大賀先生の本を話題にしたついでに、先生が書かれた科学史に関する著書も紹介しておきます。大賀先生と同郷ではありませんが、近郷の津山藩藩主の侍医であった宇田川榕菴(1798-1846)の書「菩多尼訶経」と「植学啓原」の解説書を書いています。「菩多尼訶経」は日本初の植物学書でありますが、その名のとおりお経形式で書かれたユニークな植物学入門書です。「植学啓原」は本格的な植物学書で、ここでは彼が造語した専門用語が使われ、一部は現在でも使われているようです。榕菴は化学分野での用語(元素、酸素、水素、窒素、元素)を創出しており、その用語がここでも使われ、『細胞』という語もここで初めて用いられているようです。
「菩多尼訶経」や「植学啓原」についての大賀先生の解説は「理学博士大賀一郎科学論文選集」に収められています。また岡山大学の高橋先生が書かれた「シーボルトと宇田川榕菴」(2002年 平凡社新書)にも詳細な解説があります。ただ大賀先生のことは一言も出てきませんが、参考文献に大賀先生の小論があります。