昔話で知られる『桃太郎』。
桃から生まれた『桃太郎』は、ある日、
「鬼ヶ島へ行って、悪い鬼を退治します。」と言って、
犬・猿・雉をお供につけ鬼退治へ出かけていく。
そして、鬼を成敗した『桃太郎』は宝物をかかえて帰郷。
おじいさんとおばあさんと3人で幸せに暮らしましたとさ。。。
これが、おおまかな昔話『桃太郎』のストーリー。
悪いやつを懲らしめるヒーロー的なストーリーの昔話の『桃太郎』に対し、
それを根底から覆すような、
もうひとつの『桃太郎』のストーリーがあったとは。。。
先日、某FMラジオで、そのストーリーが朗読されていた。
それは、文豪・芥川龍之介が書いた『桃太郎』。
大正13年6月に書かれたもので、
週刊誌「サンデー毎日夏期特別号」(大正13年7月)にて発表されたもの。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/100_15253.html
↑に全文が記載されているけど、昔話の『桃太郎』が子供向けの作品に対し、
芥川版の『桃太郎』は、完全な大人向け。
芥川版の『桃太郎』では、昔話の『桃太郎』と違って、
鬼より桃太郎が極悪非道な人物として描かれている。
平和に暮らしている鬼ヶ島に桃太郎がいきなり侵略し、
宝物を略奪して帰るというなんとも言えない物語。
物語は6つの章にわけて綴られている。
要約すると、こんなストーリー。
お爺さんお婆さんのように山や川で地道に働くのが嫌だった桃太郎は、
鬼ヶ島の征伐を思いつく。
桃太郎のわんぱくぶりに愛想を尽かしていた老夫婦は、
桃太郎を追い出したさに、鬼退治の支度をする。
桃太郎は、「一つください。お伴しましょう」という、
犬・猿・雉を家来にするが、きび団子はいずれにも半分しか与えない。
それに不服を唱える三者に対して、
「よしよし、では伴をするな。その代わり鬼ヶ島を征伐しても、
宝物は1つも分けてやらないぞ」と言って押さえ込む桃太郎。
鬼ヶ島は、椰子がそびえ、極楽鳥がさえずる、美しい天然の楽土である。
鬼たちは、毎日のように宴会を開き、平和を愛し、生活を楽しみ、
すこぶる安穏に暮らしていた。
桃太郎は、この罪のない鬼たちに建国以来の恐ろしさを与えた。
逃げ惑う鬼たちに容赦なく襲いかかる犬・猿・雉。
「一匹残らず殺してしまえ!」と号令し続ける桃太郎。
あらゆる罪悪が行われた後、鬼の酋長は、
命をとりとめた数人の鬼とともに降参。
「貴様たちの命は助けてやる代わりに、鬼ヶ島の宝物はすべて献上しろ!」
「そのほかに貴様の子供を人質としてさし出すのだぞ!」
と言い渡す桃太郎に、鬼の酋長は恐る恐る桃太郎へ質問した。
「わたくしどもはあなた様に何か無礼なことをしたために、
征伐を受けたのだと思います。
しかし、わたくしどもはあなた様にどういう無礼をしたのか、
思い当たることがありません。
ついては、その無礼の次第をお話しくださるわけには参りませんか?」
桃太郎は悠然と頷き、こう言った。
「日本一の桃太郎は、犬・猿・雉の3匹の忠義者を召し抱えた故、
鬼ヶ島へ征伐に来たのだ。」
「では、その犬・猿・雉をお召し抱えなさったのは、
どういうわけでございますか?」
「それはもとより、鬼ヶ島を征伐したいと志した故、
きび団子を与えて召し抱えたのだ。
どうだ?
これでもまだわからないといえば、貴様たちも皆殺しにしてしまうぞ。」
人質の鬼の子供に宝物の車を引かせて故郷に凱旋した桃太郎だが、
その後の人生は幸福ではなかった。
成長した鬼の子供は雉を殺して鬼ヶ島に逃げ帰り、
生き残りの鬼は桃太郎への復讐を試み、猿も殺される。
鬼ヶ島では、鬼の若者たちが島の独立を計画して、
椰子の実に爆弾を仕込んでいた。
非常によくできた物語である。
この物語、私利私欲にまみれた現代社会にも通じるものがあると感じるのは、
私だけだろうか?