小幡歯科医院雑談

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本格派推理小説

2020-05-06 23:19:11 | 推理小説

緊急事態宣言を受けた自粛中に本を読もうと、久しぶりにそれこそ10年近く振りに推理小説を読みました。

    

しかし、保守的な性格が表れてしまい、以前読んだ本の改訂版を買いました。

       

綾辻行人著「十角館の殺人」です。

 

しかし、これは日本のミステリー界における金字塔的な作品で、時代の流れを変えた貴重な作品です。

 

この本の中の登場人物の発言で、解説にも取り上げられているこの文章が私の気持ちにもピッタリ一致しているので紹介します。

 

「僕のにとっての推理小説(ミステリ)とは、あくまでも知的な遊びの一つなんだ。小説という形式を使った読者対名探偵の、あるいは読者対作者の、刺激的な論理の遊び(ゲーム)。それ以上でもそれ以下でもない。

だから、一時期日本でもてはやされた”社会派”式のリアリズム云々は、もうまっぴらなさけさ。1DKのマンションでOLが殺されて、靴底をすりへらした刑事が苦心の末、愛人だった上司を捕まえる。―—―やめてほしいね。汚職だの政界の内幕など、現代社会のひずみが産んだ悲劇だの、その辺も願い下げだ。ミステリにふさわしいのは、時代遅れと云われようが何だろうがやっぱりね、名探偵、大邸宅、怪しげな住人たち、血みどろの惨劇、不可能犯罪、破天荒な大トリック、、、、、絵空事で大いにけっこう。要はその世界の中で楽しめればいいのさ。ただし、あくまで知的に、ね」

 

その通りなのです。

 

小学校4年生から「探偵小説」を読んできた身には、ドンピシャで心に刺さる言葉でした。僭越ながら私が愛用してきた本格推理小説の変遷をお話したいと思います。

         

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江戸川乱歩、横溝正史時代

初めて推理小説と出会ったのは、父が買ってきた江戸川乱歩の「怪人20面相」でした。

 

 

私と同世代の多くのミステリファンがそうだと思いますが、このポプラ社の「怪人二十面相のシリーズ」によってミステリの魅力に憑りつかれるようになりました。江戸川乱歩は推理小説を日本に紹介する際に、「探偵小説」という言葉を使いました。推理小説には名探偵が必要であるという意味で、その名探偵は明智小五郎です。

「D坂の殺人事件」「二銭銅貨」「心理試験」「屋根裏の散歩者」「魔術師」「蜘蛛男」「押絵と旅する男」「パノラマ島奇談」など名作揃いですが、江戸川乱歩の作品で一番好きなのは、「化人幻戯」です。

 

時代は違いますが、江戸川乱歩と並び称される横溝正史作品もおどろおどろしい雰囲気の推理小説作家でした。名探偵は金田一耕助で、漫画「金田一少年の事件簿」ではその孫が活躍します。

「本陣殺人事件」「獄門島」「八墓村」「悪魔が来りて笛を吹く」「悪魔の手毬歌」など、題名だけ見てもおどろおどろしいですが、みな本格派です。横溝作品は角川映画で映像化されていて、本と映画共に面白かったのが有名な「犬神家の一族」です。

 

 

 

松本清張、森村誠一時代

一時期、本格派の推理小説が廃れました。社会派推理小説の台頭です。その代表的な作家が松本清張で、「点と線」を読みましたが、本格派で味わう鳥肌が立つような衝撃が得られないのが、社会派の小説の特徴です。その代わり、世の中の仕組みやそれによって生じる理不尽さなどを現実的に勉強できるという側面もあります。

松本清張で一番好きなのは「砂の器」です。これはやはり映画も面白かったです。

 

 

森村誠一は角川映画の「証明シリーズ」のインパクトが強いです。中でも高倉健と薬師丸ひろ子主演の「野生の証明」の映画は面白く、映画を見終わった後に小説を読みました。

 

 

 

赤川次郎、西村京太郎時代

社会派推理小説が世の中で主流となり、新本格派のブームが起こるまでの間はこの二人の作家が埋めてくれました。

 

赤川次郎はユーモアミステリーという新ジャンルを作り、「三毛猫ホームズ」や「三姉妹探偵団」などのシリーズものが多いですが、「マリオネットの罠」「黒い森の記憶」のような本格的な作品もあります。「セーラー服と機関銃」や「探偵物語」など、薬師丸ひろ子主演の映画となった作品もよいです。一番好きなのは「ひまつぶしの殺人」です。

 

 

西村京太郎はトラベルミステリーのイメージが強いですが、本格派に愛着があるようで「名探偵シリーズ」で本格派作品にオマージュを示した作品を残しています。一番好きなのは「殺しの双曲線」で、これは「十角館の殺人」に通じるところがあります。

 

     

 

島田荘司、綾辻行人時代

ここで新本格ムーブメントが起こります。この人たちがいなかったら、本格派推理小説は古典になっていたかもしれません。ミステリーファンにとってはありがたい存在です。

 

島田荘司は、基本的に古典的な推理小説の雰囲気を踏襲しながら、時代感覚をしっかり取り入れ現代を舞台にした新しい本格派理小説の世界をつくりあげました。綾辻行人や歌野晶午らを世に出した功績者でもあります。「占星術殺人事件」のトリックは凄すぎるもので、某有名漫画でパクられていました。「眩暈」「異邦の騎士」「ねじ式ゼザッキー」などの御手洗潔シリーズが本格派なのに対して、吉敷竹史シリーズはトラベルミステリーを多く含む社会派です。ここに島田荘司の器用さと推理小説世界全体を愛する気持ちが伝わってきますが、そこは島田荘司、社会派作品の中にも本格派のエッセンスを取り入れています。

また、「ロシア幽霊軍艦事件」や「写楽 閉じた国の幻」などの、史実において残っている謎を解き明かす作品も面白いです。

    

一番好きな作品は御手洗作品では、「占星術」よりもトリックに衝撃を受けた「斜め屋敷の犯罪」です。この屋敷ものは、後の綾辻行人の「館シリーズ」にもつながります。

      

 

吉敷竹史シリーズでは「奇想、天を動かす」です。吉敷シリーズは社会派なのですが、江戸川乱歩の世界を再現するような本格派の部分もあって楽しめます。

 

 

 

そして、島田荘司に推されて新本格ムーブメントの旗振り役となったのが綾辻行人です。京大のミステリ研究会出身の彼の作品から、精巧なパズルを組み立てる頭の良さとミステリを愛する心が伺われます。デビュー作の「十角館の殺人」に続く「館シリーズ」や「囁きシリーズ」「殺人方程式シリーズ」などがあり、基本的にミステリーファンの望むどんでん返しがあります。「どんどん橋落ちた」のようなパロディものも、ミステリファンのかゆいところに手が届く作品です。

一番好きなのは「時計館の殺人」です。

 

 

東野圭吾時代

この人だけ単名で、対になる人が浮かびません。赤川次郎や西村京太郎、森博嗣などはだんだん作品にキレがなくなっていくように感じていましたが、東野圭吾は駄作が少なくいつまでたってもキレがある作家であると思います。

       

作風に多くのバリエーションがあって、東野圭吾を一言で表すことができません。本当にまんべんなく色々な分野をテーマに書いています。代表作は「容疑者Xの献身」となるでしょうが、「名探偵の掟」「名探偵の呪縛」などのパロディもの、「パラレルワールド・ラブストーリー」「虹を操る少年」などのSFもの、「私が彼を殺した」「どちらかが彼女を殺した」などの読者挑戦もの、「変身」「分身」などのサイエンスもの、など多岐にわたる分野で作品が描かれています。「秘密」もまた違った分野で分類できません。

中でも一番好きな作品は「ある閉ざされた雪の山荘で」です。同じようなテーマの作品がもう一つありますが、鳥肌が立ったという点でこちらに軍配が上がります。

 

 

 

森博嗣、京極夏彦時代

今のところ、ここが最後となります。理系の森博嗣、文系の京極夏彦と称されて、それぞれ奥深い名作が多いです。

 

森博嗣「すべてがFになる」の世界観に大いに魅力を感じ、理系脳の私はすぐに虜になりました。冷たいコンクリートの建造物の中で起こる殺人事件に、主人公たちが脳が熱くなるほど思考をフル回転させているイメージです。S&Mシリーズはすべて面白かったですが、「四季シリーズ」以降はだんだん文体が詩的になりキレがなくなっていった気がします。

デビュー作「すべてがFになる」が素晴らしいのですが、「封印再度」「今はもうない」を抑えて、一番好きな作品は「数奇にして模型」です。

 

 

最後になりますが、京極夏彦です。文系のミステリーと称される彼の世界観には、最初ついていけないのかと思いました。そして、ボリュームの多い作品ばかり。しかし、読んでみるとすらすらと読めて、頭の中に情景がどんどん浮かんでくるのは、その文章力によるものなのでしょう。ディクスン・カーの「火刑法廷」という作品にオカルトとミステリが融合されたものがありますが、京極作品はすべて、ミステリに憑き物や妖怪というオカルトが絡んでいます。それでも、理系脳が素直に受け入れられるリアルさがあって楽しめるのです。出てくる登場人物のキャラクターも魅力的で、それぞれがお互いを補って謎の解決に向かいます。

「絡新婦の理」と悩むところですが、一番好きなのは「魍魎の匣」です。江戸川乱歩のある作品をオマージュにしていると思われる作品です。

 

 

 

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日本人はミステリがすきな国民だと思います。

 

テレビでも毎日、ミステリドラマが放映されています。

     

今後も素晴らしい作家が表れてくれるでしょう。

 

それまでに、読み落としている名作を読んでいきたいと思います。

 

      

 

 

    

 

         

 

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