時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

児童労働はなぜなくならないのか

2005年12月05日 | グローバル化の断面

ナイキも90年代、児童労働に依存していた http://cbae.nmsu.edu/~dboje/nike/pakistan.html

  同じ地球上に生まれながら貧困のどん底で暮らし、ほとんど人間らしい生活を送ることなく、働いている子供たちがいる。児童労働の悲劇は、前世紀で終わったわけではなく、現在でも絶えることがない。国連統計によると、世界には今日でも2億4600万人という想像を絶する数の子供たちが、学校へも行くこともできず、働いている。実に世界の子供の6人に1人である。

厳しい児童労働の世界
  BBCのオリジナル版は「盗まれた子供時代」Stolen Childhood というやや分かりにくいタイトルがつけられた番組だが、映像が伝える子供たちの実態は痛々しい。インドでは粉塵と騒音で辺りが良く見えないほどの砕石場で働く子供たちや、工場の機織機の前で一日13時間、休日なしに働く子供には、背骨や呼吸器の疾患が多い。厳しい労働に耐えられず逃げようとする子供を3-4時間鎖でつなぐということも行われている。

  インドネシアやジャカルタでは、ごみの山に子供たちが集まり、塵芥の中から少しでも金目になるものを争って探している。不衛生で危険の多い環境で、病気やけがをする子供がいる。1980年代末に、マニラ郊外のスモーキー・マウンテンと呼ばれた地域に行ったことがあるが、筆舌しがたいすさまじい状況であった。

  メキシコ・シティの児童売春婦の姿が映し出される。そうした子供たちの多くは病気や麻薬づけになっている。シンナーや麻薬で苦痛を癒そうとした結果でもある。一般社会から隔絶され、人身売買、麻薬密売などの闇組織に束縛されている。

  メキシコ西部では、家族とたばこ畑に出稼ぎに行くウイチョル族の子供たちの有様が伝えられる。彼らは、英語、スペイン語も読めないため、雇い主のいいなりになり、危険な農薬とニコチン汚染の中で最低生活を送っている。一日中大きなたばこの葉を摘み、束にする。1束6円程度の仕事である。かれらを雇う地元の生産者の多くは、たばこ企業に借金を負っていることが多く、児童労働に頼って切り抜けようとしている。ひとにぎりの多国籍のたばこ会社だけが潤う構造になっている。 「ナイキ」のような世界的なブランド商品でも、1990年代にその生産コストの安さが児童労働など低賃金・劣悪労働に依存していることが問題になったこともある。

先進国にもある児童労働
  児童労働は途上国の問題だけではない。先進国でも見られる状況である。メキシコ国境に近いアメリカ、テキサス州のなどの農場では多数の移民家族が働いている。綿花、スイカ、たまねぎなどを栽培している。移民の子供たちは家族や両親の手助けをして、農場で働いている。日々の労働に追われ、高校も卒業できない。農業労働者は最低賃金すらもらっていないことが多い。農薬、殺虫剤の広範な汚染の中で、1日10時間、週7日間働き続けている。

期待されるNPOの活動
  農業労働者は差別され、搾取されている。毎年収穫の季節には多数の子供たちがかり出される。畑仕事が忙しすぎるため、高校まで進学しても中退するものが多い。こうした状況を改善するために、いくつかのNPO団体も活動している。たとえばブラジルその他のラテン・アメリカ諸国、アフリカなどで活動するMET( Motivation, Education, and Training)と呼ばれる移民の支援団体がある。METは農業労働者、児童労働者などに教育、職業機会を与える非営利団体であり、適切な進路指導をすることを目指している。METは移民の子供たちの多くに、収入の減少分を奨学金で補うよう努力している。しかし、METへの政府からの資金援助削減の可能性が生まれている。しわ寄せは子供たちに向けられることが多い。 

国際金融機関に支配される国々
  さらに、児童労働が見られる国々ではしばしば世界銀行やIMFなどの国際機関に経済を支配されている。かつて、このブログでジャマイカの例をとりあげたこともある。ケニアは世界銀行やIMF に経済を押さえ込まれた国である。為政者の横領などが財政事情を悪化させ、それを知りながら融資した国際社会の責任は大きい。今こうした国は国際機関への債務返済に苦しんでいる。

  ケニアの国際労働権利基金の例が紹介されていた。世銀融資がもたらしたみじめな結果である。ケニアは世銀から融資を受けたことで、学費の国家助成がなくなり、親が学費を負担することになった。その結果、学校へ行けない子供たちが増え、就学率が低下した。子供たちはコーヒーや紅茶のプランテーションで働いている。年1400円の学費が払えなかったので学校を辞める子供たちがいる。2003年1月新大統領が就任、学費の個人負担をやめる政策に切り替え、160万人の子供が学校へ戻ることができた。しかし、学校の再建に当てる資金がない。

   ケニアの主要な輸出品であるコーヒー豆の価格は過去30年間で最低の水準になっている。他方、ケニアの豆を原料にコーヒーを世界市場で売る多国籍企業は莫大な利益を得ている。原価の40倍になる末端価格がつけられている。

  児童労働は南北問題にも深くかかわっている。 現状に対してなんとかしたいと思っても「公正貿易」Fair Trade label のついた商品を選択するくらいしか、対抗手段がない。債務は減ることがなく、状況の改善は見込めない。児童労働はなくなることなく、次なる貧困層を再生産するという悪循環が続いている。

最後の奴隷制度
  2004年ノーベル平和賞を受賞したケニアの環境運動家ワーンガリ・マータイは、児童労働こそは最後の奴隷制度であるという。児童労働の背景にはしばしば親や本人がさまざまな債務を負わされているという実態がある。インドでは1776年に債務労働を禁止する法律を制定した。しかし、これまで1件も処罰の対象例がないという。 児童労働をこの世界から消滅させることは、想像以上に困難なことである。グローバル化の進展は、さまざまな分野で激しい価格競争の場を拡大している。まともな賃金を支払えない雇い主は、子供たちを酷使する。

教育こそ最大の救いの手
  児童労働を根絶するには世界規模で多大な努力が必要である。時間はかかるが最も根源的な解決への道は、教育の充実である。こうした子供たちは義務教育すら受けられないことが多い。一日中働くばかりで苛酷な生活を強いられ、人格も歪んでしまう。 目立たないが、こうした子供たちを泥沼から救い出し、教育の機会を与える努力も行われている。

  メキシコの「カーサ・アリアンサ」は、路上生活から救済団体の活動を行ってきた。親も失ってしまったような子供たちに暖かい生活と食事を供与し、年9000人を救済してきた。こうした施設に行くか否かは強制ではなく、あくまで本人の意思に任されている。厳しい労働で痛み、傷ついた子供にとって、こうした場所はなによりも大きな癒しの場となろう。人間らしい生活を「盗まれてしまった」子供たちにとって、得がたい機会なのだ。

1999年以来、144国が児童労働を禁止している・・・
・・・・


Source
世界の児童労働を扱ったドキュメンタリー映画(Stolen Childhood, BBCライブラリー、ガレン・フィルムズ 2004年制作、邦訳タイトルは「貧困と闘う子供労働者たち~僕たちも学びたい」)。11月9日(水)21:10~22:00NHK衛星第一NHK「BS世界のドキュメンタリー」
児童労働の現状については次を参照。
 http://teacher.scholastic.com/scholasticnews/indepth/child_labor/child_labor/index.asp?article=migrant

**例えばスポーツ用品メーカーのナイキは、1990年代後半にベトナムの下請け工場での児童労働が発覚し、大きな社会問題となった。児童労働や強制労働の問題は、ナイキばかりではなく、アパレルや部品組み立てなど労働集約的な産業の構造的問題であるという認識が欧米で広がった。現在では、多くの多国籍企業が途上国での公正な労働条件を調達基準に組み入れ、現地でのモニタリングを含めたマネジメントに取り組み始めている。しかし、下請け段階にまでは、到底目が届かない。

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6 コメント

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Unknown (三紗)
2005-12-05 03:58:25
こんばんは。



以前インドで織物を織る子供たちのドキュメンタリーを見たことがあります。子供の小さい手で織った絨毯は目が細かく高価だということでした。お父さんは無職で子供を働かせていましたが子供たちは「家族一緒でうれしい」と無邪気なものでした。工場長の娘はたくさんのお人形にかこまれて贅沢三昧なのに。



日本でも戦後まで子供たちは農家の貴重な労働力でした。現在も映画「オリバー・ツイスト」さながらの労働を強いられている子供たちがいますが、劇場で映画を見られる人たちはそんなことを考えたりしないのでしょうね。
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児童労働はなぜなくならないか (桑原靖夫)
2005-12-05 19:30:41
コメント有難うございます。



グローバル化が進行しても、児童労働はなくなりません。もしかすると、グローバル化が根源となり、加速している可能性もあります。これからも注視し続ける必要がありますね。



「オリバー・ツイスト」は、工場での児童労働が生まれる前の原型のひとつでしょうか。
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児童労働のひどさ (沙謝)
2006-10-17 11:27:06
こんにちわ



私はこのホームページを見て、改めて児童労働のむごさを実感いました。本やテレビで児童労働のことを知りましたが、ここまでひどいのは初めてです。同じ人間としての、人権などがないように思います。
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児童労働のひどさ (桑原靖夫)
2006-10-17 12:30:38
コメント有り難うございます。



これらは児童労働問題の一部分にしかすぎません。物質的繁栄の中に埋もれてしまっているような日本ですが、その反対側にはこうした世界があることを知る必要があると思います。
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児童労働をなくすには (瑠璃)
2006-10-24 11:58:01
こんにちわ



私は今、児童労働をなくすにはどうすればいいかを考えています。私は日本人に生まれて、今まで何不自由なく育ってきました。ですがその反面、世界では児童労働に苦しみ、学校に行くことなく、酷い仕打ちに耐えている子供がいることに私はとてもショックを受けました。そのため今私は、1人でも多くの子供を救うにはどのようにすればいいか思案しています。良いアドバイスがあれば書き込みお願いします。

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児童労働をなくすには (桑原靖夫)
2006-10-25 14:05:13
児童労働は容易にはなくならないのですが、大きな支援ばかりでなく、小さな支援の積み重ねもとても大切ですね。世界にはかなり多数の児童労働絶滅を目指すプログラムが存在し、活発に活動しています。NPO活動やフォスター・ペアレント・プログラム(里親制度)なども盛んです。
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