格安航空会社の台頭でマイレージは死ぬのか?
最近、エアラインの分野で話題沸騰なのは、格安航空会社(LCC)だ。「茨城~上海間が片道4000円」という運賃の中国・春秋航空が就航したかと思えば、ANAも関西国際空港を拠点にしたLCC設立を発表、2011年度から運行を始める。そして12月には、羽田~クアラルンプール間を、格安航空の雄であるエアアジアXが就航する。最も安い運賃は片道5000円と、まさに激安だ。
これら激安運賃が売りの格安航空が増えると、わざわざJALやANAなどのマイレージをためて使う必要性は薄れる。「マイレージは、格安航空会社の激安運賃に押されて、いずれは消滅するのか?」。そんな疑問も浮かんでくる。
だが、“マイル名人”であるメディア産業研究所代表の櫻井雅英氏に話を聞くと、「それは違います」と否定された。では、既存の航空会社と格安航空の使い分けはどうすればいいのか……。
マイル名人が語る3つのポイント
●世界のLCCでは、マイレージやポイント制度を導入する会社が増えている
●国内のLCCでも還元率が10%以上にもなるポイントサービスを行っており、利用するのも手
●ヨーロッパ旅行では、空港内の旅行代理店ブースを回るほうが、LCCの格安チケットを手に入れやすい
■LCCでも「疑似マイレージ」を導入するのが新トレンド
――格安航空会社(LCC)がこれだけ台頭してくると、将来的にはマイルをためるよりも、LCCを選ぶほうが得になるのではないでしょうか。
櫻井 雅英氏(以下、櫻井):LCCの存立基盤は安い運賃です。通常の国際的協定運賃(国際的な業界団体IATA加盟の航空会社間の取り決め)を採用しつつ、サービスの一環でマイレージを導入している既存の航空会社とは、集客マーケティングの根本が異なります。
ただしLCCは、予約方法や運航スケジュール、空港へのアクセス、機材などは、運賃の安さとトレードオフの関係にあり、サービスレベルが落ちます。現在でも、観光用途では受け入れられてもビジネス用途には向かないとユーザーが判断し、使い分けをしているようです。
路線についても、すみ分けがされています。国内線や近距離国際線はLCCのビジネスモデルに向いていますが、長距離の国際線を手がけている会社は少ない。一方、日本―ヨーロッパ、北米間などの大陸間の長距離国際線は、依然としてマイレージを採用している既存タイプの航空会社が圧倒的に多いです。
また、この区間でのマイル積算数は割引運賃を利用しても大きく、たとえ搭乗回数が少なくとも特典交換できるぐらいのマイルが獲得できます。それもあって、ここしばらくはマイレージをサービスの主軸に置いた従来の航空会社が勢力を維持すると思われます。
さらに日本では、日・米・欧・アジア・中東各社便など航空会社の選択肢が多く、マイルもたまる格安航空券も豊富に出回っています。格安航空会社を乗り継ぎで利用するよりも、通常の航空会社のチケットを買って直行するほうが、より得になります。
茨城~上海間を運行している中国のLCC、春秋航空。運賃は片道4000円~2万6000円の8種類ある。4000円の運賃は1便当たり18席程度
12月に羽田空港に乗り入れるマレーシアのLCC、エアアジアX。LCCでは珍しく、長距離路線を手がけている。ただし、機内食や枕、毛布は有料だ
――マイレージプログラムは、まだまだ現役ということですか。
櫻井:最近はLCC間の競争も激化しつつあることから、交換特典は自社便に限定されるもの、マイルや搭乗回数ポイントで無料航空券がもらえる擬似マイレージサービスを実施する会社も増えています。またドイツの格安航空ジャーマンウイングがルフトハンザ ドイツ航空と同じマイレージ制度に参加するなど、大手航空の傘下に入ったLCCが、親会社の共通マイレージを使えるという新トレンドも出てきています。
■日本のLCCは「還元率10%以上」の得するサービスを実施
――LCCでも、運賃とは別に得ができるサービスが登場しているのですね。
櫻井:日本でも、LCCに分類されるスカイマーク、エア・ドゥ、スターフライヤー、スカイネットアジア航空では、リピート客獲得のために独自の顧客サービスを実施しています。企業提携が広範なマイレージとは異なりますが、期限内に一定以上の搭乗実績を重ねると自社の無料航空券や賞品が獲得できます。自社便利用の独自サービスの場合は、ポイント還元率が10%以上になることも少なくありません。
例えば、スカイマークは提携カードのスカイマークカード(年会費2100円)を使ってポイントを850ポイントためると、往復無料航空券がもらえます(スカイマークの運賃支払いでは500円ごとに1ポイントたまるため、約43万円分支払うと獲得可能)。これを東京―沖縄便で利用すると、約10%のポイント還元率になります(9月現在の普通運賃の場合)。
還元率は下がりますが、スカイマークカードは一般のショッピングでもポイントをためられます(1000円ごとに1ポイント)。ゴールドカード(年会費8400円)を利用すると、ポイント積算率は一般カードの20%増しになります(ショッピング利用の場合)。
一方、エア・ドゥのポイントサービス(DOマイル、2年間有効)ではネット予約を利用すると8回搭乗で1回無料の特典航空券をもらえます。これを還元率に換算すると12.5%と、かなり得する特典です。
ポイントをためると特典航空券が獲得できるスカイマークカード。300ポイントで片道半額航空券、550ポイントで片道無料航空券が得られる。ただしポイントの有効期限は1年間だ
――海外のLCCでは、どうでしょうか。
櫻井:海外のLCCでも欧米中心に、格安航空でもマイレージサービスが実施する会社が増加しています。ただし、一般の航空会社のようにアライアンス加盟や航空会社間の提携はないので、自社便の無料航空券が交換特典の主流です。
米国の最大手LCC、サウスウエスト航空の提携クレジットカードやポイントサービス(Rapid Rewards)を使うと、2年間で8往復または16回搭乗で無料航空券がもらえ、1年間に32回(16往復)搭乗でAランク会員になり、優先搭乗などの優遇サービスを受けられます。1年間で50往復以上の搭乗実績、または搭乗(1回=1credit)とパートナー企業での利用実績が合わせて100ポイント(credits)以上あった場合には、会員が指名した1人のユーザーが会員と同行する際に運賃無料のパス(コンパニオンパス)がもらえるユニークなサービスを実施しています。
――ちなみにマイル派の櫻井さんは、LCCはあまり使わないのですか。
櫻井:米国やヨーロッパの域内移動には、私もLCCをよく使います。LCCでは直行便が主流なので、既存航空会社が経由便になる区間でも、LCCのほうが早く安く利用できるからです。また、米国では航空運賃比較サイトが充実しており、現地事情に詳しくなくとも、LCCの安い航空券を購入できます。
ヨーロッパは言語の問題(英語版サイトが不十分な航空会社も一部ある)ことから、現地空港内の旅行代理店ブースを回って比較検討するほうが、ネットよりも安い運賃でLCCの航空券が購入できます。
例えば、2年前にドイツ・ミュンヘンからフランス・ニースへ片道移動したとき、ミュンヘン空港内の旅行代理店のブースで、通常の正規運賃(約350ユーロ)の7分の1程度の約50ユーロ(当時のレートで9000円)と、店長も驚くほどの格安運賃でLCCのジャーマンウイングスの直行便を利用できました。当時、通常の航空会社の片道旅程は、日本からのネット購入では高額なレギュラー運賃のビジネスクラスしか利用できませんでしたから、LCCのおかげで大いに助かりました。
なお、現在話題になっているアジアの格安航空は現地の友人の紹介で数回利用したことがある程度です。運行スケジュールや客層、携行品重量などの面から、アジア地区の格安航空は個人的にはあまり積極的になれません。
国内では、日程がある程度事前に把握できていれば、JAL、ANAの事前購入型割引運賃の価格は、LCCとは大差ありません。そのため、マイル派の私はLCCはあまり利用していません。国内のLCCは、搭乗日当日に航空券を買って乗る場合にのみ利用しています。
2010年09月27日 日経BP