繊細と単純は決して矛盾しない

 

	いや参ったよ。 喧嘩をしたら このザマさ。
	なあ、 見ての通り 遅咲きの八重桜が いま満開なんだが、
	こいつは 花全体がボタッと落ちるし、 花びらもたくさん散るんで、 悲しいよ。
	自分のこんな姿と つい重ね合わせてしまってね。 気が滅入るんだ。
	あ、風が……？
	（ヒラッ）
	……私の感じ方は狭量だったかな？ 散ってしまった花びらも、幸せそうだものな。 咲き誇っている花びらに勝るとも劣らない 生の激しい喜びに、うちふるえているのかもしれんな。
	うん、急に気持が楽になったよ。 私も単純なのかなあ。ふふ。

素敵な場所

 

　牡丹桜が見頃を迎えた

　おかかはいつもの場所に居る

　通る人はみな足を止め

　この木を見上げる

　おかかも今日は気分が良いらしい

　先刻は珍しく誰かに頭を撫でられていたようだ

　私がそこへ近づくと、もうおかかの姿はなかった

　落ちた花にも陽光が降り注いでいた

 

 

大丈夫

 

　クロは「自宅」の外にいた

　ニャーニャーと鳴く

　そして疾風の如く「自宅」へと向かった

　カメラを構える時間もなかった

　ズームを決める余裕も与えぬダッシュ

　オートフォーカスの追随も許さぬスプリント

　少年ジャンプの発行部数も及ばぬジャンプ

　こいつなら大丈夫　逞しく生きてゆけるだろう

 

春霖

 

 

	こんな寂しい雨の夜には 目を閉じて 想像力を働かせてみる
	透明な光の中 いつもの時間に いつもの場所にいる そう想像してみる
	近所の奥さんがくれる御馳走を たらふく食べる
	カメラのお兄さんのマタタビに かじりつく
	何よりの楽しみは このあたりの花々
	人間も「聞香」などと言うけれど 僕の鼻は文字通り 《香りを聞く》ことができる
	若い花の香りは　さざめき 恋する花の香りは　ささやき 老いた花の香りは　つぶやき
	目を閉じて 色々と考えてみるんだ こんな侘しい雨の夜にはね

 

 

 

明日、千葉へ参ります

 

	「おいっ　カメラの若造が千葉へ行っちまうってホントかっ！？」
	「先生、あぶない！」
	「ああっ」 ツルッ
	ズシーン 「あちゃー　先生が落ちた……！」
	「ぐはぁっ」
	「だいじょうぶですか まったくもう あわてんぼなんだから」
	「ぐぉぁおお…… あんな若造はどうでもいいが…… 奴が持ってくるマタタビが無くては困るんだ……」
	「でも先生、カメラのお兄さんは日帰りだそうですよぅ」
	「そ……それを早く言え」

 

 

そんなこと知るか～っ！

 

 

 

	「おむさん、僕は明日、千葉の佐倉というところに 行って来るからね。準備もあるし、朝早く出なきゃ ならないから、今日はもう帰るよ。」
	「そんなこと知るか～っ！ ほら、とったど～！ わははー！」

微妙なものまね

 

　「瞬間芸だよ。いいかい、いくよー？」

 

　クイッ　　「て、鉄腕アトムー！」

 

　「……うーん、いまひとつだったかな」

顔を見せてくれ

 

　高速道路の下にいた

　フェンスの中なので近寄れない

　この３枚しか撮れなかった　（が、後日再会を果たした）

 

 

縞々シスターズ（仮称）

 

　突然現れた二匹

　二匹とも雌だそうだ

　揃って行動するところが面白い

　エサをねだっているらしい

　姉妹かどうかは判らないが、とりあえず「縞々シスターズ」と呼ぼう

　もちろん、常にシンクロしているわけではない

　こちらはリリーかとも思ったが、よく見ると模様が異なる　（追記：リリーは3月31日に死んだとのこと）

　また来いよ

 

 

葉桜

 

 

　あっ　どうしてこんなに早く来たの？

 

　あたしは相変わらずよ

 

　ん？　なあに？

 

　ふふ、今日は無口なのね

 

　あなた、睫毛がとっても長いわよ

 

　　あのね、あたしのこと、ちゃあんと見てなきゃダメよ

 

　……どういう意味かって？

 

　もういいわ　あなたは葉桜でも見てなさい

 

 

 

 

 

 

 

チッチ危機一髪

 

	その日チッチはうかつにも 道路の真ん中でくつろいでいた
	そこへ、悪ガキの二人乗り暴走自転車が迫る！ ガーッ 「おらおら邪魔だードラ猫　轢いたろかー」
	「はっ！？　チッチ　逃げてっ」
	「わーっ　助けてぇ」
	スタスタ 「ふふふ　私に任せなさい」 「シロさん！　あなたの不思議なパワーでチッチを助けて！」
	「とああーっ」 ピカッ　ボワワワーン
	キキー　ピタッ 「ああ　助かった……！」
	「す　すげー！　何なんだ　あの光球は？」 「愛だろ　愛」

 

 

 

 

実は露出オーバーで写った自動車です　

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どこで、どんな

 

　おや、あんなところにシロがいる

　すたすた歩いて、土手で遊ぶ子供の方へ行った

　そう、シロは子供が好きなのだ

　子供のいる家で飼われていたのだろう、と人は言う

　なお、シロは雌だということも判った

　最近ふらっとやって来て、野良猫たちの仲間入りをしたそうだ

　どんな家庭に居たのだろう？　一体、どこで、どんな暮らしをしていたのだろう？

　とぼけた顔をしているけれど、重い過去を背負っているのかもしれない

 

 

 

 

 

ぽたぽた

 

	桜の葉っぱが　たくさん出たよ
	花びらは無くなって　蘂（しべ）が残ったよ
	風が吹くたび　蘂が落ちるよ
	ほらね ひゅー　ぽた　ぽた
	でもね　ぽたぽた落ちるのは　蘂だけじゃないよ
	ふふ　このポーズ　わかるかい？
	しゃー　ぽた　ぽた　ぽた
	ふふ　お花さんに　見られちゃったね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白い球体、黒い球体

 

　ソメイヨシノは葉桜になったが、山桜が咲きにおう。

　ほら上に見えるだろう。え？　私の顔に何か付いてるかね？

　山桜の手前には、

　例の八重桜がある。牡丹桜と云うらしいが。

　既にご存知と思うが、この不思議な木には、

　白い一重の花が咲く枝も、出ているのだよ。

　そのずうっとずうっと向こうには、

　白い球体がある。午後の月だ。

 

 

　私は、月を見ると吼えたくなる

　……てなことはない。はは。アクビしたのさ。

　ところで

　この小さな紫の花。

　名前は知らないが、これも綺麗だろう？

　ほらね。

　……日が暮れてきた。そろそろ帰るか。

　帰り道で、黒い球体をみかけたんだが、これは何だろうな？

 

春の憂い

 

	のどかでいいけど ヒマですねー、先生
	うん、ヒマだな どうだ、ひとつダジャレでも 飛ばしてくれないか
	ダジャレを言うのはダレジャー なんてね
	うわーっはっはっはっ 腹いてえ
	はらいてえなら 払ってくれ！ なんてな
	あーっはっはっはっ
	はっはっ……
	……ちょっと虚しくないすか、先生 うん　ちょっと虚しいな