大島恵真(おおしま・えま)の日記

児童文学作家・大島恵真の著作、近況を紹介します。
絵本作家・大島理惠の「いろえんぴつの鳥絵日記」もこちらです。

黒猫ノアール 2013年5月

2013年05月02日 | 黒猫ノアのはなし
 1週間前から、黒猫がうちの玄関で暮らしています。ネコが家の中にいるなんて、その前日までは思ってもみないことでした。

 発端は、その1週間の5日前。庭のシジュウカラの巣箱からヒナの声が聞こえてきて、喜んでいたその日あたりから、野良の黒猫が庭に来るようになりました。庭の虫にじゃれついたり、門にすわって通行の人をながめたり。あどけなさの残るネコだなあ、とあたたかい気持ちで見ていたのですが、そのうち巣箱の横の塀にすわるようになり、シジュウカラの親たちが巣箱に頻繁に虫を運んでくるようになった1週間前、とうとうシジュウカラの行動に気がついてしまいました。

 目を輝かせて巣箱の真下に陣取る黒猫。シジュウカラの親たちは、巣箱に近づけずに前の電線でツピツピ鳴くばかり。そこで急遽、黒猫捕獲作戦を決行。かつおぶしを手にのせて、つかまえたのです。まだ1歳にならないくらいの子ネコなので、おもいのほか簡単につかまりました。

 ところが、子ネコだと思っていたものの、玄関に閉じ込めてみると、かなりの大きさ。黒いから、縮小して見えたのかもしれません。しかも、庭では逃げがちだったのに、家の中に入れたとたん、人の体のまわりをぐるぐる回る慣れつきよう。玄関に置いた簡易ネコトイレも一発で理解しました。

 このネコが姿を見せたのは昨年の夏で、母親らしい黒猫といつもいっしょでした。この母ネコがなかなか優秀で、子ネコが畑から道路に飛びだそうとすると、前足でさっと制御して、車が行きすぎるのを待ってから二匹で道路を渡るという慎重ぶり。この母が、野良ネコとして人に好かれるためにはどうしたらいいのかを子ネコに伝授したのかな、などと勝手に思い描いています。

 あまりに慣れているので、だれかに飼われていたのかなと思い、えさをあげていたと思われるお宅に聞きにいくと、うちじゃ飼ってませんからご自由にとのこと。
 このまま庭に放したらシジュウカラの妨害になるので、飼ってみることにしました。脱走しても近所の迷惑にならないように、ネコにはかわいそうですが、去勢手術をしてもらおうと病院につれていくと、もう済んでますとのこと。えさをあげていたと思われるお宅で、やってくれたのかもしれません。やはり、ある程度、飼われていたのかもしれません。でもご自由にと言われたことだし、せっかく病院にもきたので、健康診断やワクチンの接種をしてもらいました。

 名前と誕生日も決めましょうと言われたので、名前はノア、誕生日は特に理由もないのですが、春生まれの1歳でしょうというので、3月1日にしました。考えたり悩んだりする時間がなかったのは、かえってよかったかもしれません。他人の(ネコでも)名前や誕生日を決めるなんて、いくら考えたり悩んだりしても、進展はなかったと思います。

 ノアは、フランス語の「ノアール」(黒とか夜といった意味)からつけました。いつも使っているフランス製の木炭鉛筆の商品名でもあります。しかし、動作がどたどたしていて、タヌキのタヌさんといった風情。
 どうどたどたしているかというと、玄関には棚があり、ノアはその棚の上が好きなのですが、保護したその夜に、ずどーーーーん!と轟音がするので玄関を見に行くと、ノアが棚から落ちたのでした。体が大きいので、まるくなって毛づくろいをしている途中で落ちてしまうのです。その後もよく、そういうことがあるのです。

 寺田寅彦のネコの随筆によれば、寺田家にはメスの「三毛」とオスの「玉」がいて、三毛は音もさせずに高い所からおりるのに、玉のほうは降りるというよりは「落ちる」のだという記載があり、まったくノアも玉と同じで、落ちたりぶつかったりするネコなのでした。

 群ようこさんの「トラちゃん」には、オスネコの単純なかわいらしさ、という記載もあります。ノアもたしかに単純に喜ぶネコで、また人が大好きなようで、玄関を通るときはだれかれかまわずまとわりつきます。居間で笑い声なんかがすると、さびしいのか、ニャーニャー鳴きます。会いに行くと、ゴロゴロとノドをならして鼻をつきだします。鼻と鼻であいさつせよ、ということなのです。

 スケッチをしてみると、ネコはなかなかじっとしていないことがわかります。ちょっと描くと動き、目があうとこっちに来るので、正面顔が描けません。ネコにかぎらず、インコでもオウムでも、人間の子どもでも同じで、じっとしているように見えても、つねに細かく動き続けているので、5秒くらいで1ポーズを描ききることが求められます。動くものを相手にしていると、絵がうまくなりそうです。

 結局、スケッチできたのは、後ろ姿のみ。このイラストではありませんが、窓の外の、シジュウカラの巣箱をみつめている姿です。ノアは、シジュウカラの親たちが塀にスタッと止まるたびに、耳をぴんと立てて夢中でながめます。明日で、ヒナが孵化したと思われる日から2週間になります。そろそろ巣立ちかもしれません。しばらく、ノアにはがまんしてシジュウカラのことを忘れてもらいたいものです。

 ヒナの巣立ちも、家の前が道路なので心配です。3年前は、巣穴を飛び出したヒナたちは、3羽ほどがまっすぐに道路をつっきって向いの畑に落ち、残りの3羽ほどは玄関のドアに衝突して庭に落ちました。窓からながめていて、「これが巣立ちか!」と、あまりの急さとイメージのちがいにおどろいたものです。道路にはよく車が通るし、家の前の電柱にはカラスがいるし、ネコはいるしで、人間が協力してもなお、住宅街の鳥の子育ては苦労が多そうです。

 ヒナたちの新しい門出は、どんなでしょうか。ヒナたちの生きる真剣さ、親鳥たちの必死の誘導、きっと今年も、目が離せないと思います。とつぜんの黒猫との出会いとシジュウカラの子育てで、あわただしくも、初夏らしい活気にあふれた1週間となりました。

※イラストは「凹んだってだいじょうぶ」(清流出版発行・岸本葉子編)より by Rie Oshima

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