【時事(爺)放論】岳道茶房

話題いろいろだがね~
気楽に立寄ってちょ~

日本シリーズ 野球人気よ、ふたたび

2010年11月09日 | 社説
日本シリーズ 野球人気よ、ふたたび

 少々眠い。でも、どこかさわやかな後味だった。技術や戦略の理屈を超えた連夜の延長戦。球史に残る日本シリーズは、地域に元気を残していった。あっぱれだ、ロッテナイン。来年こそ、竜戦士。

 地元としては悔しいが、おもしろいシリーズだった。

 連夜の延長、合わせて十時間三十九分の息詰まる攻防に、実況のアナウンサーも「野球史に残る死闘」と絶叫し、「もう、何が起きるかわかりません」と、しばしば言葉を失った。

 第七戦九回裏、先頭の和田外野手が三塁打を放った時には、まちじゅうの歓声が、決着の瞬間にはため息が、それぞれ聞こえて来るような、連帯感を味わえた。

 名古屋と千葉。地方都市に本拠地を置く球団同士の戦いに、在京キー局は冷ややかだった。地上波の全国中継がない日もあった。

 バレーボールの女子世界選手権、フィギュアスケートのグランプリシリーズと、昨今人気のスポーツ中継が重なったこともあり、国民的娯楽の多様化によるプロ野球人気の凋落(ちょうらく)が強調された。

 ところが終わってみれば、さすがに元祖筋書きのないドラマ。第六戦、六時間近い熱戦をフジテレビは最後まで、午後十一時以降はCMなしで放送し続けた。第七戦、名古屋地区の平均視聴率は34・6%、瞬間では48%超、関東、関西の平均も20%を超えた。

 実はペナントレースでも、ローカル局による地元球団の中継は、関東を除いて二けた視聴率を維持している。ここ十年ほどの間に、東京と関西に偏在していた球団が、北海道や仙台などにも散らばり、根を張った。全国中継の低迷は、人気凋落というよりも、球界の地方分権化が進んだ結果とみるべきだ。むしろ地デジ化多チャンネル時代に沿った進化といえないか。だとすれば、TBSが横浜球団の身売りを模索するのもうなずける。

 「地域ぐるみ」という言葉をしばしば耳にする。しかし、地域ぐるみで何かを共有できる機会は多くない。プロ同士の意地と意地、力と力とのぶつかり合いに名古屋と千葉が地域ぐるみで燃え上がり、その熱が他地域にも伝わった。異形の日本シリーズは、プロ野球が、まだこの国を元気にできる可能性を示してくれた。

 さて落合ドラゴンズ。「何かが足りなかった」と敗軍の将は語った。足りないものを、いつ、どこで、どうやって見つけるか。来季まで、その道のりを楽しみたい。

2010年11月9日 中日新聞 社説

八ツ場中止撤回 “迷走"に終わらせるな

2010年11月09日 | 社説
八ツ場中止撤回 “迷走"に終わらせるな

 馬淵澄夫国土交通相は、八ツ場(やんば)ダム(群馬県)につき建設中止の前提を事実上、撤回した。評価できる側面の一方、ダム事業の文字通り「予断なく再検証」の方針は貫くべきである。

 昨年、政権交代直後に前原誠司前国交相が建設中止を表明、馬淵現国交相も当初、「中止の方向」をいっていたことを思えば、また“迷走”といえなくもない。

 だが今回の発言は、有識者会議のとりまとめをへて、八ツ場を皮切りに九月から始まったダム事業再検証の趣旨を考えれば、当たり前でもある。

 ダムを含むもの、含まないものと複数の治水対策を作り、さまざまな評価軸で検証するからには、初めからダムありきでもダム中止でも、“予断”になる。八ツ場は国と関係六都県、九市区町がダム中止、推進で真っ向から対立、国が中止の方向に固執すれば、膠着(こうちゃく)状態が続く恐れもある。

 馬淵発言が冷静な話し合いの契機になれば、むしろ評価できる。また同相が、再検証終了の目標を来秋と初めて明言したのも、関係住民の不安を早く取り除くため、喜ばしい。

 一方、ダム中止の事実上撤回により、八ツ場はもとより全国のダム推進派が元気づけられることも考えられる。それによって、逆の予断で事業の再検証がおざなりになってはならない。

 すでに、八ツ場ダム建設の重要な根拠になった利根川の治水基準点・八斗島(やったじま)(群馬県伊勢崎市)における洪水時などの最大流量(基本高水)が、あやふやであることが明らかになっている。

 毎秒二万二千立方メートルとされた最大流量は、上流部の森林などの保水力を示す飽和雨量が高まり変化したのに、約三十年間検証されていない。馬淵国交相自身が先月、最大流量の算出方法を見直すよう国交省河川局に指示した。

 最終の評価がどうなるにせよ、これらの重要な基礎的データは、ダム事業再検証の場で明らかにした上で、議論を進めなくてはならない。

 同省河川局がつくった検証の実施要領では、関係自治体からなる検討の場が重視され、各地方整備局に設けられた事業評価監視委員会の意見を聴き、事業継続または中止の対応方針を決める。

 「予断なく再検証」するために国交相自身がこれらの場に、必要な情報の全面開示と、公正な議論の確保について、あらためて指示をすべきである。

2010年11月9日 中日新聞 社説

ビデオ流出告発 危機感をもって真相の解明を

2010年11月09日 | 社説
ビデオ流出告発 危機感をもって真相の解明を

 真相解明の手段は「調査」から「捜査」に移った。相次ぐ情報流出で、国の情報管理能力が問われている。検察当局は危機感をもって捜査にあたらねばならない。

 尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件を撮影したビデオ映像がインターネット上に流出した問題を巡り、海上保安庁が検察と警察に、被疑者不詳のまま、国家公務員法違反などの容疑で刑事告発した。

 流出映像は石垣海上保安部が編集したものとほぼ特定された。海保と検察の双方に保管されていたが、現時点で検察側から流出した形跡はなく、海保側から流れた疑いが強いという。

 誰がどんな手段で流出させたのか、何らかの政治的意図があったのか。重要なのは、真相の徹底解明である。

 そのためには、海保による任意の内部調査では限界があろう。告発により検察当局に捜査を委ねたのは当然だ。

 インターネット上では情報が瞬時に拡散する。パソコンへのアクセス状況を調べ、犯人を特定するには専門的な知識が必要だ。

 検察当局は流出ルートを調べるため、問題のビデオ映像が投稿されたサイトを運営する検索大手の「グーグル」に対し、投稿者の情報提供を求めた。

 それでも自宅のパソコンではなく、匿名性の高いネットカフェなどから投稿した場合には、投稿者の特定は極めて難しいという。

 警察にはサイバー犯罪に関する捜査ノウハウの蓄積がある。検察当局は警察と連携して、迅速に解明を進めてもらいたい。

 流出映像は、事件発生直後、石垣海保が内部の説明用に作成したものだという。石垣海保の共用パソコンに保存されたほか、複数の記憶媒体に複製された。

 捜査担当以外の職員も比較的自由にパソコンを閲覧したり、情報をコピーしたりすることが可能な状態だった。馬淵国土交通相の指示で管理が強化される先月中旬までは、記憶媒体の金庫での保管も徹底されていなかった。

 捜査機関として極めてずさんな情報管理にあきれるほかない。

 警視庁の国際テロ情報流出問題が明るみに出たばかりである。すべての捜査機関は、情報管理態勢を早急に見直し、再発防止に取り組まねばならない。

 今回の情報流出は、ビデオ映像の一般公開を避け続けた政府にも責任の一端がある。改めて国民に対するビデオの全面公開を検討する必要があろう。

2010年11月9日 読売新聞 社説

尖閣ビデオ 非公開の理由は薄れた

2010年11月09日 | 社説
尖閣ビデオ 非公開の理由は薄れた

 尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件を撮影した映像がインターネット上に流出した問題で、検察当局と警視庁が捜査に乗り出した。海上保安庁が「内部調査では限界がある」として、容疑者不詳のまま国家公務員法(守秘義務)違反と不正アクセス禁止法違反の容疑で告発したのを受けたものだ。

 流出映像には中国漁船が網を引き揚げるまでの違法操業行為や2隻の海保巡視船にぶつかるシーンなどが映っている。石垣海上保安部が編集して那覇地検に提出したものと同一とされており、職員が関与した可能性もある。

 職員が意図的に流出させたのだとしたら影響は深刻だ。漏えいの疑いがあり、海保自身が内部調査の限界を認めている以上、「調査」を「捜査」に切り替えたのは当然である。最高検は福岡高検を主体とした捜査チームを発足させ、警視庁は検察当局と連携するという。徹底した捜査をしてほしい。

 仙谷由人官房長官は8日の衆院予算委員会で、秘密保全のための法制検討の必要性を強調した。将来の法制整備の必要性を否定はしない。だが、菅直人首相が陳謝したように、政府がまず取り組むべきは情報管理体制の再構築と、動画投稿サイトを利用した新しい手口の情報流出に対する有効な対応策を早急に考えることだ。罰則強化だけに傾斜するのは問題がある。

 今回のビデオ流出に関しては、海上保安庁に「国民のほとんどが見たいと思っていた」などと歓迎する声が多く寄せられているという。政府がビデオを一般公開しない理由をきちんと説明していないからだろう。

 仙谷長官は非公開とする理由として、中国人船長の処分が未定なことや日中関係への影響などを挙げている。しかし、釈放して帰国させた船長の公判は今後開ける可能性がないことを仙谷長官自身が国会で認めている。非公開の真の理由は横浜でのアジア太平洋経済協力会議(APEC)を前にしての中国への配慮と思われる。

 衝突時のビデオはそもそも、国家機密として「守るべき情報ではない」(渡辺喜美みんなの党代表)との指摘もある。そうではないと言うのなら、政府はその理由を説得力をもって説明すべきだ。

 長時間ビデオの中には日中関係に深刻な影響を与えるとして政府が出したくない映像が含まれているのかもしれない。だが、ネット上に流出した映像は多くの国民がすでにテレビでも見た。もはや非公開を続ける理由は薄れたと言わざるを得ない。政府は国民の不信をぬぐうため時期を見てビデオを公開すべきである。

2010年11月9日 毎日新聞 社説

海外農業投資 収奪でなく共存共栄を

2010年11月08日 | 社説
海外農業投資 収奪でなく共存共栄を

 豊かな国々の企業が海外で広い農地を取得し、自国向けの穀物を栽培する動きが広がっている。将来の食料不足に備えた投資だが、相手国に利益を還元し農業の発展を促すという視点が欠かせない。

 二〇〇七年から〇八年にかけ各国で食料価格が高騰し、途上国の一部で暴動も起きた。その後穀物在庫は増えているが、ロシアが今年、干ばつで穀物輸出を停止するなど危機再燃の懸念は残る。

 アジア太平洋経済協力会議(APEC)は十月に新潟で食料安全保障担当相の会合を開き、採択された閣僚宣言で「責任ある農業投資」を提言した。

 経済大国となった中国、耕地不足に悩むアラブの産油国などの企業がアフリカや東南アジアの途上国と農地のリース契約を結び、収穫物を優先的に輸入する動きが進んでいる。

 確かに途上国の農業発展には外国からの投資は欠かせない。農業インフラが整備され、品種改良が進んで収穫が増え、さらに流通が確立されれば、その国だけでなく世界全体の食料増産につながる。

 しかし、この数年、サハラ砂漠以南の国などで現地の人々が土地を安く手放し、自らの食料も手に入らない悲劇が起きている。

 韓国・大宇の系列企業と広大な土地の貸与契約を結んだアフリカの島国マダガスカルでは、農民の抗議が広がり、昨年三月に政変が起きて大統領が追放される一因となった。

 相手国への還元を十分保障せず収穫物の大半を自国の消費にまわそうとする行為について、国連食糧農業機関(FAO)のディウフ事務局長は「新植民地主義を生む恐れがある」と厳しく批判した。

 FAOや世界銀行は投資のルール作りを進めている。現地の土地の権利関係を尊重し、適正価格で借り上げる。環境を破壊しない。生産物は自国向けだけでなく国際市場での流通を目指す-といった内容が検討されている。

 豊かな国による農業投資が相手国からの収奪になってはならない。途上国との共存共栄を図るべきだ。

 日本政府は国連の諸機関とともに規制づくりに加わっている。APEC域内の中国や韓国にも協力を働きかけたい。

 FAOの試算だと、四十年後には現在の一・七倍の食料生産が必要になるという。飢餓は病気や貧困だけでなく、戦争さえも引き起こす。食料増産と安定供給には、投資国と投資相手国が一体になった息の長い取り組みが必要だ。

2010年11月8日 中日新聞 社説

検査院報告 埋蔵金発掘で終わるな

2010年11月08日 | 社説
検査院報告 埋蔵金発掘で終わるな

 会計検査院が公表した二〇〇九年度決算の検査報告は独立行政法人(独法)の巨額剰余金を発掘したことで、指摘金額は過去最高になった。不正指摘にとどまらず予算のあり方にも切り込むべきだ。

 国の財政をどう再建するかは内政の最大課題だが、官僚たちの税金の使い方は能天気なままだ。菅直人首相に提出された検査報告書を見ると、無駄遣いだけでなく会計法などの法令違反事例が満載されている。

 今年の検査は資産や利益剰余金などストックに重点を置いた。すると旧国鉄職員に年金を支払う鉄道建設・運輸施設整備支援機構に約一兆二千億円の剰余金があることが判明した。

 また金融機関の破たん処理を行う整理回収機構でも千八百三十七億円強の剰余金が見つかった。

 一方、不正経理も相変わらず多い。虚偽の請求書を提出させて購入代金を業者にプールする預け金が代表的。補助金を過大に支払ったり、契約が期間内に終了していないにもかかわらず請負代金を支払ったケースもあった。

 この結果、〇九年度決算での指摘金額は約一兆七千九百五億円と、前年度の約二千三百六十五億円の七・五倍に膨れ上がった。

 検査院が、例年以上に精力的に調べた姿勢は評価できる。

 大事なことは政府が検査院報告をどう生かすか、である。

 政府の行政刷新会議(議長・菅首相)は先月、特別会計を対象とする事業仕分けを行った。社会資本整備特会の廃止などを決めたが全体としてはまだ切り込み不足と言える。検査院報告を活用すれば無駄の排除とともに政策や事業の見直し、さらには新年度予算の配分適正化に役立つだろう。

 国会は検査院自体をもっと活用すべきだ。今年は参院が要請して大使館など在外公館を調べたが、ワインを過剰に抱えていたり一度も使わずに廃棄していた事例などが判明した。行政府の効率化徹底につなげてもらいたい。

 会計検査院は会計事務職員が故意または重大な過失で国に損害を与えた場合、当該官庁に懲戒処分を要求することができる。昨年末に防衛省へ幹部の懲戒請求を求めたが実に五十七年ぶりだった。身内に甘い、は許されない。

 さらに不当事項を指摘後、返済など是正されていない未済額は〇八年度末で約百三十億円もある。検査自体を軽視している証拠であり、不正職員への厳罰化など会計検査院法改正が急務である。

2010年11月8日 中日新聞 社説

企業中間決算 円高は攻めの経営で克服を

2010年11月08日 | 社説
企業中間決算 円高は攻めの経営で克服を

 今年度上期の企業業績は急回復したが、先行きは楽観できない。長引く円高を克服する戦略が問われよう。

 東証1部上場企業の今年9月中間連結決算の発表がピークを迎えた。上場企業全体の経常利益は前年同期比で倍増し、リーマン・ショック前の中間期以来の高収益を記録した。

 世界不況のどん底からV字回復しつつある主要企業の勢いが鮮明になったと言える。

 原動力は、コスト削減の徹底による経営体質の強化だ。新興国向けなどの輸出が好調なうえ、エコカー補助金や省エネ家電のエコポイント制度など、政府の支援策も収益拡大に貢献した。

 トヨタ自動車、ホンダやパナソニックなど、自動車と電機の有力企業が代表例だ。

 これらの業界向けの鋼板販売が伸びた鉄鋼各社や、資源ビジネスが好調な商社も好決算だった。

 一方、ゲーム機の販売が不振だった任天堂は赤字に転落した。内需型の建設、不動産などは伸び悩み、明暗が分かれた形だ。

 しかし、5分の1の企業が通期の見通しを下方修正した。先行きの厳しさを示している。

 1ドル=80円台の円高が続いていることが最大の試練だ。下期の想定為替レートを実勢に見直す企業が相次いでいる。現在の円高水準が続けば、輸出企業の採算悪化は避けられないだろう。

 エコカー補助金終了で新車販売が激減するなど、景気対策の効果は息切れしている。日中関係の悪化が中国での事業に波及するリスクも警戒しなければならない。

 とはいえ、逆境をはね返そうとする動きにも注目したい。

 トヨタは、新興国市場での生産拡大など、海外生産を加速する方針だ。日産自動車は主力車マーチの国内生産をタイなどに移し、東芝は1ドル=70円台にも耐えられる経営改革を目指している。

 多くの企業に必要なのは、ドル建てによる原材料購入を増やすなど、円高に左右されない経営を目指したり、“強い円”を武器に海外企業の買収を仕掛けたりする攻めの経営姿勢である。

 政府も企業活力を引き出すため、法人税率の引き下げや中小企業支援の拡充など成長戦略を迅速に実施すべきだ。有望な内需産業の育成を目指し、医療や農業分野などの規制改革も欠かせない。

 こうした後押しが、海外生産の加速による国内産業の空洞化を防ぎ、雇用確保に役立つことは間違いあるまい。

2010年11月8日 読売新聞 社説

法相第三者機関 検察全体の抜本改革を

2010年11月08日 | 社説
法相第三者機関 検察全体の抜本改革を

 第三者による検察改革の一歩が踏み出されようとしている。

 郵便不正に絡む大阪地検特捜部の証拠改ざん・隠ぺい事件を受けて、柳田稔法相の私的諮問機関「検察の在り方検討会議」が10日、初会合を開く。法曹三者以外も、学者やジャーナリストら幅広いメンバーが、検察のあり方を検討する。

 事件を受け、特捜部解体論が声高に叫ばれる。もちろん、捜査手法を含め特捜部の問題点を洗い出し、抜本的に改革することは必要だ。

 だが、戦後、時に政治権力と厳しく対峙(たいじ)しながら特捜部は一定の役割を果たしてきた。それを全否定するような主張は受け入れ難い。まず解体ありきではなかろう。

 事件が浮き彫りにしたのは、むしろ検察全体が抱える問題である。

 裁判員制度が始まり、裁判官は大きな意識改革が求められた。法曹人口の増加で、弁護士は職域の拡大や競争の激化を迫られた。

 その一方で、司法改革の大波の影響が最も小さかったのが検察官ではなかったか。それが、権力としての検察の高慢と暴走を生んだとも言える。まず、司法改革の原点に立ち、検討会議では、公益の代表者としての検察官の役割を再確認してほしい。その上で、組織を含めて果敢に改革のメスを入れるべきだ。

 法改正を伴う議論も積極的に進めるべきである。

 法的拘束力のある検察官の倫理規定の必要性は改めて指摘したい。米国では、被告に有利な新証拠があった場合、検察官は開示する義務を負う。違反した場合は、法曹資格をはく奪される。被告の正当に裁判を受ける権利を守るためには当然だ。

 原則として証拠の全面的な開示も必要である。透明性がない裁判では、国民に見放されてしまう。

 厚生労働省元局長の村木厚子さんの公判のように、不正発覚後も裁判を続けることがあってはならない。

 取り調べの録音・録画など、可視化も避けられまい。強引な取り調べがあったとして、供述調書の証拠採用が次々と退けられた現実は直視しなければならない。

 法改正を伴わない改革は、よりスピーディーに進めてほしい。

 特捜部など検察が独自に捜査する場合の内部チェックの厳格化もその一つである。捜査の軌道修正ができるような組織運営のあり方も議論されるべきだろう。

 また、深夜までわたるむちゃな長時間の取り調べはどう防ぐか。警察では捜査と留置の部署が明確に分かれているのは一つの参考になる。

 一部の検察官がエリート意識を抱くような人事システムも見直さねばならない。

2010年11月8日 毎日新聞 社説

外交の近代化を問う

2010年11月07日 | 社説
外交の近代化を問う 週のはじめに考える

 「政治の近代化」はよく耳にしますが、「外交の近代化」には接しません。最近の日中関係などを見ていると、外交にもっと進歩が欲しいところです。

 「投票用紙は銃弾より強し」(The ballot is stronger than the bullet)。第十六代米大統領リンカーンの言葉です。昔は武力で勝った者が政治の主導権を握ったのに対して、投票用紙に政党・候補者名を書くことで自分たちの暮らしの方向を決められる。それが「政治の近代化」だというのです。皮肉にもリンカーンは銃弾に倒れましたが、民主政治の原点はこの言葉に象徴されています。

■外交は戦争より強し

 では「外交の近代化」はどうでしょうか。「戦争の世紀」ともいわれた二十世紀は、談判決裂で戦争に発展するケースが多かったのですが、二回にわたる世界大戦を経て「民主国家同士の戦争は起きない」との通説も生まれました。話し合いで戦争を未然に防止する-それが「外交の近代化」といえるかもしれません。戦争は当事国双方に甚大な損害をもたらすのですから、リンカーン流にいえば「外交は戦争より強し」というところでしょうか。

 ところが、その外交も最近の尖閣諸島問題以後、日中双方に首をかしげる場面が増えています。

 まず中国側です。尖閣に限らず南シナ海での領有権主張など同国の行動を見ていると、経済・軍事大国化に伴う「覇権主義」的傾向を強めています。日中平和友好条約(一九七八年締結)交渉で中国が見せた「反覇権」の熱意は、どこに消えたのでしょう。外務省アジア局長として対中交渉に携わった中江要介氏(元中国大使)は近著「アジア外交 動と静」で、反覇権条項は「中国の作戦勝ちだった」と反省しています。

■外交にも発想の転換

 当時の華国鋒中国共産党主席は反覇権条項を武器に東欧歴訪でソ連衛星国を切り崩し、それがソ連圏の崩壊、ベルリンの壁崩壊につながった。これに比べ日本は何の利益も得ていない。本来なら反覇権条項を使って日中共同で米国のイラク介入やアフガン介入に反対するような外交努力でもすべきだった、と中江氏は述懐します。

 一方、菅内閣の対中外交はどうでしょうか。あまりにも対症療法的というか、後手後手で国民をいらだたせています。隣国と波風を立てたくないという気持ちは分からないではありませんが、背筋がピンとしていません。

 「外交力」には大国も小国もありません。たとえばノルウェーは二年前、懸案のクラスター爆弾禁止条約の「生みの親」になりました。同国にあるノーベル平和賞委員会が中国の民主活動家、劉暁波氏に今年の賞を授与し、「中国が国際社会と調和するには自国民に表現の自由を保障しなければならない」と主張しているのも、ノルウェーの伝統的な「外交力」と無関係ではありますまい。

 相手のいやなことは言わない、しないというのではなく、国益を主張しつつ妥協点を模索する。同時に人類に普遍的な価値(平和、自由、人権など)は二国間関係に限らずグローバルに追求していく-というのが「外交近代化」の基本ではないでしょうか。

 もう一つの視点は資源外交との関連です。中国の「力の外交」の背景には資源確保策があります。どこの国も資源は欲しいのですが、地球環境や生態系の保全も喫緊の課題なのは名古屋での生物多様性条約の会議(COP10)が教えてくれたことでした。

 九月に来日したエクアドルのコレア大統領は、同国ヤスニ国立公園内の推定八億五千万バレルの油田開発をやめるのと引き換えに、開発した場合に得られる利益の半額相当(三十六億ドル)を世界が補償してほしいと要請しました。ドイツなどが拠出を約束しています。一見虫がいい話に見えますが、地球環境の保全という点からは発想転換が求められる時代です。

 日本にはそんな取引材料の天然資源はないよ、と指摘されるかもしれません。しかし、日本人がつくり出した「高度技術」「管理システム」「ソフト」「サービス」といった人工的資源は、世界に冠たるものです。新幹線は開業以来「死者ゼロ」を誇っていますが、運行を含めた全体的な管理システムが優れているからにほかなりません。省エネ・環境技術から旅館・飲食店のもてなしに至るまで日本が持つ人工的資源に私たちは、もっと自信を持つべきです。

■世論も大事な外交力

 国内世論、国際世論も大事な外交力です。高原明生東大大学院教授(中国問題)は「新聞に『外交面』をつくっては」と提案しています。外交のあり方を広く、深く報道する責任を痛感します。

2010年11月7日 中日新聞 社説

駐露大使一時帰国 危機感欠いた甘い報告だ

2010年11月07日 | 社説
駐露大使一時帰国 危機感欠いた甘い報告だ

 一時帰国した河野雅治駐ロシア大使がメドベージェフ露大統領の国後島訪問について報告した。これに対し、菅直人首相は「情報収集をしっかりしてほしい」と注文をつけた。お粗末な内容と言わざるを得ない。

 河野大使は、訪問について「大統領が国内向けに指導力を誇示する狙いがあった」と説明した。だが、それはまさにロシアの言い分だ。それで納得しては相手の思うつぼである。ロシアの「国内問題」にさせない外交姿勢こそが重要だが、「国内問題だから仕方がない」とまるで言い訳をしているようにも聞こえる。

 日本外交の「目と耳」である現地大使館は、ロシアが菅政権の弱体化につけ込み、強硬姿勢を強めているからこそ、情報収集を怠らず、必要なら菅首相を説得してでも対抗措置をとるべきだった。

 日本固有の領土に対し、ロシアの最高指導者がいとも簡単に、その歴史で初めて足を踏み入れるのに際して手をこまねいていた河野大使の責任は重い。

 さらに、大統領の歯舞群島と色丹島への訪問計画について、仙谷由人官房長官は「いちいちコメントを加えるほどのことはない」と述べ、重大な問題を極めて過小に評価した。認識の甘さと危機感の欠如は政権を覆っている。

 メドベージェフ氏が9月29日、いったん訪問を中止した北方領土に「近いうちに必ず行く」と言明した際も危機感は薄かった。ある外務省幹部は「常識的に考えれば(訪問は)ないだろうと判断していた。結果として間違えていた」と告白した。

 戦後65年の今夏、日本が降伏文書に調印した9月2日を事実上の対日戦勝記念日にロシアが制定した際も、日本の外交当局はロシアで進行する歴史歪曲(わいきょく)の動きに強く抗議することすらしなかった。情報収集力と分析力を向上させ、領土返還に向けた戦略の再構築をしなければ、日本の対露外交は今後も敗北を重ねることになろう。

 13日、横浜市でアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が始まる。傍若無人に北方領土に足を踏み入れるロシアの首脳とは会談してほしくないというのが多くの国民の感情だろう。首脳会談をするなら、国際信義に反するロシアの背信行為を厳しくただすべきだ。それもできないのなら、首脳会談はしない方がいい。

2010.11.7  産経新聞 主張

こども園 10年も待てというのか

2010年11月07日 | 社説
こども園 10年も待てというのか

 幼稚園と保育園を一つにしたらどうかという議論は古くからあったが、「教育」と「福祉」の間には大きな壁がそびえてきた。

 専業主婦の子に幼児教育を行うのが幼稚園、共働きや疾病などの理由がある親の子の保育を引き受けるのが保育園だ。預かる時間は幼稚園が4時間、保育園は8時間以上で給食もある。職員の資格や施設基準なども異なる。しかし、女性の就労や社会参加が進むにつれて都市部で保育園の待機児童の増加が顕著になってきた。一方、子どもの数が減るにつれて地方では幼稚園の定員割れが目立つようになった。このアンバランスをどうするかという議論の中で幼稚園と保育園を一緒にした「こども園」の構想が生まれた。

 これまで一元化を阻んできたのは、幼稚園は文部科学省、保育園は厚生労働省という縦割り行政や族議員の存在と言われた。幼稚園児の入園金や利用料は事業者が決めることができるのに対し、保育園は親の所得に応じて自治体が決めていること、職員の勤務時間など待遇が異なることも大きい。利用者よりも事業者や職員の都合が優先されてきたと言えるのではないか。

 こども園は親の働き方に関係なく利用でき、利用料も統一する。行政の縦割りの弊害を排するため、子ども施策に関する財源はまとめて市町村が配分を考えられるようにする。年内に最終案をまとめ来年の通常国会に関連法案を出す方針だ。現場の抵抗感が強いことに配慮して、完全に移行するまで10年の猶予期間を設けるという。しかし、今年生まれた子は10年たったら小学校高学年だ。そんなに待てないというのが利用者側の実感だろう。

 できるだけ早く待機児童を解消するためには一定の基準を満たした株式会社や非営利組織(NPO)の参入を積極的に促すべきだ。保育の質の低下を懸念する声もあるが、高齢者福祉の分野でも企業やNPOの参入が利用者にサービス選択の幅を広げた実績がある。利用者が選べるようになれば質の高い保育サービスが伸びることにもつながる。

 多様なニーズにも応えてほしい。夜間や早朝の保育を望む親もいる。家族機能が薄れている現在、子どもの側にもさまざまなニーズがある。個々の特性に配慮した質の高い保育を実現すべきだ。また、待機児童が増え続けている地域もあれば待機児童ゼロの自治体もある。住居よりも通勤場所の近くで保育サービスを利用する方が便利な人もいる。

 地域によって保育格差が生まれないよう配慮しなければならないが、自治体への権限移譲や自治体間の連携を進めるべきである。

2010年11月7日 毎日新聞 社説

日中世論調査 不信乗り越え「互恵」を築け

2010年11月07日 | 社説
日中世論調査 不信乗り越え「互恵」を築け

 日中関係の悪化が、両国の国民に従来にない深刻な相互不信を生んでいる。両政府は、この事態を重く受け止める必要があろう。

 読売新聞と中国・新華社通信発行の週刊誌が先月下旬に実施した日中共同世論調査で、日本では「日中関係が悪い」と考える人が90%と過去最高になった。

 中国側も81%と大きく後退し、相手国に対する国民意識がかつてないほど悪化していることが鮮明になった。

 日中関係は、小泉元首相の靖国神社参拝問題で悪化したものの、その後、緩やかに好転していた。それが尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件と、反日デモの高まりで、一気に冷え込んだ格好だ。

 調査によると、中国を信頼できるという日本人はわずか7%、日本を信頼できるという中国人も15%に過ぎない。いずれも前年の調査に比べて激減している。

 発展する中国経済への日本の依存度は高まっている。中国も、日本の環境・省エネ技術の移転などを期待している。

 今こそ日中の協調体制を築くべき時なのに、両国民の間に信頼感が薄れているというのでは、今後の両国の経済発展に支障が出るのも避けられまい。

 調査の中で注目すべきは、「中国が経済力や軍事力を背景に他国に外交圧力を強めていくという不安を感じる」という日本人が89%にのぼっていることである。

 さらに、中国に対し79%の人が「軍事的脅威」を感じていると答えている。これは、北朝鮮に対する81%に次ぐ高さだ。

 漁船衝突事件をめぐる日中交流の打ち切りやレアアース(希土類)の対日輸出規制、さらに日本人社員の長期間にわたる拘束などを、日本側が深刻に受け止めている証左であろう。

 今後の日中関係について、日本側の6割は「変わらない」と答えている。こうしたこじれた関係の改善に向け、中国は、増大する経済力と軍事力に見合う責任ある行動を取らなければならない。

 加えて、ガス田条約交渉の再開やレアアース輸出規制の是正など、日中間の懸案の解決に真剣に取り組むことが大切だ。

 まずは、お互いの首脳同士が冷静にじっくり話し合える環境を整えるため、両政府が外交努力を重ねることが肝要である。

 「戦略的互恵関係」をただ声高に唱えるだけでなく、実のあるものにすることが、両国国民の信頼関係を取り戻す一歩になる。

2010年11月7日 読売新聞 社説

尖閣ビデオ 政府対応が招いた流出

2010年11月06日 | 社説
尖閣ビデオ 政府対応が招いた流出

 尖閣漁船衝突事件の模様を収録したとみられる映像が動画サイトに投稿された。政府のちぐはぐな対応で、事件直後なら日本の主張を裏付けた映像が、日中関係修復を急ぐ政府を困惑させている。

 ビデオ映像は何者かが動画サイト「ユーチューブ」に投稿した。中国漁船とみられる青い船が、尖閣付近の日本領海で海上保安庁の巡視船らしい船二隻にそれぞれ衝突する模様を映し出している。

 「ぶつけてくるぞー!」の叫び、中国語による停船命令などの音声も収録され、現場の緊張した雰囲気が伝わってくる。漁船は取り締まりを恐れる様子もない。

 前原誠司外相は「海保が撮ったものだと思う」と述べ、投稿映像が本物という見方を示した。

 九月上旬に起きた事件の直後、中国は巡視船が漁船に衝突してきたと主張していた。当時、映像が公開されていれば漁船の危険航行を立証する根拠になった。

 日本の主張を国際社会にアピールでき、中国の行きすぎた対抗措置をけん制したに違いない。

 ところが政府は公開をためらい逮捕した船長の身柄を送検した。映像は那覇地検が証拠として管理し公開のタイミングを逸した。

 九月下旬、地検が「日中関係への配慮」を理由に船長を処分保留のまま帰国させ公判の可能性がなくなっても、映像は証拠の扱いを受け公開はできなかった。

 この間に政府はブリュッセルで菅直人首相と温家宝首相の「廊下会談」を実現させ関係緩和に動いた。政府は関係修復の動きに水を差すことを恐れ、ビデオ映像公開を遠慮するようになった。

 十月末にハノイで予定されていた首脳の公式会談は関係改善に対する中国国内の反発を恐れた温首相が土壇場でキャンセルした。今月十三日から横浜で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)で胡錦濤国家主席との首脳会談実現を目指す政府は、ますます映像の扱いに慎重になった。

 映像流出は真相にふたをした事件の幕引きに反発する政府関係者が、かかわっている可能性が高い。捜査資料の流出は遺憾だが、それを招いたのは政府の混乱した事件への対応ではないか。

 中国は憂慮を表明しているが自らの主張を覆す映像をめぐり、ことを荒立てるとは思えない。流出映像で明らかになった日本の立場の正当性も背景に、政府は主張すべきを主張し首脳会談実現を中国に迫る外交力を発揮すべきだ。

2010年11月6日 中日新聞 社説

公務員給与 「2割減」公約どう果たすのか

2010年11月06日 | 社説
公務員給与 「2割減」公約どう果たすのか

 政府・与党に本気で公約実現に取り組む意思があるのなら、人件費削減の制度案と工程を早急に示すべきである。

 政府は2010年度国家公務員一般職給与について、人事院勧告通り実施することを閣議決定した。平均年間給与は1・5%削減され、国の負担も790億円程度減少する。

 人事院勧告は、国家公務員が労働基本権を制約されている代償措置として、民間に準拠して出されている。完全実施するのが原則で、政府の決定は当然だろう。

 勧告内容より、更に削減できないかどうか、8月の勧告以来、政府・与党は検討を重ねてきた。

 民主党は政権公約で「国家公務員の総人件費2割削減」、つまり総額で1・1兆円もの削減を掲げ、菅首相も先の党代表選で「人事院勧告を超えた削減を目指す」と表明していたからだ。

 だが、勧告以上の削減となれば、憲法違反だとして訴訟を起こされかねない。自治労など労働組合側の反発も予想される。結局、勧告通りで落着するしかなかった。

 政府は、閣議決定の際、国家公務員に争議権など労働基本権を付与する「自律的労使関係制度」を設けるための法案を来年の通常国会に出し、労使交渉による給与改定を実現することも言明した。

 人事院勧告通りの給与引き下げだけでは、野党だけでなく、与党からも「公約違反」と批判されかねないと懸念したためだろう。

 しかし、制度設計への具体的な議論は進んでいない。仮に、民間と同様の労使交渉に移行したとしても、労組の支持を受けている民主党政権が人件費削減を実現できるのかは、はなはだ疑問だ。

 政府はまた、労働基本権の付与を実現するまでの間も、「人件費を削減するための措置を検討し、必要な法案を順次提出する」としている。だが、これでは具体性に欠け、いつまでに、どう公務員人件費を下げるのかわからない。

 そもそも公約自体に無理があったと言わざるをえない。与党内にはなぜ2割減なのか根拠を問う声さえある。無責任な公約のほころびがここにきて現れた格好だ。

 ただ、国家財政は厳しく、人件費の抑制は避けられない。

 天下りあっせんの禁止による人事滞留で人件費は逆に増えることも予想される。定員や退職手当の見直し、行政機構のスリム化など検討すべき項目は少なくない。

 政府・与党は課題を先送りすることなく、制度改革を着実に前進させなければならない。

2010年11月6日 読売新聞 社説

尖閣ビデオ流出 統治能力の欠如を憂う

2010年11月06日 | 社説
尖閣ビデオ流出 統治能力の欠如を憂う

 尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件の模様を海上保安庁が撮影したビデオ映像の一部がインターネット上に流出した。同庁と検察当局が捜査資料として保管していた証拠の一部である。その漏えいを許したことは政府の危機管理のずさんさと情報管理能力の欠如を露呈するものである。

 捜査権限を持つ政府機関の重要情報の漏えいはつい先日も明らかになったばかりだ。テロ捜査などに関する警察の内部資料がネット上に流出した事件だ。横浜でのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を前にした度重なる失態は菅政権の統治能力すら疑わせる。早急に流出経路を解明し、責任の所在を明らかにしなければならない。

 海保は巡視船が衝突される前後から漁船に立ち入り検査するまでの模様をビデオに収めており、全体で数時間分あるという。ネット上に流出したのはその一部とみられ、約44分間の映像だった。巡視船2隻に中国漁船が衝突する場面が明確に映っており、生々しい衝突音も収録されている。

 政府が先日、国会に提出したビデオは約7分間に編集されたもので、視聴は予算委理事らに限定された。限定公開に対しては、全面公開を主張する自民党などから「国民に事実を知ってもらうことが大切だ」などの反対論が出た。しかし、政府は国際政治情勢への配慮などを理由に慎重な扱いを求め国会が要請を受け入れた経緯がある。

 それが、政府と国会の意図に反する形で一般公開と同じ結果になってしまったことに大きな不安を感じる。この政権の危機管理はどうなっているのか。

 海保によると、那覇市の第11管区海上保安本部や石垣海上保安部、那覇地検など検察当局のパソコンなどに映像が残っている可能性があり管理状況の調査を進めているという。

 もし内部の職員が政権にダメージを与える目的で意図的に流出させたのだとしたら事態は深刻である。中国人船長を処分保留で釈放した事件処理と国会でのビデオ限定公開に対する不満を背景にした行為であるなら、それは国家公務員が政権の方針と国会の判断に公然と異を唱えた「倒閣運動」でもある。由々しき事態である。厳正な調査が必要だ。

 中国側はビデオ流出について「日本側の行為の違法性を覆い隠すことはできない」との外務省報道官談話を発表した。ビデオ映像は中国の動画投稿サイトにも転載され、「中国の領海を日本が侵犯したことがはっきりした」などの反論が出ているという。このビデオ流出問題にどう対処するか。菅政権は新たな危機管理も問われている。

毎日新聞 2010年11月6日 社説