日本刀鑑賞の基礎 by ZENZAI  初心者のために

日本刀の魅力を再確認・・・刀のここを楽しむ

脇差 宝寿 Hoju Wakizashi

2017-06-30 | 脇差
脇差 宝寿


脇差 宝寿

 そもそも古鍛冶は、無垢鍛えと呼ばれるように、一つの素材からなる鋼を一振りの太刀に鍛え伸ばしてゆく作刀方法であった。次第に、柔軟性のある鋼と硬質になる鋼など複数の素材を組み合わせて刀を作り上げる方法へと進化した。その技術の源流はどこにあるのだろうか、刀工が突然に思いついたのだろうか。あるいは、刃先に細かな鍛え肌が現われていた方がはるかに斬れ味が良いと気づいたのは、突然のことであろうか。そうではあるまい。肌目が強く立ち、刃先に肌が現れるよう工夫した鍛え肌が奥羽の鍛冶にみられる綾杉鍛えだ。もちろん山城古鍛冶の小板目鍛えでも頗る斬れ味は良い。以下は筆者の想像だが、それ以上に、奥羽の鍛冶は、鉄の性格を知り尽くしていたのではないだろうかと思う。平安時代末期から鎌倉時代において奥羽の地が開発されたことと、武器の技術的な進化とが重なり合うとも考えられるのは頗る面白いことだ。ただし、太刀の反りが奥羽に特徴的な蕨手刀に源流があるというのは違うと思う。大陸には、すでに青竜刀のような、薙刀の源流と言うべき反りを持つ武器が存在していたのだ。

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脇差 宝寿 Hoju Wakizashi

2017-06-29 | その他
脇差 宝寿

 
脇差 寶壽

 南北朝時代後期の寶壽在銘の平造脇差。我が島国の形状は、大陸に沿って弧状に伸びている。即ち、大陸からすれば北方でも南方でも同程度に渡航が可能な国。文化の渡来が九州や中国地方と限定するのはおかしなことで、東北地方にも刀造りの技術が渡来した。五ヶ伝をありがたがる意識の持ち主からすると、奥羽の鍛冶は地方鍛冶、田舎鍛冶といった評価を為されそうだが、この地域の作風の面白さや歴史的な背景を学ばねば、我が国の日本刀の文化を知ることにはならないだろう。現実に、現代刀工の頂点に立つ一人でもある月山貞利刀匠は、その古鍛法を伝えており、芸術にまでその美観を高めている。微妙に質の異なる鋼を織り鍛え合わせて肌立つ地鉄とした刀工でまず思い浮かぶのは則重と江戸初期の繁慶であろうが、その源流の一と言っていいだろうか、奥羽の古鍛冶の地鉄は斬れ味を追求した結果、躍動感のある板目肌やそれが揺れるような綾杉肌を特徴とし、折損せぬよう比較的幅の狭い焼刃を施した。本作は、そのような強く肌立つ一例。
 
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薙刀直し刀 備中國住人貞次 Katana Sadatsugu

2017-06-28 | 
薙刀直し刀 備中國住人貞次


薙刀直し刀 備中國住人貞次作

物打辺りの身幅が広く張りのある姿格好で、薙刀樋があり、棟が削がれていることから、長巻と呼ばれる大薙刀を打刀に仕立て直した作。南北朝後期の貞次の銘が遺されている。薙刀は刀以上に実戦的攻撃的な武器である。それが故に健全な薙刀の姿で遺されている例は少ない。このように刀に直されてしまったものや、戦場で使い果たされてしまったからだ。このように刀に直すと堂々としていることから、戦国武将や、江戸初期の傾いた武士の嗜好に適ったものと思われる。地鉄は、武器であるにもかかわらずとても美しい。微塵に詰んだ小板目肌の中に板目や杢目が現れ、流れるような景色を生み出している。このようなところも武士に好まれたのであろう。刃文は直刃に小足入り。帽子も調子を同じくしているが、鋒の反りを矯正したため、刃文は棟側に抜けている。
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太刀 青江次吉 Tsuguyoshi Tachi

2017-06-27 | 太刀
太刀 青江次吉


太刀 青江次吉

堂々とした姿格好が遺されている、南北朝中期の青江次吉と極められている太刀。二尺五寸強で、二寸ほどの磨り上げ。杢目を交えた板目肌に細かな地景が入って肌立つ感があり、地沸が付き段状の映りが立つ。刃文は直刃で、帽子は先端がわずかに掃き掛けて綺麗に返る。刃境にはほつれが掛かり、小足が穏やかに入る。激しい出来ではないが、落ち着いた、高位の武士好みの作である。
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太刀 備中國住次直 Tsugunao Tachi

2017-06-26 | 太刀
太刀 備中國住次直


太刀 備中國住次直作

南北朝中期の折り返し在銘の太刀。区が送られて二尺三寸強だから、三寸ほどさらに長かったと考えればよいだろう。地鉄は小板目状に良く詰んでいるが、よく見ると小杢が交じっており、地沸が付き、刃に沿って段状に映りが立つ。刃文は直刃に小足入りで、これにより浅く湾れているようにも感じられる。帽子は穏やかに乱れて返る。銘は、磨り上げながら折り返しで遺されている。
 未だに「末青江」の分類用語を用いている人がいるようだ。かつて、南北朝時代後期以降の作を末青江と呼んだが、青江鍛冶の流れを汲む工が各地に移住してしまったものか、鎌倉時代や南北朝時代の特徴を伝える室町時代の青江鍛冶は実質的に存在せず、作風からも青江鍛冶と呼ぶには適さないことから、現代では、おおよそ鎌倉前期以前の古青江と、鎌倉中期以降の青江の二つに分けられて考えられている。
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短刀 備中州住貞次 Sadatsugu Tanto

2017-06-24 | 短刀
短刀 備中州住貞次


短刀 備中州住貞次元弘三年十月日

 なんて素敵なんだろう。南北朝初期の、身幅の広い短刀。刃長九寸強、元幅九分。研ぎ減りがあるのが判るが、それでも結構広いから、生ぶの状態ではもっと幅広く迫力のある姿であったことが想像される。地鉄は杢目を交えた板目肌で、肌目が綺麗に起って見えるも鍛えは良く詰んで密な感がある。濃淡変化に富んだ映りが全面に立っており、霞立つ春の朧なる空気感を暗示して美しい。刃文は細直刃。元来はもう少しあったはずだが、これでも充分過ぎるほどに綺麗だ。「端麗」の表現が似合う。
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刀 青江 Aoe Katana

2017-06-23 | 
刀 青江


刀 青江

 鎌倉後期の青江極めの刀。杢目を交えた板目肌が、肌目に沿って地景が交じるために肌が綺麗に現れて、しかも全面が均質な詰み方で、綺麗に揺れて縮緬肌風となる。ものすごく綺麗だ。刃文は小沸出来の直刃調だが刃中は小模様に乱れ、盛んに足が入り、物打辺りには砂流し沸筋が掛かる。刃境は沸でほつれており、これも綺麗だ。このような肌があることから青江物の人気が高まったようだ。刃文は、逆丁子より、このような直刃や、もう少し時代が下がって南北朝期の、匂口の締まった直刃に鋭い小足の入る出来が、落ち着いており好まれるようだ。


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脇差 備中国住人助次 Suketsugu Wakizashi

2017-06-22 | 脇差
脇差 備中国住人助次


脇差 備中国住人助次作

 先に紹介した古青江助次とは時代が大きく異なる。一尺八寸強。大磨上額銘とされたもので、脇差としては長目であることから、高齢の武将の刀としての持ち物であったろうか。製作の時代は南北朝中期。柾目を交えた縮緬状の地鉄は、微細な地沸で覆われ、肌目が自然な地景で綺麗に起って見え、これに映りが加わって極上質の肌合い。刃文は匂出来の直刃ながら刃境が穏やかに乱れてほつれ掛かり、小足が入って物打辺りは沸筋が流れ、細やかな働きで濃密。帽子はそのまま乱れ込んで先は棟に抜けて返らない。斑状の映り立つ地鉄と、刃境の細やかな働きが魅力だ。

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短刀 備中國右衛門尉平吉次 Tsuguyoshi Tanto

2017-06-20 | 短刀
短刀 備中國右衛門尉平吉次


短刀 備中國右衛門尉平吉次作嘉暦三年十一月日

 七寸九分五厘、振袖茎、わずかに内反りとなった姿形が良く、引き締まった印象の短刀。地鉄は板目肌が強く現れながらも杢目が交じり地沸が付いてしっとりとした質感がある、極上質。映りも穏やかで変化に富み、これらが働き合って地斑となる。刃文は小足の入る直刃。区下を深く焼き込んでごくごく浅く湾れを交えて上品。焼の深い帽子は先がわずかに掃き掛けて返り、ここも品位が高い。

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刀 青江 Aoe Katana

2017-06-19 | 
刀 青江


刀 青江

 南北朝時代初期の青江の太刀。大磨上無銘。杢目を交えた板目肌が縮緬状に綺麗に揺れて良く詰んでおり、写真では分かり難いが映りが立ち、しっとりとした質感がある。古青江から百二十年ほど降っている。古青江の時代はもっと肌立つ感があったが、かなり詰み澄んでいる。刃文は匂出来の簡潔な細直刃。刃境にほつれが掛かり、細い刃中には淡い鼠足が入る程度。これも激しい逆丁子出来を想うと間違う。地鉄に特徴がある。


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刀 青江 Aoe Katana

2017-06-17 | 
刀 青江


刀 青江

 南北朝時代初期の青江の太刀。大磨上無銘。杢目を交えた板目肌が縮緬状に綺麗に揺れて良く詰んでおり、写真では分かり難いが映りが立ち、しっとりとした質感がある。古青江から百二十年ほど降っている。古青江の時代はもっと肌立つ感があったが、本作はかなり詰み澄んでいる。刃文は匂出来の簡潔な細直刃。刃境にほつれが掛かり、細い刃中には淡い鼠足が入る程度。これも激しい逆丁子出来を想うと間違う。縮緬状の地鉄に特徴がある。


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太刀 貞次 Sadatsugu Tachi

2017-06-16 | 太刀
太刀 貞次


太刀 貞次

鎌倉後期の青江貞次と極められた太刀。貞次は、鎌倉後期から南北朝期の青江派の中心的な鍛冶。二尺三寸強だから、もちろん磨り上げられている。かつて、青江派の分類は、鎌倉前期以前の古青江、鎌倉中期以降の中青江、南北朝時代の末青江と三つに分類されていたが、現在では、鎌倉前期以前の古青江、鎌倉中期以降南北朝時代までの青江の二つに分けられているだけ。その後、青江派は、備中を巡る権力者の移り変わりなどによって、存在感が薄れてゆく。室町時代には青江派と呼べる、その特徴を明確にした鍛冶は見当たらなくなる。ここが不思議なところで、青江派の人気の一つにもなっている。青江鍛冶の特徴は、鎌倉初期の古青江より鎌倉中期以降南北朝時代の青江鍛冶によって強くなっている。各地の鍛冶の特徴が、鎌倉時代においてより強められたように、青江においても同じことがいえる。縮緬状に良く詰んだ杢目交じりの板目肌に段状あるいは斑状の映りが立ち、直調の刃文に逆がかる小足が入り、南北朝期にはこれが強く際立って火炎状になるものもある。本作は、それらの特徴を良く示している。





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太刀 助次 Suketsugu Tachi

2017-06-15 | その他
太刀 助次


太刀 助次

 鎌倉前期の古青江助次。身幅肉置きともにたっぷりとしていて覇気横溢の姿格好。二寸以上磨り上げられているが、二尺四寸強、茎の下方に大振りの銘が刻されている。生茎に近い姿格好が良く遺されてきた。時代の上がる助次の特徴的な銘だ。地鉄は杢目を交えた板目肌が縮緬状に良く詰み、しかも均質な肌目で、穏やかさが溢れている。鎬寄りに映りが叢立ち、それが斑のようにも感じられる。青江の特徴的な地鉄鍛えである。刃文も素晴らしい。端正な直刃に小足が盛んに入り、小互の目調にも感じられるほど。騒がしくなく、上品だ。

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太刀 古青江 Ko-Aoe Tachi

2017-06-14 | 太刀
太刀 古青江


太刀 古青江

 鎌倉時代前期の古青江と極められた太刀。良く詰んだ杢目交じりの板目肌がわずかに肌立つ風があるも、ものすごく綺麗だ。この古調な肌合いが多くの武士を魅了した。備前一文字のような強く杢目や板目の立つ風がなく、しっとりとした感がある。刃文は小沸出来の直刃だが、刃中は穏やかな小乱となっており、匂口潤み調子に渋い出来も特徴的。古青江は鎌倉後期から南北朝期にかけての青江の作風とはずいぶん異なるのだ。

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刀 青江 Aoe Katana

2017-06-13 | 
刀 青江


刀 青江

 備中国の「青江」は何伝でしょうかと聞かれたことがある。青江鍛冶の作風は、近隣の備前のそれとは風合いが異なる。三原物に近い出来があることから、大和伝に含めるという人もいる。古青江は、平安時代に古備前鍛冶から分流したものと推考している方もいるが、断定は難しい。五箇伝と絡めないのが普通だ。「青江」というと、なぜか特殊な刀のように感じられるのである。鎌倉時代中期以前の、古青江は、とても古風であるが、その後から南北朝期の青江の時代に入ると、匂口の締まった直刃出来や逆丁子出来に特徴が強く現れるようになる。話題に上る「ニッカリ青江」などは刃文構成が逆丁子で、燃え盛る炎を想わせる。写真の刀は研磨によって直刃調に見えるのだが、実は逆丁子が交じる出来だ。日本刀の本を見ると、必ず「五箇伝」に関する記述が出てくる。作刀技術は「五箇伝」に必ず収まると考えている方が多いようだが、もちろんそれぞれが影響し合い、他国の技術を採り入れるなどして五箇伝に収まらない作風もできる。そういった五箇伝にこだわらずに、刀工の良さを鑑賞したい。
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