釜石の日々

岩手県釜石市に移り住んで16年8ヶ月が過ぎ、三陸沿岸部の自然の豊かさに感動する毎日。

腸内細菌と進化

2017-07-22 19:15:29 | 科学
人は機能の異なるいくつもの種類の細胞からなる多細胞生物である。その人の腸には単細胞生物である腸内細菌がいる。腸内細菌の数は人の細胞の数よりずっと多い。人の細胞の数は60兆個と言われ、腸内細菌は100兆個と言われる。腸内細菌の大半は空気を嫌う、嫌気性菌である。ただよく知られる大腸菌は空気中でも生きられる。腸内細菌の大きさは直径で、人の細胞の10分の1から50分の1と小さい。生まれたての赤ちゃんには腸内細菌がいないが、生まれた後に、口から飲み物や食べ物を介して、増えて行く。消化管は人の体の中を貫通する唯一の空洞だ。言ってみれば、体の中に外界が入り込んでいる。従って、その外界が異なると、腸の中の細菌も異なって来る。3年前の米国テキサス大学の大規模な腸内細菌の研究では、腸内細菌の種類は野生のゴリラやボノボ、チンパンジーなどの類人猿の平均が85種類なのに対して、ベネゼラの熱帯雨林に住む人では70種類、マラウィの田舎に住む人では60種類、米国人では55種類と言う結果になった。ちなみに別の研究では日本人が75種類に対して、カナダ人では66種類であった。これらの結果は現在の食の環境とともに、生物の進化にも腸内細菌が関連していることを示している。植物性の食物が多いほど、腸内細菌の種類が多くなっている。一方、動物性脂肪が多いほど種類は少なくなる。2年前には、科学誌Natureに、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の研究者たちが魚類と甲殻類を餌とするヒゲクジラ類の腸内微生物叢が陸生草食動物の腸内微生物叢に類似しているという報告を発表した。ヒゲクジラ類は、ウシやカバと近縁の陸生草食動物の祖先から進化したと言われる海生肉食動物である。多くの生物には腸内細菌が共生しており、外界から取り込んだ食物を腸内細菌が体内に吸収しやすい形に変えてくれている。世界中に分布する海中の海綿に、人と腸の関係を原始的な形で見ることが出来る。最も古い多細胞生物の一つである海綿は、表面に数多くの孔を持ち、ここから水と食物を取り込んでいる。体内を通り抜ける水の中から有機物微粒子や微生物を捕らえて、それを食べている。海綿にも大量の細菌が共生していて、全体積の 40%にもなる海綿もある。腸内細菌は消化・吸収を助けるだけでなく、免疫にも大いに関係しており、人の健康を維持するためにはとても重要な存在だ。地球上に生命が誕生した頃に存在した単細胞生物がその後の多くの生物に共生することで、生物は進化して来た。
甲子川の河川敷に咲いた合歓の木の花