人形と動物の文学論

人形表象による内面表現を切り口に、新しい文学論の構築を目指す。研究と日常、わんことの生活、そしてブックレビュー。

大学院修了後も研究を続けるためのあれこれ。

2015-08-23 12:06:14 | 教育・研究・日本語表現と方法
こんにちは。
私は2009年の3月に大学院を修了したので、出てからずいぶん経ちました。
その間、1年くらい高等教育機関に所属したこともあったのですが、ほとんどの時間を、所属なく、実家で過ごしました。
所属がない状態で、なおかつ出身大学や大学院から離れた場所ではとても不便なのですが、何とか研究を続けています。
今は大学院修了後に常勤のポストどころか非常勤講師もない、という人も少なくないと思いますので、所属がなくても利用できるリソースをいくつか紹介しようと思います。
私はもともと『源氏物語』の研究をしておりましたので、日本文学や古典に関係するものに偏っています。

1、就活、研究助成金などに関して
いきなりですが…、ダメもとでも就活は続けなくてはいけません。
Jrec-in
言わずと知れた研究者求職サイト。
自分で検索をかけることもできますし、専門分野など、必要事項を登録しておくと関係する公募が出たときにメールが届きます。
リサーチマップ
自分の研究者情報を公開することができます。ちなみに私のページはこんな感じです。
所属がない状態で登録する場合、メールフォームに必要事項(代表的な研究業績の書誌情報など)を記入して送り、研究者として確認がとれればアカウントが貰えます。
いまはJrec-inとも連動しているので、すでにJ-recに登録済みの方は、それでいけるかもしれません。
これでお仕事の依頼が来たことは、まだ一度もないのですが…。
コラボリー
研究助成金情報のサイトです。
必要事項を記入して登録すれば、関連する研究助成金の公募があったときに、メールが届きます。
ただし、所属がない状態で応募できる研究助成金はほとんどありません。サントリーの若手研究者支援くらいかなあ…?
院生のうちに、応募できるものには積極的に応募するとよいと思います。

2、先行研究の検索、文献利用などに関して
国立国会図書館
身分証明書のコピーで登録することができます。
登録してIDを貰うと、文献複写依頼ができます。最近はコンビニでも代金が振り込めるようになり、便利になりました。
現在私はほとんどこれで必要な先行研究を集めています。ただし、叢書や単行本扱いの論文集などの場合、個々の論文の執筆者に著作権があるとみなされるため、コピーしてもらえません…
②国文学研究資料館の国文学論文目録データベース
キーワードを入れると検索がかけられます。利用には登録が必要ですが、登録するために身分などは必要なかったはず。
その他、国文学研究資料館では、さまざまなデータベース(→一覧)が利用できますが、「登録制」とあるのは、登録するのに所属のない人は誰かの推薦が必要だったと思います。
所属があったときは、大学でCiniiを利用することが多かったのですが…、Cinii、個人のパソコンからでは利用できる機能が限られてますよね。→事実誤認しておりました。ふつうに利用できます。
③利用可能な公共図書館のリソースを把握しておく
・私が住んでいる場所の場合、たまたま近くの私立大学の図書館が、市民は利用できるので、利用しています。
・私が利用している市立図書館でも、県内の公立図書館の本を借りることができます。県立図書館が不便な場所にあってなかなか通えないため、ありがたいサービスです。県立図書館のサイトで県内の公立図書館で所蔵している本を横断検索できるので、そこで検索をかけてあるということが分かれば、市立図書館で依頼しています。
お住まいの地方自治体、図書館によって違うと思いますので、最寄りの図書館でどのようなサービスが利用できるか、確認しておくとよいと思います。
日本の古本屋
それでもどうしても入手できない文献や、一冊まるまる必要だと思った場合は、購入するしかありません。
私は日本の古本屋をよく利用しています。
⑤専門の出版社のサイトなどをチェックしておく
その分野での専門の出版社がいくつかあると思いますので、新刊情報は出版社のサイトをチェックしておくとよいと思います。
学会の名簿で、各シーズン、あるいは学会前に新刊情報の冊子が届くこともあります。たいていは、欲しいのたくさんあるけど買えないよぉ…(泣)、と思うんですけど。
ツイッターでフォローしておくと、新刊情報がまわってきます。
*とはいえ、やっぱりいきなり検索をかけるよりも、叢書や論文集などで研究史にあたりをつけてからでないと、なかなかうまくいきません。必要な叢書類は購入したほうがいいのかなあ…(泣)。

3、その他
古典ライブラリーの日本文学web図書館
登録して年会費を払えば、国歌大観や、主要な辞書類の電子版を利用することができます。登録するのに特に身分などは必要ありません。
私は「和歌ライブラリー」と「辞典ライブラリー」に登録し、併せて年28512円払っています。
高いようにも感じますが、国歌大観のCDなど、30万くらいしますから、それを考えればかなりお得です。ないとちょっと私の専門では厳しいです。

まあ、出身大学院のある土地を離れないのが基本だとは思います。私も父が病気にな(って亡くな)らなければ帰らなかったと思います。でも、研究者は長く学生でいて、定職がない状態が続くので、何があるか分からない、ということは考えておいたほうがいいかもしれません。例えば家族の介護が必要になったときなど、呼び戻されたり、融通の利く人として扱われる可能性が高いと思います。

いま、ちょっと真面目に家計簿をつけているので、1年間つければ研究のためにいくらくらいかかっているのか把握できると思います。それも分かれば公開しますね。

―――おまけ―――
のすけちゃん 空ちゃん さちちゃん 

夢ちゃん

調べ物のやり方について。

2014-03-25 20:47:24 | 教育・研究・日本語表現と方法
数日前にツイッターのTLで回ってきた記事に、次のようなものがあります。

STAP細胞をめぐる一連の大騒動」(『西日本新聞』2014年3月23日)。

この記事、ほんとひどくて、
本来、研究は人、社会に役立つべきものと思うが、ネット上の論文には個人的な知的遊戯に浸っている物が少なからず散見される
という部分に関して、真面目に反論されていた方も多かったのですが…
どうもそれ以前の問題が多すぎる。
これからレポートや卒論を書く学生さんが注意すべき点も多いと思いますので、ここで取り上げることにします。

まず、文章の構成について。
第一段落は、小保方さんをめぐる一連の騒動の話なのですが、第二段落で論文の話になります。
大学教員などの公募サイトをのぞくと、論文提出を求めるケースが大半だ」の部分、ここまでならまだ何とか、大学就職のために業績を焦った結果博論のコピペやSTAP論文の不備or捏造が起こったのかと推測した、
という文脈かなと解釈できます。
ただし、そういう説明ないけどね。
でも、続く「脳みそが軽いわが身には」云々のくだりは、どう読んでも第一段落からの脈絡が見出だせません。
STAP細胞はどこへ行った…!

これだけ短い文章のなかで、話題が二転三転するというのは、ふつうありえません。
(1)論点を絞ること
(2)前の部分を受けて続く部分を展開すること
(3)結論は明確に、
       序論(立てられた問い)と対応するように
(4)タイトルは内容を的確に表すように
気をつけるようにしましょう。

そして第二段落の、
ネット上に公開された大学などの論文にある「解釈的文脈」「モダリティ辞」「ディアスポラ」「語用論」って何?
という部分。
彼がなぜ論文なんぞ閲覧したのかは分かりません。
ただ、ひとつはっきり言えるのは、いきなりネットで論文検索すんなよ、ということ。
ネット上で閲覧できる論文って、紀要など小さな雑誌が多い。
査読なし、評価もよくわからないものが多い。
もちろん中には重要なものがないわけではないですが、それは自分で読んで判断しないと分からない。
内容はおろか用語がわからないという人がいきなり読むようなものじゃないのですよ。

何かで記事を書く必要があって、その下調べのためだった、と仮定してみましょう。
その場合は、
(1)辞書類などレファレンス
(図書館に行けば必ずレファレンスコーナーというのがあります。分からなければ司書さんに聞いてみましょう)

(2)その分野のなかでガイド的な叢書や雑誌

(3)論文
の順で調べてゆくのがふつうです。

論文を探すときも、(2)で言及されている論文→芋づる式に誰かが注にあげている論文を拾ってゆくのが効率的ですが、
検索するのもいきなりネットで検索するのではなく、図書館などのデータベースを利用した方がいい。

たいてい、どこの大学図書館でも論文検索のデータベースを入れてると思います。
Ciniiとか、MagazinePlusとか。
大学図書館でないと利用できないのがつらいですが…
→すみません、Ciniiはネット環境があればどこでも利用できます。
私は専門が日本文学なので、国文学研資料館の論文目録データベースをよく利用しますね。
ここは登録すれば無料で利用できます。

調べ物の仕方、図書館の使い方については、これがおすすめ。
井上真琴『図書館に訊け!』(ちくま新書、2004年)
面白いです。

ちなみに、「解釈的文脈」は特に何かの用語というわけではないかな。
解釈も文脈もふつうにつかう言葉ですので、ちゃんと推測してね。

「モダリティ辞」と「語用論」は言語学などで用いられる用語。
モダリティ:話し手がある事柄についてもつ判断の内容。事柄が真実である可能性の程度や、命令・義務・許可など。日本語では「きっと」「たぶん」などの副詞、「ようだ」「らしい」などの助動詞のほか、「はずだ」「かもしれない」などさまざまの語句で表す。法性。(『広辞苑』第6版、2008年)
語用論:記号論の一分野。言語を含む記号の通信者が、記号をどう使用するか、また記号の受信者が、どう理解するかといった、通信者、受信者間の言語記号の用法についての理論。言語実用論。(『精選版 日本国語大辞典』2006年)

「ディアスポラ」はユダヤの民や、移民などに関して使われる用語。故郷が失われた民、みたいな文脈。思想系で使われることが多いかな?
ディアスポラ:「離散」の意で、主としてヘレニズム時代以後、ユダヤ人がパレスチナ以外の世界に広く移住したことをさす。このディアスポラのユダヤ人を有力な母体として原始キリスト教が伝播した。(『山川 世界史小辞典』2004年)
(↑引用は手元にある電子辞書に入っているものからなので、適当ですが。もっと適切なものがあると思う)

最後にもう一度いいます、いきなりネットで論文検索とかしないでください
それじゃ分からなくて当然です。
そんな調べ方じゃ、私だって分からない!




小論文の書き方。

2013-04-07 10:28:01 | 教育・研究・日本語表現と方法
 以前にちらりと、(書評における)読書感想文・作文の弊害、ということを書いたと思います。

 読書感想文・作文教育の弊害は色んなところにあって、大学の先生などは苦労されてると思います。理系分野であれば、数式使ったり実験したりするから完全に読書感想文や作文と違うことが分かるみたいなんですが、人文系の分野だと、なかなかそれが理解できないみたい。読書感想文的なものになるのを避けるために、敢えて好きじゃない対象を研究しろと指導する先生もいるくらいですが、それも楽しくないですよね~。

 で、今日の本題は小論文。小論文を書く上でも、作文教育の弊害があると思ってます。私は4~5年くらい小論文の添削指導をしたことがあって…。

 添削してると、本当に思いついたことを思いついたままに並べてるだけの解答が多い。日本語がおかしい、とかは置くにしても、私が一番問題だと思ったのは、聞かれていることに対して答えていないこと。聞かれていることに対して答えなければならない、ということがどういうわけか受験生には分からないらしいのです。
 課題文がある場合は、課題文を(問われているポイントを中心に)要約することも重要なのですが、それが出来てない解答も多い。それどころか、完全に無視してるような解答も。何のために課題文があるのか、分かってないんですね。

 読書感想文や作文では、自分の体験を交えて思ったことなどを(優等生的に)並べ立てる風な書き方がもてはやされるので、たぶん、学校の先生が読んで喜びそうなことを書けばいいと思ってるんでしょう。大学受験の小論文を読むのは大学の先生なのに。

 経験上私は、小論文には正解があると思っています。問われていることに対して、課題文を要約し、指定された字数内で論理を展開すれば、自然と解答は2つか3つのパターンにおさまってくる。
 Aがいいか、Bがいいか、選びなさいという形式の問題もありますが、これはAかBかどちらかが正解である、ということではありません。AにもBにもメリットとデメリットがあるので、
 Aがいいと思う、なぜならこういうメリットがあるからだ、
 確かにAにはこういうデメリットがあるが、これこれこういう対策をとってデメリットを補えばいい、
という風に展開してゆけば、AでもBでも結局同じくらいなところに落ち着く、ということ。

 もう一つ経験上感じたのが、小論文の課題文には敢えて論理的な矛盾がある文章が選ばれている場合があって、その場合は、そこ(矛盾している点)が、一番大事なポイントであるということ。課題文の要点を整理して、矛盾している点に気づくことがまず大事ですが、気づいても、変にあげつらったりしないこと。そこがポイントだということを、それとなく示すようにするといい。

 以上、要点をまとめます。

***小論文の書き方***
1、聞かれていることに対して答えること。
2、課題文がある場合は要約すること。

***小論文の特徴***
1、正解があるということ。
2、課題文に矛盾がある場合、そこがポイントになることが多いということ。