時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

グローバル化の対応に追われるEU:繊維産業のケース

2005年09月15日 | グローバル化の断面

  今年前半の世界の貿易業界で最大の注目を集めたのは、1月から実施された輸入制限措置の撤廃をめぐる動きであった。急増した繊維製品輸入に対応が遅れがちであったEUと中国の貿易交渉がやっと妥結した。EUは問題先延ばしで一息ついたが、すぐに次の対応を迫られることは目に見えている。

あっという間に増えた中国製品
  国内に繊維産業を抱えるフランスやイタリアなどの圧力を受け、EUは6月に中国から年間の輸出数量を一定枠に抑える措置を取りつけた。しかし、7月から8月にかけてセーターやスラックスなどは、早くも今年の上限枠を突破し、8千万点の中国製品が税関で山積みという状況が生まれてしまった。

「駆け込み受注」の増加
  この背景にはいくつかの理由があるが、特に衣料品の調達先を南欧や北アフリカにしていた小売業は、価格の安い中国に切り替えたが、EUの輸入規制に驚き、発注を積み増すという駆け込み受注が増加した。

EU南北の対立
  中国製品をめぐってはEU内部に利害の対立がある。北欧、オランダ、ドイツなどは保護主義的な手段を放棄して、輸入再開を要請してきた。他方、フランス、イタリア、スペインなどの繊維産業は、今年超過分の輸入を認めるならば来年の数量枠の前倒し使用に振り替えるべきだと訴えた。

難しいEUの立場
  こうしたEUの内部事情を考慮し、9月5日の新協定は玉虫色の決着となった。すなわち、今年の超過分の半分は無条件で輸入を認め、残った半分は2006年の枠を前倒しで使うという妥協である。これは、問題を先送りしただけで本質的解決には程遠い。中国製品が再び増加する懸念は強い。 セーフガードが使えるのは08年末まである。残り3年の間にEU繊維産業が有効な対応をなしうるか、大変疑問である。

EU委員会の不手際
  今回の繊維貿易問題で、EU委員会は6月11日の協定署名と7月12日の規制の発表との間の1ヶ月の処理を誤ったことで批判を受けた。この間に駆け込み輸入が急増したからである。各国政府もこれだけのライセンスを供与したことで責任がある。最終責任を誰が負うか、あいまいさが残った。結果として、EUは中国に頼み込むという権威を失墜する方策をとらざるをえなかった。

生き残りにかける各国
  他方、アメリカでは、輸入規制などの手段では限界があるとして、中国元の大幅切り上げを求める動きがさらに強まっている。日本のように中国、東南アジア諸国へ生産を移転してしまった国もあるが、中国元がさらに切り上げられるとなると、さらに対応が必要となる。

  グローバル化の荒波の中で、カンボディア、インドネシア、タイ、ヴェトナムなどのアジアの生産国々も、生存をかけて必死の努力をしている。カンボディアのように、中国と生産費だけで競争することを避け、労働基準を厳しくして中国のような苦汗産業ではないとの新たな評判を生み出そうとしている国もある。タイのように、「タイ・ブランド」の確立に躍起となっている国もある。押し寄せるグローバル化の荒波の中で生存をかける各国の対応は、いよいよ「待ったなし」の段階へ入った。

 

Reference

"A stich in time" The Economist September 10th 2005

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