二銭銅貨

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蝶々夫人/新国立劇場10-11

2011-06-19 | オペラ
蝶々夫人/新国立劇場10-11

作曲:プッチーニ、演出:栗山民也
指揮:イヴ・アベル、演奏:東京フィル
出演:
蝶々夫人:オルガ・グリャコヴァ
ピンカートン:ゾラン・トドロヴィッチ
シャープレス:甲斐栄次郎、スズキ:大林智子

白無垢。後ろ向きに正座して剣を胸に付き立てて静止する。舞台奥に引かれた障子がサッと開いて子供が現れ出ると、その子供は少し前に進んで母親の最期を注視して静止する。静寂と静止。でもプッチーニの音楽は滔々と流れ、ピンカートン氏の声は遠くにかすかに聞こえている。姿は見えない。丁度そのちょっと後に、瞬間に舞台全体が熱せられたかのごとく白熱に輝いて、蝶々さんはむなしく床に崩れ落ちる。壮絶な子別れの最期の場面。蝶々さんと子供の間には太い輝く光の道が照らし出されている。蝶々さんの決意は侍の魂を思わせ、子供はそれをじっと見ていた。

蝶々夫人のグリャコヴァは声量があって劇場全体に良く届く声だった。所作全般が日本風になっていて、特に正座をきちんとやっているように見えた。幾つかのアリアを正座で歌っていて、「ある晴れた日に」の前半は正座だった。ピンカートンのトドロヴィッチは真面目で端正な感じ、シャープレスの甲斐は美しく輝くバリトンで声量も十分にあって頼もしく、頼りがいのある領事を良く演じていた。スズキの大林は控えめな役作りで地味に徹していた。

動きの少ない演出の中で、ただ一人忙しく幇間風に動き回っていたゴローの高橋淳の芝居が良かった。いかにも太鼓持ちという感じのチョロチョロふらふらした雰囲気が面白かった。かなり渋い演出の中の唯一の滑稽。演出、衣裳は純日本風で違和感が無く日本人にとってはスッキリした芝居だった。衣裳は前田文子。

美術は現代的なデザインで単純、簡素なものだった。全幕で1個のセット。材質は木材の生地をイメージさせる色あいでやはり和風の意匠。坂道が右の地底から円を描くように這い上がってくるのに続いて、さらに階段が同じく円を描くように左側を登って行く。その中間にピンカートン夫人の家がある。階段を登りきった所は長方形の窓のようになっていて、空が見え時々星条旗がはためいている。ちょうど明治維新以降の、日本が近代国家になって行くプロセスをセット上に組んだかのようである。坂の下が維新前の日本、階段を登りきった所が西洋の象徴、その中腹で蝶々夫人の悲劇が描き出されるような感じだ。

演奏は力強く、メリハリのある劇的なものだった。歌手たちの力強さとあいまって全体に強い印象であった。強い決意のもとに自決する蝶々さんの強靭な精神力を印象付ける感じがした。

11.06.12 新国立劇場


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