消費税公約 引き上げを国民に堂々訴えよ
今月24日公示の参院選に向け、民主、自民両党が消費税率の引き上げを含む税制の抜本改革を打ち出した。
先進国で最悪の財政状況を立て直し、社会保障制度を持続可能なものにすることが、多くの国民の願いだろう。それには、消費税率引き上げが避けて通れないことは明らかだ。
国民に痛みを伴う増税であっても、必要性を堂々と訴えることが政治の責任である。選挙戦での活発な論争を期待したい。
◆選挙戦術では困る◆
菅首相は参院選公約を発表した記者会見で、消費税について「2010年度内にあるべき税率や改革案の取りまとめを目指したい」と語った。
税率は、自民党が提案している10%への引き上げを参考にする考えを表明した。消費税の増税を封印してきた鳩山前首相の方針を、大きく転換するものだ。
1989年に3%で導入された消費税は、97年に5%に引き上げられた。以来、歴代政権は消費税問題に正面から取り組んでこなかった。今回、菅首相が税率引き上げの方針を示したことは、評価してよい。
ただ、首相は記者会見で、増税前に衆院選で信を問う意向も示した。こんな悠長な構えでは、せっかくの機運が失われかねない。
民主党には、「税率を自民党の主張と同じ10%にすれば参院選の争点にはならない」との思惑もあるという。これでは、従来型の選挙戦術と同じだ。
首相の方針に対しては党内から反発も出ている。首相は党内論議を急ぎ、党としての基本的な考え方を固めるべきだ。
◆財政再建は待ったなし◆
バブル崩壊後の景気対策の大盤振る舞いに、鳩山政権の衆院選の政権公約(マニフェスト)にこだわったバラマキ政策が加わり、わが国の財政は「借金漬け」の危機的な状況に陥っている。
国と地方の長期債務残高は、今年度末に860兆円と国内総生産(GDP)の1・8倍に膨らむ見込みだ。
10年度予算は、税収が37兆円余りに落ち込み、44兆円に膨らんだ新規国債発行額を下回る異常な事態である。
高齢化の進展で年間20兆円超の社会保障費は、毎年1兆円ずつ自然に増える。
09年度から基礎年金の国庫負担割合を2分の1に引き上げたが、これは、いわゆる埋蔵金で暫定的に賄っており、11年度以降、新たに2・5兆円という恒久財源も必要となる。
菅内閣が掲げる「経済・財政・社会保障の一体改革」を成し遂げるには、安定した財源があってこそである。
だが、国の税収を支えてきた所得税や法人税は、長期不況や度重なる減税措置で大幅に減少している。頼みの綱は、景気による変動が少なく、国民が広く負担を分け合える消費税しかない。
世界的に見ても、25%の北欧諸国を筆頭に16~20%のスペイン、英国、イタリア、10%の韓国などと比べ、日本の消費税率5%は例外的に低い水準だ。
読売新聞が6月に実施した世論調査では、消費税率の引き上げが必要と答えたのは66%で、必要ないとした29%を大きく上回った。国民の多くは、消費税の増税やむなしとの考えに傾いている。
◆低所得者対策が必要だ◆
消費税を巡る論点は、単なる税率や時期にとどまらない。幅広い議論が必要である。
一つは、増収分の使い道だ。消費税率を1%引き上げると税収は2・4兆円増える。税率を10%にすれば税収増は12兆円ほどだ。
現在は基礎年金、老人医療、介護の3分野に配分されているが、首相は医療や介護などの成長分野への積極投資で雇用を増やす考えを表明している。
増収分を安易に歳出拡大に回せば、いつか来た道である。消費税は、社会保障に限定する目的税化すべきである。
5%の消費税率の1%分は、地方に回すことが決められている。さらに、地方交付税に配分される分もある。その結果、国が使える消費税は7兆円程度しかないのが現実だ。
これでは10%に引き上げても十分とは言えないだろう。将来的には、欧州並みの15%以上への引き上げも考えるべきではないか。
低所得者の負担をどう軽減するかという問題もある。
消費税は誰でも同じ税率がかかるため、所得の多い人より少ない人に相対的に負担感が増す。
海外では、食料品など生活必需品の税率を低く抑える軽減税率を導入している。わが国でも検討すべきだろう。
生活必需品の消費税額相当分を低所得者に還元する手法もある。対象となる世帯の所得を把握するには、税と社会保障の共通番号制度の検討を急ぐ必要がある。
2010年6月20日 読売新聞 社説
今月24日公示の参院選に向け、民主、自民両党が消費税率の引き上げを含む税制の抜本改革を打ち出した。
先進国で最悪の財政状況を立て直し、社会保障制度を持続可能なものにすることが、多くの国民の願いだろう。それには、消費税率引き上げが避けて通れないことは明らかだ。
国民に痛みを伴う増税であっても、必要性を堂々と訴えることが政治の責任である。選挙戦での活発な論争を期待したい。
◆選挙戦術では困る◆
菅首相は参院選公約を発表した記者会見で、消費税について「2010年度内にあるべき税率や改革案の取りまとめを目指したい」と語った。
税率は、自民党が提案している10%への引き上げを参考にする考えを表明した。消費税の増税を封印してきた鳩山前首相の方針を、大きく転換するものだ。
1989年に3%で導入された消費税は、97年に5%に引き上げられた。以来、歴代政権は消費税問題に正面から取り組んでこなかった。今回、菅首相が税率引き上げの方針を示したことは、評価してよい。
ただ、首相は記者会見で、増税前に衆院選で信を問う意向も示した。こんな悠長な構えでは、せっかくの機運が失われかねない。
民主党には、「税率を自民党の主張と同じ10%にすれば参院選の争点にはならない」との思惑もあるという。これでは、従来型の選挙戦術と同じだ。
首相の方針に対しては党内から反発も出ている。首相は党内論議を急ぎ、党としての基本的な考え方を固めるべきだ。
◆財政再建は待ったなし◆
バブル崩壊後の景気対策の大盤振る舞いに、鳩山政権の衆院選の政権公約(マニフェスト)にこだわったバラマキ政策が加わり、わが国の財政は「借金漬け」の危機的な状況に陥っている。
国と地方の長期債務残高は、今年度末に860兆円と国内総生産(GDP)の1・8倍に膨らむ見込みだ。
10年度予算は、税収が37兆円余りに落ち込み、44兆円に膨らんだ新規国債発行額を下回る異常な事態である。
高齢化の進展で年間20兆円超の社会保障費は、毎年1兆円ずつ自然に増える。
09年度から基礎年金の国庫負担割合を2分の1に引き上げたが、これは、いわゆる埋蔵金で暫定的に賄っており、11年度以降、新たに2・5兆円という恒久財源も必要となる。
菅内閣が掲げる「経済・財政・社会保障の一体改革」を成し遂げるには、安定した財源があってこそである。
だが、国の税収を支えてきた所得税や法人税は、長期不況や度重なる減税措置で大幅に減少している。頼みの綱は、景気による変動が少なく、国民が広く負担を分け合える消費税しかない。
世界的に見ても、25%の北欧諸国を筆頭に16~20%のスペイン、英国、イタリア、10%の韓国などと比べ、日本の消費税率5%は例外的に低い水準だ。
読売新聞が6月に実施した世論調査では、消費税率の引き上げが必要と答えたのは66%で、必要ないとした29%を大きく上回った。国民の多くは、消費税の増税やむなしとの考えに傾いている。
◆低所得者対策が必要だ◆
消費税を巡る論点は、単なる税率や時期にとどまらない。幅広い議論が必要である。
一つは、増収分の使い道だ。消費税率を1%引き上げると税収は2・4兆円増える。税率を10%にすれば税収増は12兆円ほどだ。
現在は基礎年金、老人医療、介護の3分野に配分されているが、首相は医療や介護などの成長分野への積極投資で雇用を増やす考えを表明している。
増収分を安易に歳出拡大に回せば、いつか来た道である。消費税は、社会保障に限定する目的税化すべきである。
5%の消費税率の1%分は、地方に回すことが決められている。さらに、地方交付税に配分される分もある。その結果、国が使える消費税は7兆円程度しかないのが現実だ。
これでは10%に引き上げても十分とは言えないだろう。将来的には、欧州並みの15%以上への引き上げも考えるべきではないか。
低所得者の負担をどう軽減するかという問題もある。
消費税は誰でも同じ税率がかかるため、所得の多い人より少ない人に相対的に負担感が増す。
海外では、食料品など生活必需品の税率を低く抑える軽減税率を導入している。わが国でも検討すべきだろう。
生活必需品の消費税額相当分を低所得者に還元する手法もある。対象となる世帯の所得を把握するには、税と社会保障の共通番号制度の検討を急ぐ必要がある。
2010年6月20日 読売新聞 社説