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暖かくなってきたので、おかか先生もゴキゲンだ。 |
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「先生、やっと本格的に春が来ましたね!」 |
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ところが ―― この日また、おかか先生の目から、血の混じった膿のようなものが出て来た。 |
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「ああっ!? 大変だあっ!」 |
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「ん? この目か? なーに、大丈夫だよ」 |
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「どこが大丈夫なんですか! 薬を付けなくちゃ!」 |
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「え~? また薬か?」
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「やだなぁ……」 |
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「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ?」 |
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「……あのな、野良猫ってのは、自分の体は自分で治すもんだ」 |
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「薬を付けるなんざ、堕落だよっ!」 |
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「だめです! 薬を付けましょう!」 |
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「い、いやだあ~っ!」 |
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「やれやれ……困ったなあ……」 |
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「先生は病院や薬が大嫌いだからなあ……」 |
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「ふん! 私の言ってることは間違ってないぞ」 |
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「なぜ解らんのだ……」 |
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と、その時、とても小さな声が聞こえてきた。 「おかか先生、薬を付けましょう」 |
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「ん? 何だ、この声は?」 |
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桜の花びらが、口々に喋っているのだ。 「先生、お薬を付けて下さい」 「おかか先生、薬を付けないと」 |
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「桜の花びらのくせに、私に意見するのか?」 |
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「お願いです、先生、薬を付けましょうよ」 「薬を付けてよ、先生」 無数の花びらが、先生に呼びかける。 |
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落ちている花びらだけではない。 梢の花からも、おかか先生に語りかける声が。 |
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「先生、お薬を付けて」 「先生、お薬を付けて」 花びらたちの声が重なって、合唱のように響き渡った。 |
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「……ふぅ。負けたよ」 |
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「おい、さっきはすまん。薬を付けてくれないか」 |
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おかか先生は、おむさんに薬を付けてもらった。 |
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「しょうがない。また暫く続けるか……」 |
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「花びらたちよ、意地を張って悪かった。どうもありがとう」 |
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「よかったね、先生」 「よかった、よかった」 花びらたちの小さな声が、また聞こえてきた。 |
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