人形と動物の文学論

人形表象による内面表現を切り口に、新しい文学論の構築を目指す。研究と日常、わんことの生活、そしてブックレビュー。

ウサギの編みぐるみ

2020-09-01 11:43:11 | その他レヴュー
こんにちは。
実家に帰ってモフモフの塊と戯れています。

   

さて、実家帰ってくると晩御飯時にテレビがついてるんですけど、
たまたま見たTBSテレビの金曜ドラマ『MIU404』が、
ちょっと気になったのでこれまでの回の全部見てしまいました。
いわゆる刑事ものとか推理ものとかになるんだと思うんですが、
ちょっと現代的で、
ええええっ…💦って思ってイラっとしたり突っ込み入れたりしてしまって見られない、
みたいなところはない作品です。

で、ぬいぐるみとか人形の観点から気になった回があったんですよね
(ちなみに同じ野木亜紀子脚本の『逃げ恥』で、
クマのぬいぐるみの使い方が気になって考察したこともある…まだ論文にはしてないけど)。
第4回で、ウサギの編みぐるみが重要なモチーフとして登場します。

PCショップの店員で元ホステスの青池透子という女性が拳銃で撃たれて
その事件を主人公たちが追う、というのが基本的な筋で、
最終的にわかったのは以下のようなことです。
彼女はホステス時代に裏カジノにはまって多額の借金を抱えるようになり、
裏カジノ店で働いていたところを摘発され、起訴されます。
情状酌量もあって執行猶予1年の判決で、
資格を取ってようやく「普通の仕事」のPCショップの店員として就職したけれども、
そこが暴力団の「汚いお金」をきれいにして出すお店であることに気づいてしまいます。
彼女は「汚いお金を汚い私が使って何が悪い」と思ってお金を抜き出し、
それが約1億貯まったところで暴力団にばれて逃亡し、撃たれてしまいます。
薬局で応急処置をした後、
事前に目をつけていた宝石店で、二つで約1億になるルビーに換え、
自分で編んだウサギの編みぐるみの目に入れます。
その編みぐるみを持って逃げていた街の中でたまたま、
学校にも行けず、幼いうちに結婚させられてしまう女の子たちへの寄付を呼び掛ける
慈善団体「ガールズインターナショナル」のポスターを見かけ、
イギリスの本部へと、1億のルビーの入ったウサギの編みぐるみを寄付として送り、
その後空港へと向かうバスに乗りますが、その中で命が尽きます。

汚いお金をルビーに換えて寄付する、って本当に文字通りの「浄財」ですよね。
仏像であれば目を入れることが「開眼」といって、それで魂が宿るものですが、
ウサギの編みぐるみはルビーを目に入れることで完成します
(目ボタンやビーズではなくてルース状のものをぐいぐい押し込む、というのが、
ちょっとどういう(編みの)パターンなのかよく分かりませんが)。

撃たれたあと薬局店に飛び込み応急処置をしてもらったときには、
彼女は「賭けてみる。今まで勝ったことないけど」と言っていて、
最後には自分が寄付として出した荷物の便が出るまでの間逃げられればいい、と言っていますので、
ルビー入りのウサギの編みぐるみには、祈りのようなものが込められていたはずです。

さらに、彼女はそれまでひょっとしたらあまり意識してはいなかったかもしれないけれど、
ホステスとなったり、
頑張って資格とって就職した「普通の仕事」でもぎりぎりなお給料しかもらえないとか、
社会の中で女性に求められる枠組みの中で生きてきたはずです。
死を悟ったときに、「最後に一つだけ」と言って、
学校に行くこともできず、幼いうちに結婚させられてしまう世界の女の子たちの支援のために、
ルビーの入ったウサギの編みぐるみを寄付することには、
枠組みを変えるための祈りが込められていたでしょう。

しかも自分で編んだ編みぐるみなんですよね。
「ウサギ」はとても弱い生き物だけど、死ぬときには思わぬ強さを見せることがある、
というようなことが何度か言われていて、作品のなかでは彼女と重ねられる存在でもある。
だからウサギの編みぐるみは、彼女の分身として位置づけられるものです。

ちなみに、私はもうすぐ予定されている矢川澄子の発表で、
兎の表象について考察するので、
「ウサギ」であることもちょっと気になりますね。

で、彼女が編んだウサギの編みぐるみはもう一つあって、
お試しとして編んだ小さいものなんですが、
それがパソコンショップに残されていて、持ってっていいよと言われたからというんで、
主人公たちの手に渡っています(それが真相に気づく一つのきっかけになります)。
それも分身の一つ、ですよね。

そういえば第1回に登場するおもちゃ屋さんも、
「ラビットなんとか」って名前でしたし、
ひょっとしたらウサギモチーフでなんかあるかもしれません。


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