筋雲が流れる晴れた日で、日中の最高気温が20度のとても清々しい日になった。こんな日は昼休みは裏山の旧道へ出かけるに限る。裏山にはニセアカシアの木がたくさんある。今はちょうどその白い房のような花が真っ盛りだ。今も咲く朴の花を見ながら緑のトンネルを抜けて、いつも車を止める場所に着いた。ちょうど近くの大きな木にカラ類の群れがやって来ていて、盛んに鳴いていた。しばらくして、カラ類が飛んで行くと、替わりにキビタキがやって来た。昨夕は家の近所からホトトギスの声が聞こえて来ていた。もうすっかり夏の渡り鳥たちが来ている。職場の4階にある自分のデスク横の窓は薬師公園に面しており、今日は一日ずっとウグイスが鳴き通しだった。 日本の野鳥の半数は渡り鳥たちだ。その渡り鳥たちは冬に越冬のために北からやって来る冬の渡り鳥と、夏に産卵のために南からやって来る夏の渡り鳥に分かれる。冬の渡り鳥は白鳥に代表される水辺の比較的大きい鳥が多い。それに対して、夏の渡り鳥は水辺と森にやって来る小型の鳥が多い。いずれも環境の変化でかなり影響が出ているようで、特に、夏場に南からやって来る渡り鳥たちの減少が80年代から見られるようになった。海面上昇や砂浜の減少で、海浜にやって来る渡り鳥たちが大きく影響を受けている。森も伐採や舗装道路により大きく変化し、野鳥たちの生息環境が変わってしまった。一方で、先日の読売の記事で報道されたように石川県では月の輪熊の生息域が北上して来ている。しかも、平地を飛び越えて北上が見られていることに地元には衝撃を与えている。岩手県では鹿の生息域も広がって来ており、月の輪熊も人の住むところへ頻繁に出没するようになって来た。熊が山から出て来るのはその年によって、山の実りが異なることも関係しているが、年々、平地への出没傾向が増して来ている。豊かな山ですら環境が大きく変化して来ている。東北では冬の渡り鳥がたくさんやって来る宮城県の伊豆沼がよく知られているが、ここにやって来る水鳥たちも沼の存在だけでは生きて行けない。周辺にたくさんの水田や畑が存在することが生息のための必須条件になっている。そこに水鳥たちの餌があるからだ。冬場に内陸へ行くと、白鳥や雁たちがそうした水田や畑に群れでやって来ている姿を見かける。稲作の長い歴史の中でその環境に適した鳥たちが生きて来た。いつも行く裏山の旧道沿いも何種類もの自然林が残されている。そうした環境だから様々の小鳥たちがやって来る。そこにいると今日のような清々しい風が吹けば尚のこと、小鳥たちのさえずりに癒される。渡りの鳥たちにとって、到着地にたとえ環境変化がなくとも、渡りの途中の中継地に環境変化があれば、それだけで、渡りそのものが大きく影響を受けてしまう。TPPは農業を消滅させることはないかも知れないが、確実に田園地帯の変化をもたらすだろう。経済効率を優先した農業の在り方は農業の大規模化に軸足を変えざるを得なくする。広い平野部のあるところでしか農産物は作られなくなるだろう。田園に変化が生じれば、当然生態系は影響を受けざるを得なくなる。自然が豊かな東北が真っ先に影響を受けることは間違いないだろう。現政権は「豊かさ」の再考を打ち出しているが、実際の政策を見ていると、一番その意味を理解していないのが当事者であるように思えて来る。
裏山にたくさん見られるニセアカシアの花
今も咲く朴の花
職場の近所の空き家に咲いていた菅の花