今日のブログ「盗人に追い銭」に、アパートで自死した若者の遺族に“心理的瑕疵”として補償を求められたことを紹介しました。
これに関して、ヒューマンライツ 2015年12月号(№333)の「自死遺族等に対する差別問題を解消するために」という記事には、賃貸物件の事例として下記のような記載がありました。
これを読むと、正直、民法の改正はそう簡単ではないなあと思います。
昨年、人権問題を取り上げた際に現場の話も聞き、いろいろ調べた結果、日本人の人権意識はとても低いけれど、それは、欧米のように戦って血を流して勝ち取ってきた権利ではないからというところに行き当たりました。
自死を瑕疵と認める判例を見ると、地獄の沙汰も金次第と思えるような所業も、社会的背景(コンセンサス)によるんですよね。
結局、日本人の人権意識に根差すわけですから、法でそこを規定するのはそう簡単なことではないし、日本人の人権意識を世界標準とするにはと自問すると、岩に爪を立てるような行動を重ねるしかないかもしれません。
賃貸物件の事例
自死に限って、遺族に謝罪を求める賃貸人が後を絶ちません。自死でなくとも孤独死や病死でも周辺住民が衝撃を受けることには変わりがないはずですが、自死のみ損害賠償の対象となります。
民法570条 「暇庇担保責任」 の解釈
自死は「目的物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景に起因する心理的蝦庇がある」として、不動産売買や賃貸物件においては重要事項説明義務があり、賃貸物件については善管注意義務違反等も問われ、家主とその家族、近隣住民への慰謝料やアパートの取り壊しや建て替え費用、台所の取り換え、エアコン・配管・電気・ドア・壁紙・ガラス・差込み・畳・フローリング・ふすま・風呂桶・シャワー等全面改装工事費用の請求やお祓い料、そして次の人が入るまでの家賃補償の請求がきます。
また部屋で亡くなっていない場合でも、マンションの玄関やエレベーターの前で亡くなったり、病院に搬送されて病院で亡くなっても自死した人が住んでいたというだけで同じような請求が来るのです。
気味が悪いからということで家賃を下げたから、両隣と上下の部屋の家賃の賠償をしてほしいという請求もあります。もちろん、エレベーターや玄関の全面改修の費用の請求も当然あります。飛び降りた場合は、土の入れ替え費用(地下5cmまで建物の周り)、不動産の売買の場合は建物を壊して土地だけの場合も半額、当然建物を売る場合は半額以下となります。
具体的事例
1‥京阪のアパートに住む大学生が応死。連帯保証人である父親は、すぐ部屋の補修費として80万円の支払いを要求された。その2週間後、一階に住む大家家族五人への慰謝料250万円2人、50万円×5人)とお祓い科10万円の請求。「息子の自死で責められるのが辛い」ので即支払った。
2‥東京の大学に通う娘がアパートで自死。娘と連絡が取れなくなった父親が上京して確認。亡くなって5日ほど過ぎており、死体検案の後に火葬場へ。この火葬場に不動産業者が押しかけ、今後の家賃の補償として5年分(600万円)と全面改修工事費用200万円を、今すぐ現金で払うように迫られた。一人娘の死に絶望する父親は「迷惑をかけたのだから仕方がない」と思い、やむなく「手持ちがないので、自宅に帰ってから送金する」と応えたが「今すぐ」と執拗に責めたてられた。カードローンで手付の現金50万円を支払い、残金を自宅から送金することで同意してもらった。
3‥遺族が払えないために裁判になる場合もある。近畿の賃貸マンションの浴室で練炭による一酸化炭素中毒で自死。連帯保証人の姉に弟の家賃(68,000円)と隣室と他階の部屋の家賃など七部屋分の補償として、約700万円を請求された。この時「家族なら防げたんとちゃうの」と言われている。3カ月後、弟の部屋のリフォーム代220万円、2年分の家賃と他の6室の1年分の家賃、および心理的な毀損として、総計約927万円の支払いを求めて家主が提訴。被告である姉には「自死を予見し回避できたはずであり、過失がある。部屋を毀損しないように見守る注意義務がある」と主張。