mgの特性が燃えやすい(発火)事が理由でした。
 扱いが極端に危険だったのです。Mgは空気と触れると水素を発生し、
 例えば静電気などでも着火要因となり文字通り水素爆発を引き起こすのです。
 
 私が当時この材料の難燃化と給湯設備(溶湯をダイカストマシンへ搬送する設備)の設計開発、
 溶湯を保持する為の炉の開発やダイカストマシンの射出スペックの高速化などを研究開発しました。
 この設備開発がMgダイカストの普及に繋がると考え、東京都からも助成金を受けることができたのですが、
 それでも当時普及することはありませんでした。
 理由は、日本のメーカー(家電や自動車など)が何処も製品の材料として採用しなかったからです。
 
 その頃、Mgダイカストが使われていたのは、
 PCの筐体・携帯電話の筐体・デジタルカメラの筐体といった薄いダイカスト製品にのみでした。
 これは、次第に材料として扱いやすい樹脂製品に変わっていきました。
 初めから樹脂が採用されなかったのは、強度不足が致命的欠陥だったからなのですが、
 樹脂材料の研究開発が進み、
 比重の軽い金属として採用されていたMg合金でなくても強度をある程度保てるようになったからです。
 
 弊社はAlダイカスト技術において、肉厚の機能部品を得意としていました。これは、
 真空装置を使い金型内部の空気を減圧し成形する技術で現在はポピュラーな製造方法となっております。
 ここで肉薄と肉厚のダイカスト部品の成形にどのような問題があるのか説明しますと、
 肉薄製品は主に筐体といった外装部品として使用され、表面のきれいさが求められます。
 ダイカスト鋳造で溶けた金属を金型に流し込み製品にする場合、例えば温度が低すぎると、
 途中で凝固が始まり、湯境ができてしまって表面がマーブル模様になってしまうことが問題となります。
 (塗装してもムラができてしまう。)
 そして肉厚の製品を作る場合は、金型内部の空洞部分が多くなる為、
 空気の抜けが悪いと製品内部に空気を巻き込み、切削加工などを行うと別々の加工通路が同通してしまい、
 空気圧・油圧で制御するときに誤作動を起こしてしまうことが問題になります。
 
 Mgは凝固スピードがはやいため、Al合金よりも扱いが非常に難しいので普及しませんでした。
 ですが、一応技術としての確立はできたので、大田区産業プラザPIOにて研究成果を発表し
 開発終了を迎え、はれて私は正社員採用となったのです。
 
 ちなみに現在は、新たに経済産業省の戦略的基盤技術支援事業(通称サポイン)の助成金を受け、
 電動カーコンプレッサー向けMgダイカスト技術の研究開発なるものを手がけております。
 これは、これから先の自動車業界における車両の航続距離を伸ばす為のもので、
 更なるエコカーの開発に軽量化は欠かせないと考えたからです。
 AlとMgとでは比重が違う為、同じ体積でもMgの方が軽いのです。
 
 この技術を確立できたら、量産は中国で考えております。
 なぜか? 中国ではMgが資源として豊富に取れる国だからです。Mgの精錬設備においても、
 日本では取扱いに危険を伴うこともあり、1箇所くらいしか出せるところがありません。
 
 このような理由から、これからの日本製造業としてのあり方は、先進技術の開発・試作量産までに留まり、
 量産は新興国などを主に必要とされる国での現地生産に切り替わっていくのではないかと思います。
 日本での製造業の限界、それは資源を持たない国だからです。
 
 
 
 下記につづく
 
 

最新の画像もっと見る

コメントを投稿