庭のヤマボウシの木に かけられたメジロの巣から 微かな声がする
「 シィー・・・ ほら 聴こえるでしょ! 」
やっと ヒナが孵ったらしい
その前日 親鳥が「 チィー! チィー! 」と 嬉しそうに 鳴き交わしていた
ヒナが 殻を破ろうとしているのに 気づいたのかもしれない
親メジロたちは 喜びに満ちていた
長い間 卵を温め続けていた 親鳥は
これからは 虫などの餌を運ぶのに 大忙しになるのだろう
と 思っていたら 一向にその気配がない
夕方 窓からそっと覗いてみた
巣の傍らの枝にある 彫像のような影は 親鳥のものに違いない
その凍りついたようなシルエットから 不吉なものを感じた
朝 窓を開けた
お腹が空いたと 騒ぐヒナたちの声は 聴こえない
親鳥の姿も見えず 巣は シンと静まり返っていた
そこに 生きているものの気配は 少しもなかった
そういえば 一度も 親が餌を運んでいるのを 見なかった
もしかしたら 生まれた子が余りにもひ弱で 育たないと 親は諦めたのだろうか?
何かをしながらも 時々 注意が窓の外へと逸れてしまう
その度に もう終わった事なのだと 自分に言いきかせる
洗い物をする水音の合間に 生きるものたちが起こす 空気の波動を感じて
私は 慌てて手を拭きながら 窓辺へと急いだ
鳥の巣は 変わらぬまま
遠くから 蝉の声が 波のように押し寄せた
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シャボン玉 消えた 飛ばずに 消えた
生まれて すぐに 壊れて 消えた
風 風 吹くな シャボン玉 飛ばそ