時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

楽園の腐敗:ジャマイカ

2010年05月27日 | 移民政策を追って

  アメリカ・メキシコ国境の移民・麻薬貿易にかかわる問題は、これまで長期的政策の対象として正面から取り上げられたことはほとんどない。従来の経緯をみると、急に燃え上がり緊張を生むが、目先の対応で下火になると、抜本的政策は講じられることはなかった。その場かぎりの対策の繰り返しに終わるのが常だった。

 近年大きな問題となっているのは、不法移民と麻薬、武器などにかかわる密貿易の拡大と凶悪犯罪の増加だ。麻薬密貿易をめぐる問題は、アメリカ、メキシコにとどまらず、次々と国境を越える。最近ではカリブ海の楽園ともいわれるジャマイカへも飛び火した。ジャマイカの首都キングストンでは5月24日、突如麻薬組織の首領クリストファー・コークの身柄拘束を求める政府側と麻薬組織の間で衝突が起こり、すでに30人を越える死者が出ている。クリストファー・コークについては、アメリカ政府から身柄引き渡しの要請が出ていたが、ジャマイカ政府は消極的であった。しかし、このたび同国政府が首領の拘束を求める動きに出たことから激しい衝突が発生し、鎮圧のために軍隊が出動するまでになった。その背景には、この組織の首領が麻薬取引で得た金の一部を貧民に提供しており、貧民地域ではあたかもロビンフッドのごとき受け取り方をされている事情がある。両者の対決は首都キングストンと周辺地域から次第に拡大、内戦のごとき様相を呈し始めた。

 麻薬密貿易はほとんど例外なく、麻薬組織が関与している。彼らはその目的を果たすために、しばしば関係国の政府首脳を贈収賄、脅迫などで取り込むことを行ってきた。しばしばこうした腐敗が一国の中枢にまで入り込み、組織討伐などの機密が直ちに漏洩してしまう。


 メキシコでも5月14日にはメキシコ・カルデロン大統領の国民行動党 National Action Party (PAN) の幹部・ディエゴ・フェルナンデス・デ・セヴァロスが誘拐され、行方不明になるという事件が起きている。フェルナンデスは、
かつて大統領候補にもなった大物で警察機構にもきわめて近い人物だった。もし、彼が暗殺あるいは長期に麻薬マフィアに身柄を拘束されるようだと、カルデロン大統領はマフィアへ厳しい対応はできなくなると見られている。

 このたびホワイトハウスを訪れたカルデロン大統領は、オバマ大統領と会見し、多くの懸案を話し合ったが、「移民」と「麻薬戦争」はいやおうなしに出てくる問題だった。

 アリゾナ州の新移民法について、カルデロン大統領は「後ろ向き」で「差別的」だと批判している。メキシコ側は自国民に対して、アリゾナ州訪問を控えるよう警告するなど、厳しい対応をしている。他方で国境地帯の安全に関わる問題については、以前よりも両国の協力体制が強化されてはいる。オバマ大統領もアリゾナの新法は「見当違い」と批判的だ。目指すところは「包括的移民改革法」の制定のようだ。しかし、中間選挙が近づき、ヒスパニック系を地盤に取り込む必要があることを考えると、時間も限られ、どれだけ有効な改革がなしうるか疑問が残る。ブッシュ政権時代の議論を大きく踏み出すことはないだろう。

 「移民」と双子の関係にある「麻薬密輸」について、メキシコ国民はカルデロン大統領が実効があがっていると誇示する政策は生ぬるいと見ているようだ。政府内部が調査した密貿易にかかわる死者数は、2006年にはおよそ23,000人に達しており、プレスがこれまで調べた18,000人を上回っている。麻薬の密貿易者は年々したたかになっている。

 現代の移民問題は単なる人の移動にとどまらず、政治、経済、社会のきわめて広い領域に関わっており、動向を見極める確たる視座が必要だ。

Reference
"An unappetising menu" The Economist May 22nd 2010

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