人形と動物の文学論

人形表象による内面表現を切り口に、新しい文学論の構築を目指す。研究と日常、わんことの生活、そしてブックレビュー。

9月16日四谷シモン講演会「人形人生」(@武蔵大学)メモ

2017-09-24 00:23:31 | 人形論(研究の話)
こんばんは。

先週行ってきた、四谷シモンさんの講演会のメモを公開します。

すごい良かったです。
四谷シモンさん、ぽつりぽつりと話される感じが、とても印象的でした。

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武蔵大学 第11回大学図書館セミナー 「人形人生」
講師:四谷シモン氏(人形作家)
聞き手:香川檀(武蔵大学人文学部教授)
日時:平成29年9月16日(土) 16:00~17:30
場所:武蔵大学8号館7階 8702教室

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□四谷シモン氏講演会、まで。
はじめに香川檀先生のほうから、四谷シモンさんをお呼びすることになった経緯を説明。
以前公開セミナーをするときにポスターに四谷シモンさんのお人形の写真を使用し、またそれを本(『人形の文化史―ヨーロッパの諸相から』水声社、2016年)にするときにも表紙にそのお人形の写真を使用したこと。その許可をお願いするために連絡したことがきっかけとなって、つながりができたことなど。

□人形を作り始めたきっかけ。
そしていよいよ四谷シモンさんのお話です。「人形人生」ということで、初めて人形を作った子どもの頃の話から。
小4の時に紙粘土でお面を作ったのが、人形を作り始めたきっかけ。小5~6年生の頃には、布でぬいぐるみの人形を作っていた。
14歳の時に、就職とも進学とも決まらず、じゃあどうしようか、となったときに、「人形で生きていきたい」と思った。
なぜ人形なのかは分からない、また人形でどうやって生きていくのか見当も付かなかったが。

□「人形って何?」
いい人形を作りたい。でもいい人形って何?、と思った。
人形作家のところに習いに行ったこともあるが、でも月謝が続かなかった。

□ベルメールとの出会い。
そしてベルメールの人形(の写真)と出会い、「これだ」と思います。
ベルメールの人形には、人形しかない。人形だけ。
そして、「動く」ということに衝撃を受けた。日本の江戸時代の人形でも、みんな動く。
その後何を作ってもベルメールの真似になってしまう、ベルメールの真似ではダメではないか、と葛藤します。

□女形時代、初個展。
その後「状況劇場」の女形などをやりますが、役者を辞めた時、ベルメールを真似するしかない、他にはない、と思います。
そして初個展。初個展では12体の女性の人形を展示します。
初期の人形は基本直立で、ケースに入れた少年人形がありました。
「何となく高級感が出る」程度の意図だった、とシモンさんは説明しますが、香川檀先生が、ハンスベルメールの人形の「動く」ところに衝撃を受けたとおっしゃっていたが、ケースに入れた人形は、見る人は触って動かすことができない、と指摘すると、「ああほんとうだ、どういうことだろう…ちょっと考えてみます」とシモンさん。

□これまで制作されたいろいろなお人形の説明。
・「機械仕掛けの少年」
…澁澤の『夢の宇宙史』に載っていた自動人形に感銘を受け、何としてでも動く人形を作りたいと思って作ったもの。
動かすのはぜんまい仕掛けでないといけない、電気は嫌。電気だと外部とつながっている。
動く人形はこれ一体だけ。あとは実際には動かなくてもいい、機械が中にあって、見た人の想像の中で動けばいい。
人形を作るときは何も考えずに手を動かしているだけ。
(顔に)何となくさみしげな感じが出たらそれでいい。愁いとか。静かな人形しか作れない。
何もないものを作りたい。
・「解剖学の天使」
…言葉からインスピレーション。レオノール・フィニの作品に、「解剖学の天使」というタイトルのものがある。
ぽかーんとした顔がいいと思って、これと同じ顔を作りたいと思ったけれど、同じ顔は作れない。顔は心で作るもの。
・「天使―澁澤龍彦に捧ぐ」「キリエ・エレイソン」
…小4で勉強しなくなってまっさらな状態だったものに、澁澤の影響を受けた。だから亡くなったときはしばらく何も作れないくらいの状態になって、そんなときに中沢新一さんから『ギリシャ正教』を読めと勧められる。そして作ったもの。
ギリシャ正教のイコンのイメージ。「キリエ・エレイソン」はギリシャ語の「主よ、我に憐れみを」。
・「目前の愛」
…たった今のこと、目前に目に見えるものへの愛情が、大事なもの。
・《ナルシシズム》《ピグマリオニスム・ナルシシズム》
…人形教室で作るものを見ていると、それぞれ当人に何となく似ている。それを見て人というのはナルシシズムがある、と思って制作したもの。こういう仕事は体力が必要。何年かかったか分からない。

□これからのこと。
(やめようと思ったことはあるか、何が人形制作のモチベーションなのかとの質問に対して)
やめようと思ったことは一度もない。(モチベーションは)人形とは何か、ということには答えがないこと。
何か作りたい。人形とは何か、と、ずっと思っている。

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会場で本を売っていたのですが、講演会終了後にその本にサイン下さる時間がありまして、私もいただきました。

私が買ったのは、『四谷シモン ベルメールへの旅』(菅原多喜夫、愛育出版、2017年)という、2010年に四谷シモンの展覧会がベルメールの故郷であるカトヴィツェで開催された時の旅の様子をつづったエッセイ。ピンク色のきれいな本です。
講演会にはこの本の著者で旅に同行された菅原多喜夫さんもいらしており、この時の旅のことにも触れられていました。
他には、中公文庫で出た『人形人生』の新しいバージョンとか、いくつかの人形の写真集が売られておりました。
四谷シモンさんというと、わりと初期の頃のイメージが強かったのですが、通してみると作風も変化していることが分かります。
そして、今もずっと作り続けたい、「人形とは何か」とずっと思っている、というのが印象的でした。

8月19日『スウィングしなけりゃ意味がない』を聴く試み(@scool)メモ

2017-09-18 21:02:21 | 佐藤亜紀関連
すごく楽しかったんですが…、一月くらいたってしまいました。
8月19日に三鷹のscoolであった、佐藤亜紀さん、大谷能生さんによるイベント、「『スウィングしなけりゃ意味がない』を聴く試み」のメモをまとめてあげておきます。
『スウィングしなけりゃ意味がない』に登場する音楽をかけながら、佐藤亜紀さんと大谷能生さんが縦横無尽に語り合うイベント。
わんドリンク制だったので缶チューハイ頼んだ西原は、ちょっといい気分で(お酒に弱くなったかしらん?)たいへん楽しくうかがいました。

KADOKAWA文芸編集部さんが逐一詳細に実況しておりまして、まとめもありますので、当日のだいたいの様子は知ることができます。

少し時間が経って記憶があいまいになった部分もありますし、西原は印象に残った部分のみかいつまんで紹介することに致します。

・まずはヒトラーユーゲントの歌からスタート。
「かっこ悪い」ヒトラーユーゲントの曲と対照的な、「かっこいい」ものとしての「ジャズ」に彼らははまった。

・もともと「ジャズ」は汚い言葉だった。それがswingmusicとして、中産階級の健康な音楽に作りかえられてくる。

・Pick Yourself Up 1936
この辺からアメリカ映画(の紹介、公開、流通)はドイツではしぼられてくる。
瀬川昌久さん(エディと生まれた年いっしょ)、1940年の1年間、日本のジャズのレベルが一番上がった時代。

・Caravan
ナチが嫌いなものはアスファルトとジャングルだが、それは限りなくつくられたもの。フィクションの創造。

・Tiger Rag
ドイツではだいぶ映像が絞られてきていて、音源だけが入ってきている状態なので、どのように踊ればよいか分からない。
当時のドイツの若者たちはフォックストロットしか知らない。
それをかっこよく踊るためにどうしていたか。→高速でやる。
ゲシュタポの調書によると…踊りながらヘッドバン。膝歩き。後ろにそる。「邪悪なクラブ百合」
            「どいつもこいつも上級学校の生徒だから」英語

・Surabaya Johnny
古き良き映画のラブシーンをやりたかった。なぜかいきなり暖炉にパンする、みたいな。

・佐藤さんがいつ頃からジャズを聴いていたのか、との質問。
小4から高2くらいまでの頃。NHKFMのジャズ、ラジカセで録音して一週間聴いていた。
でだんだん調声の崩壊というのが分からないといけないということが分かって、ワグナーとか聴かないといけないということになって、ワグナー全部聴くのたいへん。
音楽の身体性(が分からない?という文脈だったのか、に惹かれる?という文脈だったのか)。

・Strange Fruit
ほんとに重い曲。左翼カフェで作った曲。ビリー・ホリディはほんとに何も考えていない人で、何も考えずに歌った(それであの表現になる!)。

・Who's Sorry Now?
ナチの録音技術はすごかった。ドイツは磁気テープがあって、フルトヴェングラーの海賊版がソビエトで出たのは、ドイツのテープをソビエトが押さえたから。

・オペラの話になる。
オペラ音量問題…一番大きな音の部分と、一番小さな音の部分の差が激しすぎるから、常に音量を調節しながら聴かないといけない。
変な演出…『嵐』で、ブルジョワっぽい人たちが株価見ながら大パニック。→最後までそれでいくとおそろしい。
ワーグナーを見る人はあまりきれいな格好をしてこない。パンツスーツが多い。

・Sing,Sing,Sing
クレズマ的サウンド。ジャズは半分くらい(バルカン的なものや)東欧的な音楽。→何で自分が好きなのか分かった、と佐藤さん。

ブルーノートレーベル…ドイツ系の人が思っている幻想のアメリカ黒人音楽。

・Blitzkrieg Baby
「ノベルティソング」と呼ばれるもの。ちょっとあまりちゃんと評価されない。

…というような感じでございました。

**********〈おまけ〉***********
実家で一時預かり中の保護犬ちゃん、里親募集中です。 →2020年1月2日に急逝しました。
 
保護主さんのブログから、お申込できます。
子猫ちゃん
も保護したそうで、そちらも保護主さんのブログで里親募集しております。→無事貰われていきました。







9月からKUNILABOの講座が始まります!

2017-09-02 17:49:30 | 研究・発表・イベント等情報
かわゆいかわゆいわんこたちともお別れし、東京に戻ってきております。
 
つまらなそうなのすけちゃんと、おねんねしてるのすけちゃん。

「『スウィングしなけりゃ意味がない』を聴く試み」に行ってきたり(忘れないうちにレポ書かなきゃ)、研究会の合宿に参加したりしてました。

 さて、私、9月から「哲学、文学、歴史といった人文学の研究者と、市民のみなさんを結ぶ学びの場」であるKUNILABOで、『源氏物語』の講座を担当することになりました。
 第1回目は9月15日(金)19:00~20:30
 毎回第三金曜日、9月~12月までの開講です。
 申し込みは初回の前日(9月14日)までです。こちらからお申込できます。


『源氏物語』第二部に登場する重要人物である女三の宮のことばから、『源氏物語』を読みかえます。
『源氏物語』はふつう、主人公光源氏が栄華に到達するまでを描く第一部、表面上の華やかさとはうらはらに個々の登場人物がさまざまに懊悩する第二部、光源氏亡き後の世界を描く第三部に分けられるんですが、女三の宮はその第二部(から第三部)に登場する重要な人物です。源氏の兄である朱雀院の第3皇女で、晩年の源氏のもとに降嫁します。
 研究史の中では、内面がないとか人形のようとか言われることが多いんですが、そんなことはないんですよね。ちゃんと心内語や内面に即した描写、会話文や和歌はある。なのになぜ内面がないと言われてきたのか。女三の宮の内面は、不当に無視されてきたのではないのか。
 そこで大事なのが、女三の宮が恋愛や生殖に対する、嫌悪や無理解を表明していること。はっきり、私は「もののあはれ」が分からない、と言っている。これは女三の宮の「幼さ」といわれることも多い要素なんですが、だけど恋愛や生殖が分からないことを「幼い」と言ってしまう態度は、結構問題なんじゃないでしょうか(分かってます?)。誰もが異性を愛するわけでもないし、そもそも恋愛をしない人もいる、そういう多様なセクシャリティを認めない態度と言えます。
 不当に無視されてきた女三の宮のことばを丁寧に読み解くことで、「もののあはれ」や恋愛の物語ではない、「もののあはれ」や恋愛の価値を相対化する、『源氏物語』の世界が見えてきます。

 どうもまだ申し込みが少ないみたいなので、ちょっと焦ってます。別に私は少ない人数で授業するのも慣れてますけど、せっかく声をかけてくださった手前、申し込みが少ないと申し訳ないです💦

 入門じゃなくて「初~中級」になっていますが、別に難しいということではなくて、概説とか一般的な話じゃなくて私の言いたいこと言いますよ、ってこと。だから逆に、最初から『源氏物語』好き!なわけではない方に来ていただきたい。
 数日前にTwitterで、「中高生がみんな恋愛好きだと思ったら間違い。アンケートで古典が面白くない理由に、「恋愛の話ばかりだから」というのがあった」という趣旨のことをつぶやいていた方がいらしたんですが、ぜひぜひそういう方にも参加していただきたいな、と思います。

『源氏物語』はカルチャースクールなどでも王道で人気のコンテンツなので、『源氏物語』を前面に押し出して概説的な話をするほうが受けるのかもしれませんが、それだと私が楽しくないし、もともと『源氏物語』に興味がある人にしか届かない。そうじゃなくて私は、もともと『源氏物語』に興味はなかったけど、でも『源氏物語』にも恋愛嫌いな登場人物っていたの?、って思ってくれる人に言葉を届けたいし、一般の人たちが思っている『源氏物語』とはちょっと違う部分を楽しんでほしいな、と思っています。

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(おまけ)実家で一時預かり中の保護犬ちゃん、まだ里親さん決まっておりません! →2020年1月2日に急逝しました。
 
右の写真の右の子は、保護犬仲間で、こちらの子も里親募集中です。

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