人形と動物の文学論

人形表象による内面表現を切り口に、新しい文学論の構築を目指す。研究と日常、わんことの生活、そしてブックレビュー。

映画感想:ダンサー・イン・ザ・ダーク

2014-04-13 20:36:36 | その他レヴュー
これも、教え子が見ろと言って貸してくれたDVD。
見たのが随分前になるんですが、いちおう感想書いておきます。

主人公はチェコからきたセルマ。
遺伝的な病気のために失明することが分かっており、彼女の息子もまた同じ運命にあるため、息子を手術させるためのお金を貯めています。貧しいけれどもミュージカルが大好き。
何かと手助けしてくれる年上の友人のキャシー、ひそかに心を寄せるジェフ、親切な隣人のビル夫妻に囲まれて、セルマは何とか明るく日々を送っていました。
ある日隣人のビルがもうお金がないこと、家が差し押さえ寸前であるという秘密を打ち明けた代わりに、セルマは息子の手術のためにお金を貯めていることを打ち明けます。
やがてセルマの病気は進み、工場もクビになります。貯めたぶんのお金だけで、何とか手術してもらおう…ところが、お金はビルに盗まれてしまいます。取り戻そうと揉み合いになるうちに、誤って発砲し、ビルを殺してしまったセルマ。
それでも裁判でも二人の間の秘密を明らかにせず、死刑を言い渡されてしまいます。
友人たちが何とか彼女を救おうと、彼女が息子の手術費用を貯めていたことを突き止め、その費用で新しい弁護士を雇おうとしますが…彼女はあくまでも息子の手術費用と、受け入れません。
死刑への恐怖や看守との心の交流が描かれながら、セルマは絞首刑になります。

主人公のセルマを演じるビョークの演技と、隣人夫婦のダメっぷりがともかく素晴らしい。

途中、主人公の夢想が描かれるところで、ミュージカルのような場面が何度もあり、ミュージカルを見慣れない私は戸惑いました。
しかも、手ブレカメラに酔ってしまって気持ち悪くなり、何が何やら…
(手ブレカメラのせいだと分からなかったんだけど、教え子に教えてもらった。いやもう、ほんと気持ち悪くなったんだから。私、電車のなかでも絶対本読むと酔っちゃうの、あんまり三半規管強くないのね)。

主人公がずっと練習してるミュージカルが、『サウンドオブミュージック』だというのも、見終わってから気づきました。

『サウンドオブミュージック』は、オーストリアからスイスに逃げ、米国に渡った一家の話ですね。
あの一家は、アメリカで大成功します。
一方でセルマは、アメリカで散々な目にあって絞首刑になるわけですが…ともかく息子の手術だけは成功しました。

最初、セルマが演じていたのは主人公のマリアなのですが、
病気が進み、主人公を演じることが無理だと感じたセルマは、主人公をおりることを監督に告げます。
で、代わりに与えられたのが主人公一家を逃がす尼僧の役。

でもセルマは、映画のなかで最後まで主人公なんですよね。
尼僧の役割なのが、監獄で親しくなった看守の女性。
看守の女性は、『サウンドオブミュージック』とは異なり、主人公を逃がすことはしませんが、最期まで付き添い、処刑台までのみちのりを一緒に歩きます。

監獄から108歩。
ミュージカルの練習をする場面で、ほぼ完全に見えなくなったセルマは、舞台の決められた場所までどうやって出て行けばいいのか分かりません。
「何歩?」と尋ねる彼女に、友人のキャシーが歩数を数えて教えてくれます。
自分の足で歩くこと、道を辿ることが、重要な意味を持つようです。


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